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01.業務連絡は苦手(1)

 Sランカー会議。

 《レヴェリー》におけるトラブル発生時、稀にギルドマスターの命令で開催される行事である。現在、ギルドに3人しかいないSランクが一堂に会する混沌とした会議なのだが――


 ――行きたくないなあ……。

 内心でイェルドはぐったりと溜息を吐いていた。これはかなり昔から気付いていたのだが、ギルドというのは変人が集まりやすい。そしてその変人たちの頂点に立つのがAランカー以上のギルド員という訳である。

 何が言いたいかと言うと、常識が通用しない手合いとの話し合いは非常に精神的疲労を覚えると、そういう訳だ。が、流石に無視する訳にもいかないので参加はするのだけれど。


 そうこうしている内に、指定の会議室に到着した。時間はギリギリなので憂鬱な気分で無駄に荘厳な扉を開けて中へ。

 意外にも既に着席し、会議の開始を待っていたのは鬼人の女性一人のみだった。が、当然それが誰なのか分かっているイェルドは内心で数度目になる溜息を吐いた。


「――やあ、紅葉。早いな」


 鋭利に輝く2本の角。恐ろしく整った顔立ちは、切れ長の目のせいで冷たい印象があまりにも強い。また、イーランド大陸ではとても珍しい着物なる服装は、それだけで周囲の視線を引く事だろう。赤黒い艶やかな長髪はまとめられる事無く、無造作に背中辺りにまで垂らされている。

 そんな彼女の鮮血のような赤い瞳がギロリとイェルドの方を見た。彼女は常に殺気立っているのでその程度で怯んだりはしないが、嫌な緊張感である事に変わりはない。


「何だ、お前かよ。でもまあ丁度良かった、暇だから喧嘩しようぜ」

「喧嘩は宣言して始めるものなのか? いやいや、もう会議が始まるし、何より疲れるから勘弁してくれ……」


 そうこれだ。

 《レヴェリー》の鬼女と名高いSランカー、紅葉。鬼人は元々喧嘩っ早い性格の者が多いが、彼女はそれの更に上を行く。常に強者を求め続けるバトルジャンキーであり、血を見るのが大好きな人格破綻者なのだ。


 失礼にならない程度の距離を空けて、空いている椅子に座る。また彼女が余計な事を言いださない内にと、こちらから話を振った。


「俺達だけか? サーペンティンがいないな」

「ああ? あの爬虫類野郎ならもう出かけたらしいぜ。さっき、コンラッドのヤツがそう言ってたから間違いねーよ」

「爬虫類野郎……。それは本人の前では絶対に言わないでくれよ。喧嘩どころか、殺し合いになる」

「へえ! 良い事を聞いたな、今度そう呼んでみるわ」

「はあ……」


 Sランカー、3人目は竜人だ。爬虫類で間違ってはいないのだろうが、彼等はエルフをも超える超命種。地雷がどこに埋まっているかも分からないので迂闊な事は言わないで貰いたい。竜人とはプライドがかなり高いのだ。

 そして更に補足を加えると、紅葉が言っていたコンラッドという人物はサブマスターの事だ。《レヴェリー》本部はコンラッドとゲオルクの2人でサブマスターを務めている。ギルド員の人数が多いので、2人に増やしたらしい。


 ――と、不意に扉をノックする音が響き渡る。

 返事は求めていなかったのだろう、扉がすぐに開かれた。中にいる人物を驚かせない程度の処置である。


「やあ、お疲れ様! みんな揃っているかな?」


 爽やかにそう言って入室したのはサブマスターの一角、コンラッド・アストリー。彼はギルドにあるまじき超が付く程の善人だ。これはイェルドの個人的な見解だが、彼は騎士団の事務などをやっている方が性に合っているだろう。

 続いてゲオルクも不機嫌そうな顔で入室してきた。サブマスター達は仲が悪い。というか、ゲオルクが一方的にコンラッドを嫌っているので空気は常に険悪である。

 もう既にお腹一杯なのだが、まだ会議すら始まっていない事にイェルドは深く絶望した。


「イェルドさん、お久しぶりです。さっき覗いた時はいなかったので……」

「ああ、久しぶりだな」


 サブマスターの管轄的に、イェルド自身はゲオルクと話す事の方が多い。なのでコンラッドとまともな会話をするのは1か月ぶりくらいだろうか。

 が、ここで紅葉が不満そうな声を上げ始める。


「おい、とっとと始めろよ」

「ああ、ごめんね紅葉さん」

「飽きてきた……」


 紅葉は飽き性だし、そもそも会議に向く性格ではない。だがあんな性格でもSランクパーティを率いるリーダーである為、こうして話し合いの場に引き摺り出されているのである。彼女の仲間には会議に向く人材もいるのだし、そろそろ代理出席を認めてもいいのではないだろうか。

 思考を飛ばしていると、今度は黙々と作業していたゲオルクが刺々しい声を放つ。


「コンラッド。サボっていないで手伝え」

「ああ、ごめんね」


 どうやら彼等は巨大に印刷したイーランド自然公園の地図を広げているらしい。既に何の為に呼ばれたのか分かった気がしてしまい、イェルドは苦笑した。


「紅葉、どうやら操者もとい変異種の件で呼ばれたみたいだな」

「何それ」

「えっ……。お前達も変異種と戦ったらしいじゃないか」

「どれの事だよ、クソ雑魚過ぎて覚えてないわ。楓かジネットに聞いてくれや、そんなん」

「ええ……。危機感が無さすぎるだろう」

「そりゃそうさ。お前みたいに、うちはコロコロメンバー入れ替えたりしねーし。そんなんいちいち気にしてたら、気持ちよく思い上がった馬鹿をぶち転がせないだろうが」

「うーん、人選ミス。やっぱり代理出席制度、必要だと思うんだよなあ……」


 どうか早めに会議が終了しますように。そう祈らざるを得なかった。


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