06.巨大な骸骨(2)
「――大まかな作戦だけでも立てようか」
少しの間、徘徊するスケルトンロード・変異種を観察していたイェルドが静かにそう呟いた。血のように赤い、巨大な骸骨。索敵能力は大狼には劣るようで、こちらに気付いている様子は全くない。
急に襲われる心配が無いので、予め各自の動きを決めておこうとそうリーダーは言っているのだ。反論する必要もないのでグロリアは頷きを返した。
「かなりざっくりだが……まずはジーク。俺達で隙を作るから、スケルトンロードの《防壁》を割ってくれ。あれがある限り、何も始まらない」
「了解しました」
「大盾でぶん殴れば割れるとは思うが――保証は出来ないな。外見では、あの《防壁》がどのくらいの強度を持っているのかは推し量れない」
そして、とイェルドは悪戯っぽく笑い、自らを指さした。
「俺は基本的に魔法防御系の役割に就こう。まともにスケルトンロードの魔法を食らえば、即死もあり得る。グロリアに任せてみてもいいが、もっと余裕がある時にそういう事はさせたいからな」
「はい」
――それは本当に助かる! サポートは苦手じゃないけど、皆様とは1年弱の付き合いで、どのくらいフォローしたらいいか分からないし!
サポートはやり過ぎるくらいで丁度いいらしいが、前所属の連中が軒並み戦闘のプロ集団みたいな所があったので、サポート能力は正直あまり育っていない気がする。
そこではたと、グロリアは自分が置かれている立場に気付いた。
――ん? あれ? じゃあ、私の役割は何?
心を読んだのかというようなタイミングで、リーダーからその問いに対する答えが寄せられる。
「グロリアは《防壁》が割れ次第、本体を叩いてくれ。《防壁》さえ無くなれば、魔弓でも問題なく攻撃が通るはずだ。俺もグロリアも、性能がやや魔法寄りだからな。本当は物理アタッカーが一人欲しかったが、そうも言っていられないだろう」
「……承知しました」
やろうと思えば物理アタッカーも出来はする。ただ、腕力が足りない。大きな魔物を相手にするという事は、切断しなければならない部位や毛皮等が厚いという事に直結する。スケルトンロード・変異種も比較的物理攻撃に弱いとは言え、あの巨体だ。それなりの強度を兼ね備えているだろう。
それに、骨に肉は付いていない。肉を裂き、怯ませる戦法は使えないのだ。であれば、魔弓で攻撃した方がまだ望みがある。
それにしても、人数が少ない討伐戦であるが故に一人一人の責任が重すぎる。イェルドは言わずもがな、ジークも緊張した面持ちだ。当然である。彼が《防壁》を突破しないと、何も次の作業へ移行できない上に防御担当であるイェルドに多大な負担を掛ける事となってしまう。
勿論、実質トドメを刺さなければならないグロリアも同様だ。緊張で朝食べた物を全て吐き出しそうである。トリなのもよくない。折角、《防壁》を突破できたのに仕損じましたではお話にならない。
そんな後輩達の気持ちを知ってか知らずか、イェルドは屈んでいた姿勢から真っすぐに立ち上がった。
「よし、それじゃ挑んでみるとするか。大丈夫、俺が付いているから死にはしないさ」
「はい……!」
ジークの気合十分な返事を聞いたイェルドが移動を開始、それにグロリアとジークも続く。流石に正面から奇襲を仕掛けるのは分が悪すぎるので、大きく迂回。スケルトンロード・変異種の背後に付く。
「グロリア。グロリアは、あまり近づき過ぎないでいいぞ。スケルトンロードの魔法攻撃は基本的に範囲攻撃だ。まあ、魔法だから当然だな。固まっていれば、それだけ全滅の危険性が高まる」
「はい。自分の身は自分で守ります」
「流石だ。よし、それじゃあ行こうか、ジーク」
――私は私の身だけ守ればいいのね! それなら大丈夫なはず……。
というか、自分の身も守れないようではイェルドにここまで戻って来て貰うことになり、二度手間だ。失敗は許されない。
ふとジークがこちらを振り返った。
「無理はするな。怪我をしそうなら、俺がイェルドさんを持ってここまで走って戻るよ」
「大丈夫」
――ええ⁉ 優しすぎない? 沁みるんだよな、優しさが。
そんな無様な事にはならないようにしよう。グロリアはそう心中で誓った。イェルドはまさかのケースを想定してか、苦笑している。マジで気を付けろよと言わんばかりだ。
「また後で落ち合おう」
それだけ言うと、イェルドとジークは2人して背後からスケルトンロードに近づいて行った。
――身を守るのは当然だけど、後ろからフォローくらいしないとマズイよね。
無論、自分の出番まで手をこまねいて見ているだけ、という訳にはいかない。それに、多少なり移動しなければ今の距離感では遠すぎる。魔弓があるとは言え、ここは森。木々に遮られて矢が届かないのでは困るのだ。射線を確保しなければならないし、当然だがスケルトンロードだって絶えず移動している。
諸々の事情を鑑み、グロリアは付かず離れずの距離でイェルド達の後を追ったのだった。