15.解散時の変な緊張感(1)
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ギルド《レヴェリー》に戻って来た。捕まえた人間や、押収した品を待機していたサポーターに渡し、簡単に事の経緯を説明する――
そんな事をしていれば、サブマスターであるゲオルク・フォルスターが足早にやって来て顔を見せた。
「ご苦労。どうやら、魔物の討伐だけでは終わらなかったそうだな。話を聞きたい、誰か何があったのかを説明してくれ」
本日はリーダー・ロボ、セシル、柊木、そして臨時参加のグロリアで計4名がクエストに関わっている。サブマスターへの報告を誰が行うかで、視線が交錯した。ややあって、リーダーらしくロボが場を取り纏める。
「俺はウルフ達の相手しかしていないからな! 報告はグロリアと柊木に頼む。俺とセシルは、受付へ完了報告に行こう!」
「了解です。あ、柊木さん大丈夫ですか? 最悪、俺も残っていいですけど」
セシルの問い掛けに対し、柊木はきっぱりと首を横に振った。
「問題無い。説明義務を果たそう。ロボ殿とお前は、受付へ完了報告に行って構わぬ」
「え、そうですか? まあ、そう言うならそれでもいいですけど」
目を丸くしたセシルはしかし、いつも通り軽く肩を竦めるとロボへと付いていった。彼の気持ちは分かる。女と二人きりにしないよう、計らってくれたのだろうが、実はその話はとっくのとうに終わっているのだ。
では、とゲオルクが事務的に話を再開する。
「何があったのかを説明しろ。出来るだけ詳しくな」
経緯を説明すると、サブマスターは常日頃から寄っている眉間の皺を更に深くした。
「魔物を・・・・・・それも、変異種のような特殊個体でさえも操る力、か。俄には信じられないな。魔物は人の言葉に耳を貸さないし、当然命令を利く事もない。召喚した魔物でさえ、召喚士の言う事を聞かないは既に証明済みだ」
「愛玩・・・・・・ペットのように育てた魔物ではないだろうか? 飼い主との信頼関係が築けていれば、例外的に意思疎通が出来るとも聞く」
「その可能性は薄いな。魔物のデータ収集は闇ギルドへの依頼・・・・・・奴等が変異種を手懐けた訳ではないだろうから、闇ギルド員の言う事を聞く必要性は無い。新しい技術と見るのが妥当だろうな、頭の痛い事だ」
そして、とゲオルクは渋い顔をする。
「ここの所、変異種と思わしき魔物の出現が後を絶たない。奴等はどこから湧いて出ている? 数日の間に2体も3体も姿を現すのは異例だ」
それもそうだ。変異種とは本来、見つけようと思って見つけられるものではない。エーミュウに続き、大狼の変異種。あまりにも豊作で、そして唐突だ。
「変異種はとても大きかった。ずっと公園という人がそれなりに行き来する場所に、身を潜めているのは難しいと思います」
珍しくそう発言したグロリアに対し、ゲオルクは肯定的に首を縦に振る。
「全くだ。やはり、ギルド協会に強く調査クエストの発行を求めるべきだな」
調査クエストとは、その名の通り。依頼人は多岐に渡るが、費用も掛かる上にそんなものをギルドで自発的にやるメリットはないので――そう、環境整備などがお仕事のお偉いさんに『立てて貰う』クエストなのである。
しかし、先述した通り調査クエストは何かと費用が掛かる。本当にそのようなクエストが立てられるかと言えば、可能性は五分だ。
「時間を取らせて悪かったな。私も仕事に戻る。お前達は報酬を受け取って、各自休め。身体が資本だ」
それだけ言い残すと、サブマスターはまたもや足早に去って行った。とても忙しそうだ。
そんなゲオルクと入れ替わるように、完了報告へ行っていたロボとセシルが戻って来る。そこで未知の危険に関して思いを馳せていたグロリアはハッと我に返った。
――臨時パーティ解散時は、ゲストがお礼を言わないといけない!!
変異種なぞより、そっちの方が胃を痛める原因だ。この一大イベントを終えねば、緊張からは解放されないのである。
「ゲオルクさんへの報告は終わったみたいだな! いやあ、なかなかにボリュームのあるクエストだった。はっはっは!」
「いや、ホント疲れたんで早いとこ解散しましょ。俺、家に帰ったら冷蔵庫にリンゴ冷やしてあるんですわ」
ロボとセシルが軽やかに言葉を交す。そしてやがて、リーダーが解散を匂わす発言を口にした。
「それじゃあ、みんなも疲れているだろうから、そろそろ解散にしよう!」
――今だっ!!
タイミングを見切る事に成功したグロリアは、ここぞとばかりに発言する。
「今日はありがとう」
「ああ、グロリアも助かった! 正直、魔法職がいなかったら詰んでたからな!」
――完璧なタイミング・・・・・・!! 流石は私、やれば出来る。
素っ気なくはあったが、お礼チャンスを逃さなかったグロリアは内心でガッツポーズした。こういうのが苦手だから、ソロ専門でやって行きたかったと言うのに制度は残酷である。
そんなホクホク顔のグロリアに、唐突にダメージを与えてきたのは今日一日で印象が二転三転した鬼人、柊木だった。
「グロリア殿、出会えて良かった。手合わせの件、前向きに検討して貰えるとありがたい。いつでも声を掛けて欲しい。よろしく頼む」
「えっ!? 柊木さん、変なモノでも食べました!?」
困惑するセシル、仲が良いのは良い事だと非常に前向きなロボ――場は混沌としていたが、全てを見なかったことにしたグロリアは踵を返してその場から離脱した。