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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
5話:力不足を実感する瞬間
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03.情報の共有(2)

 悩ましげな溜息を吐いたリーダーはしかし、首を振って一旦はその話を脇に置いておく事にしたようだった。話を次の話題へと移行させる。


「ところでキリュウ、怪我の理由は?」


 ああ、と息の抜けるような声を発したキリュウが肩を竦めた。


「これはスケルトンロード・変異種の偵察中、ローブにフード姿の竜人と鉢合わせしてしまって。攻撃して来たもんで、咄嗟に上手く躱せずに・・・・・・って感じですね」

「竜人? それは、本当に竜人種だったのか?」


 イェルドの疑念は尤もだ。

 竜人という種族は、数いる種族の中でもかなり特殊な存在である。まずそもそも長命種。何事も無ければ数千年を生きる、神秘の存在。

 死生観が掛け離れており、人口が少なく、そして厭世的だ。故にヒューマンやら獣人やら、エルフやらの考えるような俗物的な騒動にあまり興味を惹かれない者が多い。

 端的に言って、人間が巻き起こす騒動を俯瞰して見ているので参加する事はほとんど無いという訳である。尤も、考え方は竜人個人のものでもあるので、その一般論に当て嵌まらない竜人もいる。

 昔の仲間に酷く俗っぽくて皮肉屋な竜人がいたので、個人差は激しいと、グロリアが個人的にはそう思っているだけなのだが。


 ともあれ、イェルドの指摘に対しキリュウは頭を振って竜人だと判断した理由を説明し始めた。


「あー、俺って極東出身なんですけど、極東って鬼人がたくさんいるでしょ?」

「ああ、そうだな」

「鬼人を見慣れてるんですけど、角の形状。それが鬼人とは違ったんですよね。つまり、鬼人以外の角の生えた種族。そうなってくると、後は獣人の一部種族か竜人かになるんですけど、俺を攻撃して来たそいつは即魔法を撃ってきたんで、獣人じゃないかなと。それで、消去法的に残ったのが、竜人だったって訳なんです」

「・・・・・・確かに。その考え方で行くと、相対したのは竜人になるな」

「そうでしょう?」


 リーダーは再び悩ましげな表情を浮かべる。


「竜人、竜人か・・・・・・。あまり相手をしたくないな。基本スペックが高く、長命で、魔法の知識が深い。彼等は特別な種族なんだ、戦闘を避けられるならそれに越した事は無い」

「そうは言っても、操者かもしれないんで出会ったらスルーする訳にはいかないでしょうね」

「それもそうだ。ま、仕方無いな。会わない事を祈ろう。そもそも、たまたま自然公園にいただけかもしれない」

「そうかもしれませんね。この人間の俗っぽい争いに竜人が参加してるとは、俺も思えませんし」


 ――案外、俗っぽい竜人もいるんだよ。おおっぴらに出て来ないだけで。

 候補が数名浮かんだが、わざわざ過去語りをするのもどうかと思ったので口を噤んだ。彼等は今、何をしているのだろうか。元気にしていると良いのだが。


 少し考える素振りを見せたイェルドだったが、やがて何かに納得したのか首を縦に振って顔を上げた。


「行ってみない事には始まらないか。キリュウ、ゆっくり休んでくれ。長丁場になるかもしれないからな」

「はーい。俺は行けないけど、みんな頑張れ~」


 気のない応援をされてしまった。とはいえ、彼は大体いつもこうである。

 適当に別れの言葉を口にし、医務室を後に。廊下を歩きながら会話する。


「どのくらいアテになるかは分からないが、お前達にもスケルトンロード――通常個体の情報を教えておくよ。俺は何度か討伐しに行った事があるが、2人は初めてだろうからな」


 そう言ってグロリアとジークに視線をやったイェルドが苦笑する。一方でジークは険しい顔をしていた。


「スケルトンロードは、元々はスケルトンというBランクの魔物だ。これが成長し、長になる事でスケルトンロードになる。大狼と仕組みは一緒かな。魔法に長けた賢い魔物で、考えて行動するのが特徴だな。通常個体でもSランクの魔物だ」

「Sランク・・・・・・」


 顔をやや青くするジークに、ああ、とリーダーが首を縦に振る。


「俺がSランカーだから、全力で戦って勝敗が五分五分といった所だな。普通なら、SランクとBランク2名で狩る魔物じゃない。だが、俺はお前達の実力を信じているぞ」


 ――もっと疑って掛かって! 私、それを聞いて今、足が震えてるから!!

 今日も今日とて、心中の叫びは誰の耳にも届かない。当然である。


 不安なのはジークも同じだったのか、少し困った顔をして発言した。


「俺は魔法職相手にほとんど無力ですよ、イェルドさん。鋼の盾は魔法を防ぐのに適さないので、足を引っ張るかもしれません」

「そんな事は無いさ。お前は足を引っ張るようなヘマはしないよ、慎重だからな」


 渋い顔をしたジークの目が、グロリアへと向けられる。そして、ふっと肩の力を抜いた。


「グロリア、お前はやる気みたいだな・・・・・・。その自信、俺にも分けて欲しいよ」


 ――え? ごめん、まだ私、何も言ってないよ?


「Sランクの魔物を相手にすると言われても、顔色一つ変えないなんて恐ろしい程の冷静さだ。何だろう、グロリアを見ていると少し落ち着いてくる」


 ――もって慌てて! ヤバいクエストに駆り出されそうになってる事を忘れるな! 何が見えてるかは知らないけど、実際の私は泣き叫んでお家に帰りたいと思ってるよ!

 尤も、度胸がないのでそんな大胆な行動には出られないどころか、恐れ戦くあまり動きも鈍くなっている有様なのだが。

 ともかく、こんな自分を落ち着いていると感じて安心し始めているジークにそうではない事を伝えなければ。落ち着いていられる状況ではないぞ、今は。


「私もスケルトンロードの相手をするのが恐い。帰りたいと思っている」


 ――言えた! やれば出来るじゃん、私! 頑張った! もう今日の気力を使い切って、何もしたくない。

 心地よい達成感に包まれる。が、天国から地獄。次の瞬間、イェルドの口から信じられない言葉が飛び出した。


「グロリア、お前にも恐いと思う心があるんだな。いや・・・・・・俺達に気を遣って、そういう事を言っているんだろう? 現に帰ろうとする素振りはないからな。はは、気を遣わせて悪い」

「そうだったのか。グロリアの冷静さには敵わないな」


 ――帰ろうとする素振りを見せないと冗談判定されるの? 言葉って難しくない? 魔法式の方が簡単だよ、ここまでくると。

 この瞬間、家に帰りたいという気持ちを説明するよりスケルトンロード・変異種討伐の方が簡単かもしれないと血迷った結論に至り、結局いつものようにグロリアは黙り込んだ。


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