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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
5話:力不足を実感する瞬間
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12.急に驚くような話をしないでほしい(3)

「グロリア、俺達も手伝おう」


 意気揚々と一仕事終えたグロリアその人に声を掛けるリーダーの背に続く。相変わらず何を考えているかまるで分からない彼女は、その無感情な目をこちらへと向けた。

 こうしてかなり静かな状態で始まった、捕縛用の縄で人を縛りあげる作業。ただ、ここで一番最初に昏倒させられた敵の女が目を覚ました。当然、身体の自由は奪っているので問題はないが――


「タイミングが良いな。彼女に話を聞いてみるとしようか」


 イェルドの一声により、ジークも、当然グロリアもその女の元へと集まった。これだけ操者に関するクエストに駆り出されているのだ。何が起きているのか、多少なり知る権利があると思ったのも一つの理由である。

 どこのギルド員だかは知らない女だが、流石にイェルドというSランカーは知っていたらしい。顔を強張らせている。


「お前達には聞きたい事がたくさんあるんだが……。そうだな、まずはどこのギルドに所属しているか聞こうか」


 一瞬の沈黙の後、案外あっさりと女はその問いに答えた。観念している様子で、派手な抵抗をする気配は無い。


「……あたし達はギルド《アリアナ》のメンバーよ」

「――王都の端にある、個人経営のギルドだな。そうか、闇ギルドに転向したのか。それで? 何故、スケルトンロードの変異種を操って自然公園を徘徊していたんだ?」

「い、依頼で……」

「どんな依頼だろうか?」

「あの魔物を使って騒ぎを起こすクエスト……」

「どうしてそんなクエストを?」

「し、知るわけないでしょ。あたし達はこの自然公園でスケルトンロードを引き渡されて、経過を観察していただけ」

「成程。実験か何かか? 当然、違法だな」


 ここで暫し考えるようにイェルドが言葉を止めた。ここで、珍しくグロリアが口を開く。

 彼女が自らの意思で何らかの言葉を発するのはかなり珍しい事だ。基本的にこちらから何か聞くか、もしくは事務的なあれこれでしか話をしない。


「――イェルドさん、竜人の件を確認していません」

「あ。ああ、そうだったな。すっかり忘れていた。お前達の仲間か、依頼人に竜人の男はいるだろうか?」


 女は困惑したように首傾げた。


「竜人?」

「その様子ではいなさそうだな。だとしたら……キリュウを襲った竜人は、何なんだ?」


 考えても分からないものはどうしようもないと判断したのか、イェルドはそのまま話題を切り替えた。


「そういえば、お前達の依頼人は? 誰からこのクエストを受注したんだ」


 ここで女が初めて口を噤んだ。依頼人の情報を吐いてしまうなど、三流も良いところなので流石に躊躇いがあるらしい。尤も、今更としか言いようがないが。

 ただ、女は自身の身の安全を優先する腹積もりらしい。

 後ろに控えるジークと、そして自分を秒で伸したグロリア――最後にイェルドを見、諦めたように口を割る。


「――ギルド・《ネルヴァ》を名乗っている連中からのクエストよ」


 空気が一変する。流石のイェルドも驚いた顔をしていたが――何よりもジークを驚愕させたのは、珍しくグロリアその人の感情が顔に出ていたからか。

 それまで完璧無比な無表情であった彼女の表情が僅かながらに変化するのを、或いは初めて見たかもしれない。大仰に驚愕などはしなかったけれど、その無機質な目が瞬間的に見開かれたのを確かに見た。


「……意外な名前が出たな。《ネルヴァ相談所》とは別組織のようだが……わざわざギルドにネルヴァの名前を使うあたり、関係者か? そもそも別ギルドのクエストを、更に別ギルドである《アリアナ》に横流しする意味が分からない。自分達で処理すれば良いものを、何故よそに?」

「し、知らないわよそんなの。そもそもギルドを自称しているだけで、《ネルヴァ》なんてギルド、あるとは思えないし……」

「それは確かにそうだな。縁起でもない名前だ」


 ――《ネルヴァ相談所》。

 ギルド全体を震撼させた何でも屋であり、2年程前に相談所自体は解散してしまっている。ギルドを名乗らない事により、ギルド協会から課せられたルールを守らない無法者集団。ジーク自身はその組織についてあまり詳しくは無いが、相談所がまだ存在していた頃からいるギルド員で彼等の事を知らない者はいないくらいに有名な組織である。

 ただ――先にも述べた通り、解散しているのだが。

 有名な名前なので後発のギルドがわざわざその名を名乗るのはあまりにもリスキーと言えるだろう。


「――模倣犯……いや。こういう言い方は良くないな。《ネルヴァ相談所》は確かに異質な組織ではあったが、犯罪に加担していた訳ではない。あくまでギルドの枠に入らなかっただけの事だ」

「確かにそうですね。――グロリアは、どう思う?」


 興味本位で彼女に話を振ってみた。謎の緊張感に襲われ、何故か心臓が早鐘を打つ。

 既にいつも通りの鉄面皮を張り付けた彼女はジークを一瞥すると、淡々と言葉を口にした。


「そんなギルドは存在していないと思う」

「そ、そうか……」


 いまいち何が言いたいのか分からなかった。断定的な言い草なのも謎が深まるばかりだが、グロリアが意味のない言葉を発するとも思えないので、意図があっての事なのだろう。


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