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05.依頼人宅が豪邸すぎる(2)

 ***


 そんなこんなで軽い打ち合わせの後、侍女から案内され、それぞれの部屋に荷物を運び込む。驚くべき事に、その辺の宿よりも余程豪華な部屋が一人一つ割り当てられていた。最早、気分はただのバカンスである。

 自室である程度落ち着いた後、イェルドに呼び出しをされて、リーダーに割り当てられた部屋へ。そう、いくらバカンス気分になろうともこれはクエスト。仕事をこなさなければならないのだ。


 やはり侍女に案内され、イェルドの部屋へ。

 足を踏み入れた瞬間に気付いた事と言えば、グロリア達に割り当てられている部屋より明らかに広々としている事である。それにいち早く気付いたユーリアが、笑みを深めながらさらりと感想を述べる。


「あら、イェルドさんの部屋、VIP待遇じゃない。指名したギルド員の顔を立てる……。そういう細やかな気遣いが出来る御方だものね、依頼主様は」

「はは、お前はそういう話題が好きだな。ユーリア」

「ええ。こういう時に見えるものなのよ、人間性っていうのがね」


 さて、とイェルドが近くにあったソファに腰掛ける。


「お前達も適当に座ってくれ。夜までに護衛の段取りと、屋敷内の配備を決めないといけないからな」


 促されるまま、高級ソファに身を沈める。比喩でも何でもなく、身体がふんわりと沈んだ。全員が座ったのを確認し、更にイェルドが言葉を重ねる。


「俺としてはパーティ全体の成長と、クエストの完遂が目標だからな。その上で配備を完璧にし、不手際が無いように動きたい」

「いつもそう言っているわね、リーダー」

「ああ。大事な事だからな」


 ユーリアは余裕たっぷりにクスクスと嗤っている。彼女もパーティの古参である為、こういったクエストには慣れているのだろう。

 ともあれ、イェルドの言葉に対し、最初に意見を出したのはこれまた古参のキリュウだった。


「とはいえ防衛側の本領は、有事の対応ですね。俺達は攻め込まれる側である以上、どうしても受け身にならざるを得ない。腕の良い暗殺者なら、今も俺達の行動パターンを観察してるでしょ」

「ああ、間違いなくそうだろうな。ターゲットとその周辺の確認は相手にとっても、俺達にとっても大事な事だ」


 前提として、と今度はユーリアが口を開く。


「この屋敷には特大サイズのサーチ魔法石があるわね。これは、常に起動中という事でいいのかしら?」


 サーチ――これはまさに暗殺対策の生命線だ。大きな施設、例えばゴルドの屋敷などには一般人が身に付けるには大きすぎる特大サイズのサーチ魔法石が置いてあり、それを起動する人員を雇っている事が多い。これまた金持ちならではの暗殺対策と言えるだろう。魔力量が多い人間は、それに比例して払う給料も多くなるのが世の常だ。

 そんなユーリアの問いに対し、イェルドは深く頷いた。


「その件も聞いている。依頼人側が用意した使用人を交代で立たせているから問題は無い。恐らく侵入者を最初に発見するのはサーチャーである屋敷の使用人だろう」


 サーチは隠密という魔法を無効化し、且つ生き物の居場所を割り出す魔法だ。特大魔法石のサーチを上回る大きさの隠密魔法というのは持ち運び不可なので、必然的に大屋敷等に配置されているサーチを看破するのは不可能である。

 即ち、ゴルドがサーチを起動し続けている以上、隠密魔法を使っての侵入は出来ず、入る瞬間には必ず我々に気付かれるという事だ。

 そしてそれと同時に――

 グロリアの考えをなぞるかのように、キリュウが再度声を発する。


「なら侵入は夜だな。白昼堂々、バレバレだってのに屋敷に不法侵入はしないでしょうよ」

「ああ、その通り。連中の侵入はほぼ確実に夜。最悪、昼に来たとしても視界が良好な状態で後れを取る事はないな。というか、俺の顔を知っているのなら真っ向勝負も挑んで来ないだろう。相手の暗殺者が元々『何』に所属していたかによるが」


 Sランカーの人数は少ない。それは《レヴェリー》以外、全てのギルドを含めてもかなりの少数であるという事だ。故に、Sランカーであるイェルドは全然知らない他人から顔を知られている可能性が高い。

 そして、Sランカーと真正面から殴り合えるのなぞ同じSランカーくらいのものだ。相手も余程の自信が無い限り、イェルドを避ける事が容易に想像出来る。何せ、暗殺者達のゴールはゴルドの殺害であり、別にいちいちSランカーを相手にする必要はないからだ。


 動きとしては、とここで初めてジークが話始める。


「昼は警戒のみに留め、夜は決めた配備に従って行動という事ですね」

「そうなるな。それで、配備についてだが――すまん、もう俺がほとんど決めてしまった。異論があれば聞くぞ」


 そう言って、イェルドが苦笑しながらつらつらと配置を述べた。


「依頼人へ張り付いての護衛はジークに任せる」

「俺、ですか……? イェルドさん自身が依頼人といるべきなのでは?」

「それは確かにそうだが、お前のスキルアップと……あと、単純に俺が依頼人に張り付いていると身動きが取れなくなる。加えて獣人は夜目が利くのが強いな。エルフや人間は視界を暗視で補強しなければならない訳で、そういう観点でもお前が適任だと思った」

「イェルドさんがそう言うのであれば、その通りにします」

「ああ。ただ、お前をそこに置いたおかげで俺は自由に立ち回れる。出来るだけ俺を抜きにして解決してもらいたいが、どうしてもの場合はフォローにも入るさ」


 ――今回ってそういう感じのスタンスなの?

 内心で焦りつつ、グロリアは小さく溜息を吐いた。イェルドのパーティは案外と『スキルアップ』という育成系のお題を出してくる事がある。今回も依頼人が暗殺されれば大事では済まないのだが、ギリギリまで過剰介入を避けるつもりのようだ。指名クエストで、イェルド自身が指名されているというのに。

 このままでは自分に一体どんな役割が課せられるのか気が気では無い。どうか、得意ポジションでありますようにとグロリアは内心で神に祈った。


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