02.情報の共有(1)
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再三言うようだが、《レヴェリー》は三大ギルドの一つだ。故にあらゆるサービスが充実している。そしてそれは当然、誰もが使用するであろう医務室も同様だ。
消毒液の独特な匂いが立ちこめる、白が基調の空間。長い仕切り用のカーテンに、寝る為だけのベッド。並ぶ用途不明の薬剤。
まだ朝も朝だからか、人の気配はあまりない。ただしゼロではないので、医務室で休んでいる者がキリュウ以外にも数名いるのだろう。
そんな中、迷い無く足を進めるイェルドに付いていく形で、ようやくグロリアは負傷した仲間であるキリュウと対面した。
右腕に添え木をし、細かな掠り傷がそこかしこに見える。一番酷いのは当然右腕だが、受け身を取り損ねて肌の露出した場所に細かい傷をこさえてしまったのが分かる。
――これは・・・・・・折れてるのかな? いやでも、そうだとしたら医務室じゃなくて病院に行ってるか。
考えていると最初に口を開いたのはイェルドだった。
「おはよう、キリュウ。怪我の具合はどうだ?」
「おはようございます。まあ、ぼちぼちですね。医務室で治癒魔法を掛けて貰えば、すぐに復帰出来ると思います」
「そうか・・・・・・。いや、今日のクエストには参加しなくていい。数日は安静にするべきだな」
「そうですか? いやぁ、今回大変そうなんで寝てていいのはラッキーですね。とはいえ、9時には治癒師も出勤するし、それまで待って貰えれば同行しますよ。パーティメンバーですからね」
「いい、無理はしないでくれ。こっちは大丈夫さ、ジークもグロリアもいる」
「そうです? あー、しかし身体が資本なのに利き腕をやっちゃうのは本当に恥ずかしいですね。はあ・・・・・・」
「だが、それと引き替えにスケルトンロード・変異種の情報を持ってきてくれただろう」
リーダーの言葉に対し、自嘲めいた笑みを浮かべたキリュウは肩を竦める。あんまり納得していない様子だったが、本来の仕事を思い出したのか態度を切り替えた。
「えーと、前提なんですけど、俺が怪我をした理由と変異種はあんまり関係がないんですわ。でもどちらもクエストには関係がある話になりますね。どっちから聞きたいですか?」
「そうか・・・・・・なら、変異種の話から聞こうかな」
「りょーかい。スケルトンロードの通常個体は人間の骨格標本みたいな見た目をしているじゃないですか。だけど、今回の変異種は白骨じゃなくて赤骨ですね。何がどうなって赤くなったのかは分かりませんが、見た目は大分違うと思います。
サイズは、この間グロリアが討伐した大狼・変異種と大体同じくらいですね。まあまあなデカさです。
《サーチ》には引っ掛かるので、捜すのには苦労しないと思いますよ。あの大きさだし。それに《マーキング》を付けておきました。それを頼りにして下さい。
当然、スケルトンロードの変異種なので通常時から《防壁》を身に纏っています。まずはこれを割る必要がありますね」
「そうか、その辺は従来のスケルトンロードとあまり変わらないな」
「まあ、口で説明するのは難しいんで、そう聞こえるでしょうね。それで、ここからは魔法に関する情報なんですけど――まあ、耐性がかなり高いですね。魔法は基本的に効かないと思って下さい。2枠同時使用までしか試せなかったけれど、びくともしなかったので効果が無いと思った方が良いです。
それで厄介なのが、奴が使う魔法は《ミラー》で弾き返せませんでした」
「何だって?」
恐ろしすぎる情報に、イェルドが顔をしかめた。
《ミラー》は一定の魔法を反射する為の魔法だ。グロリア自身もそれなりに使用するので、会話の内容に耳を立てる。
「効かないというのは、どういう風に?」
「機能しなくなるようです。変異種の使う魔法は、《ミラー》をすり抜けるんで、一歩間違えば大惨事です」
「すり抜ける・・・・・・。聞いていたな、グロリア。《ミラー》の使用は禁止だ。怪我をする恐れがある」
「分かりました」
何て有益な情報。グロリアは内心でキリュウにエールを送った。やはりAランカー。滅茶苦茶有能である。
「ああそれと、奴が纏っている《防壁》も異常な固さです。偵察メンバーでは破れませんでした。《防壁》は対魔法に秀でている訳ですが、人間の物理的な力であれを割れるかと言われると・・・・・・微妙です」
「そうか、それは厳しいな。俺も硬い相手に通用する技が魔法くらいしかない。が、今回の魔物は魔法に秀でている・・・・・・。うーん、かなり厄介じゃないか、これ」
肩を竦めたキリュウが更に悪い情報を発信した。
「水を差すようですけど、正直、《防壁》を破った後も大変でしょうね。あの巨体なんで、腕を振り回されるだけでもかなり厄介かと」
「そうだな・・・・・・。最悪、偵察だけで引き上げも視野に入れるか」
――《防壁》を割る方法か・・・・・・。
多分、これさえ割れれば遠くから魔弓で狙い撃ちして問題無い気がする。魔弓の威力は遠距離武器の中でも最高峰だし、全ての武器種の中でも突出した威力を持っている。故に、本体はそれで仕留められるだろう。
問題は《防壁》。魔弓で撃ち出す為の物理的な矢は作れるが、魔弓という武器の持ち味を前排除した矢だ。
大狼・変異種戦では弦に《風撃Ⅰ》をぶち当てて速度と威力を高めてみたが、成功とは言い辛い。その《風撃Ⅰ》の爆発で矢を脆くしてしまい、大狼・変異種の前足をまるっと持って行く予定だったが、威力が大幅にダウン。突き刺さっただけの結果となってしまった。
――今回の魔物、非常に相性が悪そうだなあ。
言わずもがな、イェルドはエルフ。エルフは魔力が高い種族で、筋力はヒューマンのそれと変わらない。物理的な攻撃で一番威力が出せるのは今回に限って言えばジークだ。