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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
5話:力不足を実感する瞬間
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09.巨大な骸骨(5)

 目標――スケルトンロード・変異種の《防壁》破壊。その後、本体を叩く。

 後者に関しては手の空いた誰かが請け負う可能性あり。


 以上を自らに言い聞かせたグロリアはこっそり深呼吸し、ようやっと作業に取り掛かった。案の定、スケルトンロードはめちゃくちゃに魔法を作成、放つという動作を繰り返している。疲れている様子はなく、魔力が無くなるのを待つのが無謀だと物語っているようだ。

 先にイェルドが力尽きるのは自明の理。迅速にミッションを達成しなければならない。


「――始めます」


 《倉庫》を起動。不要となった盾を収納し、代わりに大斧を取り出す。


「斧!? 物理で割りに行くのはいいが、それは持ち上げられるのか?」


 困惑するジークに対し、グロリアはその首を横に振った。そう、この斧は振るうどころか自分の腕力では持ち上げる事すらままならない。

 当然、《倉庫》から取り出された斧を支える事は適わず、重力に従って刃から地面に落下したそれは深々と土に突き刺さった。


 ところでこの斧には中サイズの魔法石が2つ、連なるようにして設置されている。刃も柄も大きいので難なく魔法石を嵌めるスペースがあったからだ。

 ――別にこの魔法社会、当人が力持ちや馬鹿力である必要などない。魔法で代行させればいいのだ。


 魔法石1つ目。《軽量化》を起動。

 読んで字のごとく、対象を非常に軽くする魔法だ。主に荷物運搬などに用いられる事が多い。それを掛けてしまえばあら不思議、あんなに重くて持ち上げる事すら出来なかった斧を片手で軽々と持ち上げる。

 空気のように軽くなったそれを肩に担ぎ、スケルトンロードを見上げる。


「――ああ、なるほど。投擲は得意か、グロリア? 難しいようなら、俺かジークが代わってもいいぞ」


 作戦を察したらしいイェルドがそう申し出てくれたが、首を横に振る。2つ目の魔法式を起動するタイミングがあるので、自分で調整したいからだ。


 スケルトンロードが作成した魔法式を全て吐き出し終わり、束の間の静寂が訪れる。

 視界が明瞭になった今がチャンスだ。緊張で汗ばむ手を拭う暇すらなく、グロリアは斧を宙へと放った。軽くなったそれは重力を感じさせないくらい軽やかに宙を舞い、やがてスケルトンロードの頭上へと到達する。


 ――今!!

 心中で叫び、2つ目の魔法式《重量化》を念の為、二重使用する。端的に2回分の魔法を掛けられた斧は元々の重さを超え、最早獣人でさえ振り回せない程の重量を得る。


 それがスケルトンロードが張り巡らせる《防壁》へと真っすぐに、落下した。

 余程分厚い《防壁》だったのだろう。形容し難い破壊音と共に、破壊されたそれがガラスのように粉々に砕ける。光の粒を吐き散らしていたそれが、魔力へと戻り、大気中へ消えていくのがうっすらと見えた。

 また、斧のダメージはそれだけに留まらない。辛うじて脳天への直撃を回避した変異種の左腕を跳ね飛ばし、ギロチンよろしく切断。骨が引き潰れる何とも不気味な音が盛大に響き渡った。


 表情など無いはずの骸骨が確かに焦ったような顔色に変わったような気がする。本体を叩くのなら今だ。

 ジークにその事を伝えようと振り返った瞬間、顔の真横を凄まじい勢いで何かが通り過ぎて行った。これは見た事のある光景だ。ただし、今この視点ではない。


「――たまに使うと、物凄く難しいなコレ」


 はにかむように笑ったイェルドの隣には、グロリアが普段使っているような大き目の弓――魔弓が鎮座していた。流石はSランクのオールラウンダー。使用者が少ないと有名な魔弓でさえ、ある程度は使えるらしい。

 今顔の横を通って行ったのは風撃をベースに作った、標準的な矢だった。

 それを受けてゆっくりと変異種の方を振り返る。


「……!!」


 脳天に風穴が空いた真っ赤な骸骨の王が思ったよりもずっと軽い音と共に地面に伏した。当然だが頭蓋骨の中身はない、空っぽだ。けれど急所である事に違いはなかったらしい。


「イェルドさん――」


 何か言いかけたジークの言葉をしかし、突如険しい表情へと変わったイェルドが遮った。


「――操者だ、追え!」


 リーダーの視線を辿り、人間の存在に気が付く。ほとんど条件反射でグロリアは駆け出した。人は、逃げる獲物を追いたくなるものである。

 一歩遅れてジークも駆け出し、そして魔弓を《倉庫》に収納したイェルドが続く。


「待て、グロリア! いや足が速いなヒューマン……!!」


 身体能力はヒューマンとさほど変わらないはずのエルフ・イェルドがぼやくのを聞きつつ、走る速度は落とさない。逃がしたらまた捜さなくてはならず面倒だからだ。


 ***


「イェルドさん、俺がグロリアを追います。後から付いてきて下さい」

「わ、悪いな……。しかしグロリア、本当にヒューマンか? なかなかの身体能力だ」


 ボヤくイェルドを尻目に、大盾を持ったままのジークはグロリアの背を追って更に走る速度を上げた。盾が邪魔で走り辛いが、生憎と獣人は魔法との相性が悪い。走りながら《倉庫》を起動し、この大盾を収納するという芸当は難しい。

 それにしても、この状態でグロリアに追いつけるだろうか? 今のところ、距離が縮まっていない。

 スイスイと木々を避けて前へ進む姿を見るに、彼女は身体能力が高いのではなく身体の使い方を熟知しているのだと思われる。自由自在に自身の身体を制御下に置いている、そんな印象か。


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