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02.業務連絡は苦手(2)

「よし、準備完了! 話し合いを始めようか」


 意気揚々とそう宣言するコンラッド。しかし、集まっているメンバーがメンバーなので場は静まり返っている。あんまりな反応にイェルドはそっと自身の胃を抑えた。

 だがしかし、コンラッドのメンタルは恐らく鋼で出来ている。全く意に介した様子もなく、沈黙を前向きに肯定と受け取り話し始めた。


「地図を見て察しているかもしれないけれど、イーランド自然公園で多発している変異種と操者の被害についての会議だよ」


 コンラッドの事前説明を引き継ぎ、ゲオルクが粛々と口を開く。


「定期的に自然公園の調査は各ギルドに依頼が回ってくるが、今回はその周期外での大規模調査クエストが我々《レヴェリー》に依頼されている」


 イーランド自然公園はその広さと隠匿性の高さから、犯罪者の温床になりやすい。本来ならば3か月に一度の周期で国からギルドへ調査依頼が出されるのだが、今回はその周期を外れているにも関わらず依頼が下りてきた事になる。

 ちなみにこの大規模調査クエストは王都にある三大ギルドへ交代で依頼される仕組みだ。今回は《レヴェリー》に依頼してきたが、これは次の調査クエストで《レヴェリー》指名だったものが前倒しになった形になる。


「急だったからな、既にサーペンティンを向かわせてしまった。正直、今回はいつもの調査クエストと違って変異種や操者との交戦もあり得るので待機させたがったが……何分、依頼人が非常に急いでいるようだからな。仕方がない」

「という事は、今回は我々Sランカーで調査クエストを分担するのだろうか?」

「ああ、そのつもりだ。が、イェルド。お前のパーティは現状、人数が少なすぎる」


 ゲオルクの指摘に、イェルドは渋い顔をした。

 人材育成が趣味なので育ったギルド員を野に解き放つ癖があるのは重々理解している。自分自身の性質だし。ただ、そう、今のパーティは1年前に入れ替わったばかりなのだ。4人手放して、新しいメンバーが2人。グロリアとジークである。

 グロリアを恐れてか新人が入手し辛くなったのは確かだ。やる気さえあれば腕前はあまり気にしないし、それを含めて育てるつもりだが――孤立していたグロリアに声を掛けたのは結果的に言えば間違いだったのかもしれない。

 彼女に必要なのはギルドで必要とされる知識ではなく、他者との円滑なコミュニケーション能力だ。教える事があまりにも無さすぎるし、イェルドのパーティが取るのは最低限グロリアレベルが必要だと周囲に思われてしまったのも痛い。


 ともかく、今パーティには自分も含めて5人しかいない。ジークが独り立ち出来る程の実力を持っていないので、実質4.5人。これは少ないと言われても何ら反論ができない人数だ。


「おい、回りくどいんだよ。それで何で、今更調査クエスト如きでここに集められてんだ、私は」


 紅葉が苛々とそう問い掛けた。ここでゲオルクが肩を竦める。


「紅葉のパーティから数名、最低でも2人……イェルドに貸してほしいからだ」

「ああ? いんじゃね、別に。私は行かねーけど」

「いやお前は行くな。第三弾の調査メンバーの引率はお前だぞ……」

「そうなの? 聞いてねーぞ、そんな話」

「今からそれを話そうとしているんだろうが……!!」


 ――話が……話が進まない……!

 仕方なくイェルドは口を開いた。正直、この場での権力や地位は混沌としていて、聞かれた事以外を話すと角が立ちそうなのだが仕方がない。


「あー、紅葉。俺に貸すメンバー2人はどうやって決めるつもりだ?」

「お前さあ、イェルド。66期の残り、一人持ってたよな」

「うん? ああ、グロリアの事だな」

「そうだろ? なら、うちのジネットが行くだろうよ。あとは適当に気の合いそうな一人を見繕ってやるよ。まあ、お前は私のメンバーに怪我させるようなポンコツじゃないだろ」


 紅葉のパーティは、彼女の意見にあまり反発しないのがデフォだ。誰か適当に選出しろ、と話し合いが得意なメンバーに命令さえ出して貰えれば最善の『誰か』が派遣されてくる事だろう。

 尤も、敢えて分かり切った事を聞いたのは会話の悪い流れを断ち切る為だった訳だが。


「話はまとまったみたいだね。それで、いつもの大規模調査とは違う所があるから説明するよ。えーっと、恐らく操者や変異種が公園内に潜んでいるから……彼等も討伐、捕縛してくれるかな。ああ、『生死問わず』ではないから殺さないでね、人間は」

「了解」

「変異種の能力も未知数だし、駄目そうだったら即撤退。手分けして山狩りすると思うけれど、すぐに逃げられるように周知しておいてね。《通信》が使えないかもしれない獣人は一人にしない方がいいな」

「うるせーな、分かってる事をグダグダと」

「まあまあ、落ち着いてよ紅葉さん。念の為の確認だから」


 紅葉に噛み付かれてもコンラッドは笑みを絶やさない。やはり、ギルドとは変人ばかりが集う場所である。


 こうして、出発前に再度声を掛ける事でまとまり、解散したのだった。地味に自パーティに誰がゲストで来るのかを考えると胃痛が始まったが、グロリアと会話ができるならば誰でもいいと思い直す事にした。


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