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06.そこまで考えてない(2)

 威嚇射撃にてその場の全ての視線を集めたグロリア。その指示により、ジークは離脱のタイミングを伺っていた。

 この変異種・エーミュウは非常に賢い。遠距離攻撃の方が厄介で、ジークが足止め要員である事を分かっているのだろう。ずっとグロリアの様子を気に掛けている。

 ――いや、このまま横にずれてエーミュウを通してしまえば、グロリアが何かをする為の道を空けられるんじゃないか?

 ただそうなると、グロリアの作戦がミスした時に誰も彼女を守る者がいなくなる。やはり二人編成は色々と無理があるな、と痛感した。


 もう一度、グロリアの方を見る。それは本当に足止めを止めて良いのか、という確認だ。彼女ははよ退けと言わんばかりに、もう一度同じジェスチャーをした。相変わらず表情は無だ。

 ただ、その手には新たな矢を持っている。日光を反射してキラキラと輝いており、先程までの矢とは見た目からして異なっているようだ。


 グロリアは同じ失敗を繰り返さない。

 天才の体現者である彼女が、凡人のように同じ間違いを何度も繰り返す事はないと、同じパーティに入ってからこっち嫌と言う程理解させられた。

 ならば今この瞬間もそうなのだろう。


 決意したジークはエーミュウの攻撃を避け、横に回避した。そうなると魔物とグロリアの直線上に遮るモノは無くなる。

 ――よし、道は空けたぞ。後は頼んだ。

 そう頭の片隅で祈りつつ、背後を見ようとした瞬間だった。顔の横すれすれを、目を疑う速度で何かが通り過ぎて行った。速すぎて目視は出来なかったが、音からして矢である。


 飛来した矢はエーミュウの硬質な羽を貫通。今度こそ、変異種であり親玉でもあるそれを射貫いた。

 ――尤も、あと少し横に退けるのが遅かったらジークごと射貫かれていただろうが。あまりにも危険過ぎる。待たせたのを怒って皆殺しにしようとでも思ったのか、或いは人に中てない自信があったのか。どちらもあり得そうで少し恐い。


 それにしても、どのようにして魔法攻撃をエーミュウに通したのだろうか。矢の効果は最初に使っていたそれと変わらない。薬草を駄目にしてしまわないよう、配慮された、威力自体は全然可愛くない矢。これも同じように周囲に被害を与える事無くエーミュウのみを貫いている。


 好奇心から変異種エーミュウに刺さったままの矢を見て、ジークは僅かに目を見開いた。そもそも魔法で出来た矢は、使用後に大気中の魔力に溶けて消えてしまう。が、これは依然としてその場に残ったままだ。

 キラキラと細かく光を反射する矢に恐る恐る手を触れてみる。冷たい。触れた指先に水分が付着した。即ち――これは氷で出来た物理的な矢だ。


 ――あの人ってマジモンの化け物なのかもしれない。

 魔法の属性は地水火風、光闇の6つしかない。氷という属性は存在しないので、属性を2つ混ぜて生成する必要がある。ジークは魔法学に明るくないが、多分「風+水」の式で氷魔法に変換出来たはずだ。

 そもそも魔法を混ぜ合わせる行為ですら、常人には難しい。故に矢の生成と属性魔法の同時使用が求められる魔弓ユーザーは数があまりにも少ない事で有名だ。

 ただ、彼女は魔弓を使えているという段階の遥か上を行く。少なくともこの氷の矢は「矢作製+水撃+風撃」の魔法式で成り立っている。既に3つの魔法を合成している時点でギルド員にしておくのが勿体ないレベルだ。

 加えて魔弓は本来、物理的な矢を放つ武器ではない。これに関しては暴発したりしなくて本当に良かった。前にもやった事があるのだろうか? 謎である。


 考えていると、ふと気配を感じて顔を上げる。


「!!」


 目の前に件のグロリアが立っていた。気配がなさ過ぎるし、相変わらずの無表情且つ無口で考えも読み取れず、普通に恐ろしい。これがその辺にいるヒューマンなら何てことは無いのだが、強者の割に感情があまりにも読めないと不安になってくる。

 しかし、今回の功労者は彼女以外にあり得ない。心を落ち着けて、極めて自然を装いつつ声を掛ける。


「おつかれ。助かったよ」


 そんな彼女はあまりにも小さく頷いて、ジークを一瞥したのみだった。待たせた事に関して怒り心頭かと思われたが、別にそういう訳でもないらしい。


 内心で無事にクエストが終了した事を喜びつつ、再度隣に並ぶグロリアを見上げる。無機質な目は最後に仕留めたエーミュウを見つめていた。


 グロリア・シェフィールド。

 ギルド・《レヴェリー》きっての技巧派。人と接するのを拒否する孤高の存在であり、全てを自身一人だけで解決する天才。少し長く《レヴェリー》にいるギルド員なら、彼女を知らない者はいないだろう。

 本来ならパーティを組まなくても独りで立てるにも関わらず、ギルドの運営方針により集団に縛り付けられる人だ。

 それでもはやり、他者とのコミュニケーションを放棄するだけの力がある、それを選べる点においては羨ましいとさえ思う。

 ――俺もいつか、こんな風に……。

 見過ぎたせいだろうか。不意にそのグロリアがこちらを向く。全くの無口である彼女は、珍しく自らその口を開いた。


「帰ろうか」


 ――やはり待たせてしまっていたらしい。


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