07.共同生活力を見習いたい(3)
一瞬だけ魔弓に怯み、捌けた様子のウルフだったがすぐにワラワラと集まって来て包囲網を維持する。
大狼が一頭のみで従える数のウルフではないな、と結論づけた。基本的に大狼一頭に対し、15~30匹程度のウルフで群れを作る。ここにいるウルフなぞ、優に三桁はいるだろう。最早桁からして違う。
変異種の変異した特性により、群れを拡大した可能性もあるが果たして――
「大狼・・・・・・」
考えを巡らせていると、破壊したもののすぐに再構築された包囲網の中に一際大きなウルフがいる事に気付く。その通常のウルフよりも明らかに大きすぎる体躯――何度か目にした事がある、大狼そのものだ。
これが変異種なのだろうか? 見た目もサイズも、いつもの大狼と変わりが無いようだが。
「変異種ですかねえ。俺、大狼なんて1回くらいしか見た事ないんですけど」
「ちょっかい、出してみる」
「えっ? ロボさんに相談は――」
セシルの言葉を最後まで聞く余裕は無かった。
ロボへの報告も考えたが、後ろは後ろで近距離戦の2人が頑張っている。更に大狼の処遇まで決めさせるのは酷だろう。忙しそうだし。何より、普通の大狼なぞ苦戦するような魔物ではない。
また、もし大狼・変異種である場合、どんな耐性を持つのか調べる必要性が出て来る。取り敢えず突いて反応を見るのが手っ取り早い。
グロリアは即座に《矢作製》と《水撃Ⅱ》と《範囲縮小》のサブオプションを付与。魔法の範囲を狭くする代わりに、一点集中型の魔法へと変える。
ウルフの群れなど、頭を討ってしまえば残りは烏合の衆。散り散りになる事だろう。故に、頭が自ら姿を現したのならば、そこへの集中攻撃が望ましい。
魔力によって編まれた弦を、引き絞る。魔力によって固定された弓部は絞る弦の動きで僅かにブレている。範囲を狭くしたので、狙いは正確にしなければ無駄撃ちとなるだろう。
逸る気持ちを抑え、獲物に集中する。ウルフ達がグロリアへと吠え、姿勢を低くして飛び掛かる素振りを見せているが一旦忘れる事にした。まだ距離があるので、慌てる必要は無い。
狙い、弦を引いた感覚、弓のブレ――それらがピタリと重なり合う、瞬間。矢を放つ。
放した瞬間に理解した。この矢は標的の首元を貫き、一撃で仕留めるに足る狙いだったと。妙な達成感と同時、飛来した水の矢は《範囲縮小》の効果でレーザーのように突き進み、想像通りに大狼の首元に突き刺さる。同時に《水撃Ⅱ》の効果が発動、水は弾け、大狼の首と胴体を完全に切り離した。
「マジすか、え、ガチの人じゃん。グロリアさん」
言いながら、セシルが唐突に狙撃銃の引き金を引く。その弾はグロリアを狙って駆けてきていたウルフの1匹の額を正確に打ち抜いた。動く標的に対し、狙撃にしては近すぎる距離で狙い通りに中てる――これはなかなかの腕前だ。
ただ悲しいかな、狙撃銃はやはり多対一に向かない。
倒れた1匹以外のウルフは、当然の如くグロリアへと群がってきた。
「すんません、ちょっと捌ききれないです!」
「分かってる」
申告が遅いものの、見れば分かるので問題無いだろう。グロリアは魔弓を操り、目前にまで迫ったウルフに思い切り弓の部分をぶつけた。魔弓の弓は分厚く出来ている。そう、こんな乱暴な扱いをする他人を見た事が無いが、近付かれれば鈍器としても使えるのである。
鈍い音と共に2メートル程、宙を舞うウルフ。見ていたセシルが唖然とした表情を浮かべた。
「魔弓ってそういう使い方も出来るんですね・・・・・・」
――いやいや、真似しちゃ駄目なやつだよ、こんなん。
そもそも魔弓一本で前線に出るのなら、こんな事が出来るまで魔物に近付かれるのはタブー。足引っ張りの地雷ギルド員認定されてしまう事だろう。
同じ要領で3匹片付けている間に、魔法を起動。
自分自身とセシルを《防壁》内に入れ、それと同時に《水撃Ⅱ》と《風撃Ⅱ》の同時使用により、魔法範囲内に入って来たウルフ達を全て氷付けにする。
「うーん、俺の存在意義がどんどん薄くなってくるなあ。いやあ、グロリアさん噂で聞いてたより大分強いですよね、本当」
「・・・・・・」
セシルの言葉に内心で頭を抱える。だから、そういう正解の分からない言葉を投げてくるな。どう返事しても謙虚すぎる女か、傲慢すぎる女のどちらかにしかなれないだろうそれは。
――というか、あっさり大狼倒しちゃったけど? この群れは変異種の群れじゃなくて、ちょっと大きな大狼の群れだったって事?
視線だけで背後を見る。
ロボと柊木は相変わらずウルフを捌き続けているし、攻勢が止まる気配もない。通常であれば群れの長たる大狼を討伐すれば、勝手に群れは解体されるはずなのだが。
逃げるどころか、群れには動揺すら無さそうだ。
――いや、待って。逃げるというか、更に増えてない? このウルフ達・・・・・・。
うじゃうじゃと倒しても倒しても減らないウルフ。どころか、層が厚くなってきているようにさえ見える。あまりにも数が多いし、生き物である以上動き回っているので正確な数は割り出せないが。