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07.依頼人宅が豪邸すぎる(4)

 ***


 そんなこんなで色々起こったが、討伐対象である暗殺者などは真っ昼間から出てくるはずもない。核心に至る何かは起こる事無く、解散の流れと相成った。

 そうしてゴルドの厚意に甘え、あまりにも規格外過ぎる豪華な昼食の後、グロリアはのんびりと屋敷内を散策していた。装飾品などにベタベタと触らなければ、自由に過ごしていいとの事だったからだ。


 それにしても、ハヴィランド邸はまるで博物館のようである。当然の如く廊下には名画が飾られ、信じられない値段のツボにこれまた珍しい植物がいけられていたりと庶民の感覚では付いて行けない空間だ。

 絶対に物にぶつからないよう、細心の注意を払いながら廊下をゆったりと歩く。これが金持ちの生活か、ととても庶民くさい事を思考しながらだ。


 因みにリーダー・イェルドは依頼人であるゴルドと打ち合わせ中である。これが指名クエストを倦厭してしまう理由だろう。


 ――と、廊下の角を曲がってジークが現れた。

 彼はグロリアの存在に出会う前から気付いていたようで、驚いている様子は無い。三角形の大きな耳が左右の音を拾うように動いているのが見て取れた。流石の獣人、五感の鋭さは他種族と比べものにならないらしい。


「フィールドの確認か? グロリア」


 パーティメンバーは比較的、無口無表情なグロリアを恐がらない傾向にある。そしてそれはジークも例に漏れず。片手を挙げ、気安く声を掛けてきた。

 尤も、全然フィールドの確認という崇高な目的はないのだが。というか、ただただ散歩をしていただけである。

 何と応じるべきか逡巡していると、やはり会話が下手くそな自分では速度に追いつけていなかったようで勝手にジークが話を前に進めた。早すぎる。対応できないので、少し止まって欲しい。


「ハヴィランド邸はあまりにも広いからな。俺も屋敷の構造を確認している所だったんだ」

「……そうなんだ」


 ――ええ~! 真面目過ぎる! 昼間からちゃんと仕事してるなんて、メチャクチャ偉いじゃん。

 呑気に散歩している自分が酷く適当な人間に思えてきて苦笑する。だが、そんな小さすぎる表情の機微はジークに全く伝わっていないようだった。表情筋があまりにも凝り固まっているせいだろう。

 そんな愛想を表に出す事が困難なコミュニケーション力が欠如した相手に対し、ジークはなおも積極的にコミュニケーションを取ってくれる。孤高の一匹狼だとか言われているけど、ワンちゃんのような可愛さだ。これならばギルドのお姉様方にモテモテなのも分かるというもの。


「そういえば、グロリアはこの屋敷に来るのは2回目なんだろう? 意外と地図で見て、分かり辛い所なんかはあるだろうか」


 ――いや、私、地図とか見るの苦手なんだよね。違いがあっても分からんわ。

 とはいえ、前回屋敷へ来た時に案外歩き回れてしまったので、屋敷の構造自体はそれなりに頭に入っている。自慢になってしまうが、記憶力は存外良いのだ。

 諸々を加味して、何とかジークの問いに応じる。


「歩いた感じ、変な所は無かったと思う」

「そうなのか。流石だな、屋敷の事をもうよく理解しているのか」


 言いながら、何故かジークが隣に並んできた。え、この会話が続かない女と更にコミュニケーションを取るつもりか。ありがたいが、胃痛などが心配である。無理はするな。我ながら自分と話す機会があればすぐに胃に穴が空くと思うもの。

 ちら、とジークの顔を見上げてみる。真っ直ぐに廊下の先を見ているようだ。


「……なあ、ユーリアさんが言っていたんだが、今回のクエスト――闇ギルドが相手の可能性が高いらしい」

「そう」


 ここで初めてジークは何かを言い淀むように口を噤んだ。

 まさか下手クソな相槌に気を悪くしたのだろうか? グルグルと思い悩む内に、会話が再開される。どうやら気を悪くしたのは思い込みだったようだ。


「実は俺は――闇ギルドのギルド員と戦った事が無いんだ」

「うん」

「あれだろ、《レヴェリー》にいるような戦闘に長けた人員と、ぶつかるって事になるよな……? 少し、心配だ」


 ――弱気なの、珍しいなあ。

 確かに、普段は手を組んで一緒に戦うような面子が敵に回ると考えれば心配になる気持ちも分かる。心臓は割とバクバク言ってるだろうし、実は手汗もベタベタ。本当はそわそわしてじっと座って構えていられない。そんな気持ちだろう、分かるぞ、分かる。

 何を隠そう――グロリア自身もぶっちゃけそうだからだ。

 というか、基本的に何も考えていないので、今ジークにそう指摘されて思い至った。魔物相手と違って、対人戦は相手が手練れである場合は手も足も出ない可能性が十分にある。

 嫌な事に気付いてしまった。帰っちゃ駄目だろうか。


「グロリアはどうだ? お前は経験も豊富だろうし、何かコツとかあるのか?」

「――……やってれば慣れる」


 経験豊富だとか、対人戦に飢えているみたいな印象はどこから生まれたのだろうか? 確かに同じ歳であるジークよりも対人戦を豊富に繰り返しているのは認めよう。師匠がスパルタだったので、ギルドに入る前から盗賊退治を行っていたりなどもした。

 ――が、闇ギルドと戦った事があるかと問われれば不明としか言いようが無い。

 今まで伸してきた人間が何に所属していたのか、今となっては突き止める術も無いからだ。


 そんな訳で経験豊富と言う程豊富でもない自分から助言――というか、上手く会話を躱す為に選ばれた言葉はそれだった。

 適当というか、最早意味の分からん発言に対しハッとしたようにジークが目を見開く。何に気付いたのだろうか。この薄っぺらい言葉で。


「成程……。そうだな、いくら何でも出来るグロリアとはいえ、最初の一回目は俺と同じだったという事か。不躾な事を聞いて悪かった」

「……?」


 どうしてそんなにこの小娘の発言を前向きに捉えてくれるのだろうか。これが本当に分からない。


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