05.巨大な骸骨(1)
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最近よく依頼場所となるイーランド自然公園。
今日も今日とて深い自然に溢れており、身体に良さそうな清廉とした空気が満ちている。見渡す限りの木々だが、どうやら前回とは違う場所に転送されたようだ。
「公園の中央付近だろうか? 徒歩ではなかなか辿り着けない場所だな。ともかく、スケルトンロードは勿論だが潜んでいるであろう操者にも気を配ってくれ」
「ええ。キリュウさんの話では、竜人もいるようですし・・・・・・」
「そうだな。半信半疑ではあったが、キリュウが見間違えるはずもないだろう。本来ならばあり得ないが、竜人はいると思った方がいい」
などと会話を繰り広げる仲間達を、グロリアはぼんやりと観察する。
比較的落ち着いている様子のリーダー・イェルド。流石の貫禄と言ったところか、気負っている様子も無ければ当然怯えている様子も無い。冷静に周囲を見回しながら歩を進めている。
ジークはと言うと、彼はそれなりに緊張しているようだった。忙しなく周囲を見回し、イェルドから必要以上に離れないように努めている。それでも、騒がないあたり同世代にしてはかなり落ち着いている部類だと思う。
――うーん、それにしても操者かあ・・・・・・。正直、魔物より対人の方が嫌だなあ。加減しないといけないし、知らない人、それも敵と話すのは疲れるし。
「グロリア」
「はい」
リーダーに呼ばれて我に返る。そちらを見ると、彼は少しだけ微笑みを浮かべていた。
「落ち着いているな。丁度良い、お前に《マーキング》の説明をついでにしておくよ。ジークは魔法を使う事はほとんど無いから、あんまり気にしないでいいぞ」
「了解しました」
聞いた事のない魔法だ。新しい技術なのだろう。我等の隣には、職人ギルド《ミスリル》が併設している。そこからの技術という恩恵なのかもしれない。
「使い方は簡単だ。《マーキング》は既にキリュウが付けてくれているから、俺達はそれを追うだけだしな。まずは《サーチ》を起動する」
「はい」
言いながら、既にイェルドは探索用魔法である《サーチ》を起動している。手の平サイズのレーダー用マップに映し出される赤い点――生物の反応だ――は、ない。周囲に生き物は全くいない様子だった。
それを見たイェルドが、僅かに顔を強張らせる。
「なんだ、生物はおろか、魔物も近くにいないのか・・・・・・? スケルトンロードの出現で、この場からいなくなったのかもしれないな」
町などならまだしも、自然公園で生物反応が一切無いのは異常だ。ここは人の踏み入らない自然という領域。魔物もただの生物も、そして人だって往来する弱肉強食の世界だ。それが、何もこの場にいないというのは単純に普段であればあり得ない状況である。
ただ、イェルドのマップを覗き込んだグロリアは目聡くそれを見つけ、特に考える事無く言葉として出力した。
「そのオレンジの端にある点は何ですか?」
「・・・・・・ああ、これが《マーキング》の印だ。ここからが重要な説明だが、マップ外に対象がいても方向を示し続ける。《サーチ》には地理を把握する能力は無いから必要であれば迂回しなければならないが、基本的にオレンジの点を追えば目標に出会えるはずだ」
「了解しました」
「《マーキング》の付け方は・・・・・・まあ、魔法を撃つだけだな。グロリアは魔弓も扱えるし、何も問題は無いだろう。あれよりずっと簡単だ」
――などと説明を受けている内にオレンジの点がマップ端ではなく、徐々にグロリア達の立つ場所に近付いてきた。否、近付いているのはこちらなのだが。
それにいち早く気付いたイェルドが表情を引き締めた。
「近いな。グロリア、ジーク、準備は良いか?」
「はい」
返事をしたジークは既に大盾を手にしている。気が早いような気がしないでもないが、本人曰く《倉庫》を使用しての武器切り替えがスムーズに行えないそうなので、事前準備しているのだろう。
――私は・・・・・・敵を見つけてからにしようかな。サイズ感がいまいち分からないし。
対人においては気にしなくていい、対象のサイズ問題。スケルトンロードとエンカウントするのは初めてなので一旦様子見だ。大狼・変異種くらい思わぬサイズであった場合、下手な武器は取り出した所で再度仕舞う事となるだろう。
「止まってくれ、二人とも」
イェルドの指示で進行を止める。エルフのリーダーはその指で一点を指し示した。目をこらしていると、五感の鋭い獣人が先に事態を把握する。
「あれが・・・・・・スケルトンロード。思っていたよりも大きいですね」
「俺も最初に見た時はそう思ったよ。あの巨体だ、下手に近付けば物理的な力でねじ伏せられかねない。不用意に近付くな」
ようやく、グロリアもスケルトンロードを発見する。みんな目が良い。
隣の木と比較した所、大きさはこの間の大狼・変異種と大差ないだろう。というか、スケルトンロードは大狼と違って縦に長い。実際には四つん這いの状態でそのくらいの背丈があった大狼・変異種の方が大きいだろう。
また、周囲には既に重苦しい魔力の気配に満ちている。これらの魔力は恐らく、スケルトンロードがその身に纏う《防壁》の維持に一役買っているのだろう。