04.情報の共有(3)
などと話をしている内に、医務室からロビーへと戻ってきた。
今日は本当に憂鬱だ。強いと分かっている魔物に、それも朝一で挑まなければならないなんて。とんだ厄日である。本来ならオフだったはずなのに。
そんなげんなりとした気分のグロリアを嘲笑うかのように、次なる憂鬱がその姿を見せる。
「ゲオルクさん、さっきの緊急クエストはこのメンバーで臨もうと思う」
サブマスターの片割れ、ゲオルクがロビーで待ち構えていたのだ。それを分かっていたのだろう、イェルドは気安い調子でそう事後報告する。
Sランク以上の魔物にBランカー2人を伴って行こうとしているイェルドの発言に対し、サブマスターは止めるどころか神妙そうな顔で頷く。いや、明らかにそれでゴーサインを出そうとしているが止めろ。無謀過ぎる。
そんな願いも虚しく、グロリアの祈りとは正反対の方向へと話は進む。
「――そうか、Bランカー2人が心配ではあるが、お前が付いているのならば問題は無いだろう。死人が出ると揉める事が予想される。くれぐれも、死傷者を出してくれるなよ。イェルド」
「ああ、分かっているさ。本来なら、Sランク討伐には推奨されない編成だ。失敗までは辛うじて言い訳出来るが、死者を出すと話は変わってくる」
「話が早くて助ける。くれぐれも頼んだぞ」
現存している通常のギルドは、ギルド協会に必ず所属している。協会の方針に真っ向から反対する事は出来ず、魔物の討伐もある程度のガイダンスに沿って行われるのだ。グロリア自身はそのガイダンスを詳しくチェックした事は無いが、恐らくSランク魔物に関するガイダンスも事細かく存在しているのだろう。
そしてその中に、メンバー編成の項目があり、その項目によると今のメンバーは推奨されない――という事だと思われる。運営側ではないので詳しくは知らないけれど。
勿論、人殺し関連のクエストを受けないと取り決めたのもギルド協会だ。故に今まで戦ってきた暗殺者はギルドでありながら、協会系のギルドではない――所謂闇ギルドというやつなのである。
尤も、協会に従わないから全くの闇ギルドという訳でもない。例えばそう、グロリアがかつて所属していた《ネルヴァ相談所》。形態はギルドに似たようなものでありながらも、協会に属さないので厳密に言えばギルドではないグレーゾーンな組織だった訳である。
初期所属が《ネルヴァ相談所》だったが為に、ギルド員ランクを導入しておらず《レヴェリー》への再就職でランクを取得しなければならなくなった。唯一の手間と言えばそれくらいか。
ああそうだ、と不意にゲオルクが呟いた。
「今回も操者付きの可能性が高い。見つけ次第、捕縛するように。協会へ突き出さねばならない」
「承知。が、正直スケルトンロード・変異種を相手取ってそこまで気が回るかは分からない」
「そうだろうな。だが、お前の事だから結局は全てを解決して戻って来ると思っているぞ」
《レヴェリー》のイェルドへの信頼は厚い。
個性的なSランカー達の中で、ほぼ唯一まともに話が通じる相手だからかもしれない。そして、何より手際と生存能力が高い。人となりも素晴らしい、完璧超人とも呼べる人材だ。そりゃ、誰しもが彼を頼るに決まっている。
「場所はイーランド自然公園だな。やはり木々が立ち並ぶ広大な自然はすねに傷を持つ者が集まりやすい」
苦笑するイェルドに対し、サブマスターが鼻を鳴らして首を振る。
「それに関しては、今に始まった事じゃないな。さあ、クエストへ向かえ。個人的にそういう支援はあまりしないが、今回は転送員に事情を伝えてある。すぐに目的地まで送ってくれるだろう」
「気が利くな。ありがとう、助かる」
軽くサブマスターに会釈したイェルドが、その足を転送室へと向ける。イーランド自然公園はよく依頼地になるホットな場所だ。転送魔法も沢山設置してあり、あまり目的地まで歩かなくて済むのは大変助かる。
「――グロリア」
不意にそれまで黙り込んでいたジークが口を開いた。そちらを見れば、目が合う。
「大変な事になってしまったが、Bランカー同士、頑張ろう」
「うん」
――励ましの言葉が身に染みる!!
何故か彼は一匹狼系だとか言われているけど、全然マシな方だし何なら最低限のコミュニケーションは取れているので問題無いタイプだと思う。真に人として危険なのはグロリアの方だろう。
コミュニケーション能力の低さを侮らないで欲しいものだ。
そうこうしている内に、転送室に到着。既に話を聞いていたのであろう転送員にあっと言う間に案内され、そして流れ作業のように自然公園へと出荷されてしまったのだった。