04.変則編成(4)
「あの、ロボ殿。人員を入れ替える事は出来ないのか? その、あの、グロリア殿は大層お強いとの噂だが・・・・・・女性だろう?」
――あー、この人も不安要素なんだよなぁ。
セシルは内心でぐったりと溜息を吐いた。
もじもじとグロリアのチェンジを申し立てているのは、それまで一言も発さなかった柊木だ。顔色は青い。何せ彼は――結構面倒臭いレベルの女性恐怖症だからだ。
が、ロボははっはっはと笑っている。何を笑っているのか。
「大丈夫だぞ! グロリアが女だとか男だとか、些細な事だ!」
「ロボ殿はそうかもしれませぬが、拙者、女人が苦手――」
「そうだけど、尊敬できる相手に男女は関係無いって言ってただろ?」
「それは確かに言った。が、グロリア殿がそうであるかどうかを判断するのは拙者――故に、ロボ殿がそうであるかどうかはあまり関係が無いな」
ここは柊木に便乗する事にしよう。柊木は今回の面子では重要なアタッカー。女性に怯えて機能しないのでは困るのだ。
「俺は柊木さんの言う事も一理あると思いますよ、リーダー。やっぱり、時間をズラして貰っていつものパーティが揃うのを待った方がいいんじゃないですか?」
「そうか? 急ぎで来られるのが一人だけで、それでも2時間待ちだぞ? それに、正直な話アイツも魔法職じゃないし、グロリアはどのみち連れて行く事になると思うけどな」
基本、ロボのパーティは6人揃っている。今回は緊急クエストで自分を含む3人しかいないので、臨時でギルドにいたグロリアが採用された訳だ。
という事もあって、セシルとしては勝手知ったる来られそうなもう一人を待ちたいのが心情だ。上手くロボを丸め込めないものか。
「俺等、グロリアさんの実力も知らないんですよ。身内の贔屓目を抜きにしても、本当に強いんですか? グロリアさん」
「ああ、強いぞ! それに関しては心配しなくて良い。何なら、下手なAランカーを紹介されるよりもずっと良いくらいだ!」
「それはその、どの辺を見て言ってるんです?」
「強さの説明を口頭でするのって難しくない? うーん、強いて言うなら・・・・・・経験の違いだな! 立ち振る舞いを見れば分かるけど、小さい時からずっと戦闘経験を積んでいたのかもしれないな!」
「そうなんですか? え? それは本人がそういう感じだって言ってたんです?」
「グロリアの過去・・・・・・過去は――うん、よく知らん!」
「ええ・・・・・・? まあ、自分の事だとか、話しそうにない人ですよね」
――駄目だ、心配過ぎる。
再度、柊木にも援護をして貰おうとセシルは言葉の矛先を黙っている鬼人の先輩へと向けた。
「柊木さんも何とか言って下さいよ。恐いんでしょ、女の子」
「恐いとは一言も言っておらぬが? ただ、苦手なだけでござる。しかし・・・・・・そこまでロボ殿が言うのであれば、拙者が折れるほかあるまい」
「え!?」
「セシル。お前もリーダーの意見に反対ばかりするのは止めるように。第一、グロリア殿と交代出来る人材もおらぬ。大狼・変異種をいつまでも放置出来ぬ故、これ以上の討論は無駄でござるな」
「うーん、柊木さんってそういうの厳しいですよねぇ」
組織社会を忠実に踏襲する柊木があっさり折れてしまったので、本当にこれ以上の反抗は無意味になってしまった。せめて、全滅しないよう逃げる手段だけは確保しておくと内心で誓う。ギルドのクエストで死亡などごめんだ。
そんな訳で会話が途切れた、丁度そのタイミングで噂のグロリアが帰還した。その姿を見て、誰もが目を丸くする。
「――戻ったよ」
ジャラジャラという魔法石同士がぶつかって奏でる音。
それまで最低限のアクセサリーを身に付けていたはずの彼女は、今や走れば音が鳴る程に大量の魔法石を所持していた。ベルトは2つに増え、バングルも2つに。魔法石はそこそこの大きさがあるので、少しばかり重そうだ。
見てすぐに分かる、ゴリゴリの中距離魔法アタッカー装備。こんなに露骨なのも、昨今では珍しい。あまりにも重い装備だと距離を詰められた時に対応が遅れるので、こんなにゴテゴテの装備を持参する者が減ったのである。
今や、こんな装備でクエストに挑もうなど何らかの挑発行為だと取られてもおかしくない。彼女のメインジョブは確か、長距離魔法アタッカー――世にも珍しい魔弓ユーザーだったはずなのだが。
サブジョブはオールラウンダーとの事だったので、それを踏まえて中距離魔法アタッカーに転職? この人のギルドカード、あってないようなものだなと思った。というか、思っていたよりも大分ヤバい人なのかもしれない。
「グロリア、魔法しか使わないのか?」
「状況による」
――そらそうでしょうよ。
しかし近距離での攻撃を余儀なくされた場合はどうするつもりなのか。アクセサリー類を全部仕舞って、身軽に転身するのか。全くどう立ち回るつもりなのか分からない。
「いやあ、今は魔法職がいないからそこを埋めて貰うのは助かる。改めてよろしく頼むぞ、グロリア!」
「うん」
「はっはっは! 俺達がまだBランクだった頃の事を思い出すな!」
「そうだね」
――いや温度差!
ロボとグロリアの会話に思わず心中で突っ込む。最初からずっと思っていたが、テンションの落差が激し過ぎる。
唯一、グロリアと面識のあるロボがこの調子。セシルは痛む胃をそっと押さえた。
そんな事など露知らず、リーダーはいつも通りの調子でクエスト出発を宣言する。
「よし! 準備も終わったし、行くぞお前達!」
――どうか、早くクエストが終わりますように!
セシルは祈った事も無い神にそう祈った。