03.盗賊団での労働(2)
団員の中でも比較的、まともに説明できる人間だったのは僥倖だった。
落ち着きを取り戻した報告者が、起こった一連の出来事を時系列順に並べて説明する。
「それが、発見者曰く今日持ち帰った荷物……酒樽の中に子供が入っていたとの事なのですが、そいつが次から次に《転移》魔法で仲間を拠点内に……あっという間に内部に侵入者が出現したという訳です」
「成程」
「ああでも、酒樽を運んだヤツが言うには逃げて行った馬車の商人も子供が呼び出した中にいたらしい、ですね……」
報告者と目が合う。ジモンは溜息を返した。そんな目で見られても知らん。
へえ、と少し面白そうに目を細めたボスが肩を竦める。
「で? 召喚者の子供はブチ殺したんだろうな。種族は?」
「ヒューマン。フードを被っていましたが、かなり小柄なので子供だと思われます。この報告段階ではまだ生きていました」
「ほう。何人くらい侵入した?」
「え、あ……それが……実は4人で……。子供も含めて」
「4? それだけで打ち止めか? ヒューマンのガキにしたって、位置関係にもよるがもう何回かは魔法撃てるだろ。貧弱魔力かよ」
「いえですが、駆けつけた仲間が既に何人も殺害されています。統率なんてないようなものなので、バラバラに駆け付けて各個撃破されている状態です」
「あー、外から入って来てくれれば見張りがまとめて相手するんだが、中に出現したからか」
当然だが、犯罪者集団の中に軍師をやれるような切れ者はいない。
とはいえ、この人数だ。やがては捌ききれなくなって泥仕合が始まる予感がする。それに――
「ジモン、出番だぜ。迎え撃て」
「ああ。4人の特徴は? 少数で来ている以上、腕に覚えがあるんだろうよ」
頷いた報告者が詳細な状況を説明し始める。
「ローブの子供、ヒューマンの男――こいつは商人役だった奴ですね。竜人の男、鬼人の男。これで4人です」
「ハッ、サーカス団かよ? 異種族間交流が随分と盛んなようだ。おうジモン、竜人以外は大した事なさそうだ。どれか一人でも半殺しで捕まえてこいつを盾にしてやろうぜ」
「油断はしない方が身のためだ……」
竜人がこういったイベントに参加しているのは珍しい。肉体の出来が他の種の追随を許さないタフさ且つ膨大な魔力量。竜人と言うだけで警戒に値する。故に、ボスの判断は非常に正しいと言えるだろう。
「《転移》魔法要員のローブのガキを捕まえるか。鬼人は人質には向かねえ。というか、人質ごと攻撃して来そうだから早く処理しねぇとな。残りのヒューマンはどうでもいい」
「酒樽に入っていたんだろう、そのガキは。途中で見つかるリスクがあったにも関わらず、単騎で運ばれてきたのならそれなりの腕なのかもしれない」
ジモンの呟きは誰にも拾われなかった。
一先ずローブの子供が一番無怪我でやり過ごせそうだ。このトラブルを片付けたら、この団からもおさらばしてしまうとしよう。目立ち過ぎた。
「あ! そうだボス、関係ないので忘れてましたが……あの竜人、角がキラキラで宝石みたいなんですよ」
「ほう? 竜人の角は高く売れるが、突然変異か何かか? 珍しい角なら倍の値が付くかもしれねえ。首から上は必ず回収しろ。いいな?」
「はい」
竜人の角――の売値にボスは心を躍らせているようだ。
溜息を吐いたジモンは子供を捕まえる為、部屋を出た。
***
「――本棟に侵入されたな、さては」
倉庫付近に到着したが、死体が転がっているだけで侵入者の姿が無い。
人数差で勝っているにも関わらず、処理できずに更に内部へ入り込まれたのは明らかだった。
拠点の内部構造に思考を巡らせる。
1階ロビーは吹き抜けだ。外階段から登って二階へ行き、そこから足跡を追おう。間違っても鬼人や竜人と鉢合わせは避けたい。
考えながら外階段を上り、二階から中へ侵入。少し歩けば吹き抜けのロビーに到着――
「なんだ、まだいるな」
4人組はロビー、或いは玄関ホールとでもいうのだろうか。
そこで悠長にも言葉を交わしていた。
鬼人がご機嫌そうに口を開く。
「うむ! あまりにも広いな。手分けしよう」
「おう」
応じた竜人のやる気の無さときたら見ているこちらが心配になる程だ。この状況で何故か自身の爪を見つめている。
「儂は一番強いヤツの首が欲しいからな! 敵がいそうな場所を当たりたい」
「おー、やる気があって助かるが、それってどのルートを進むか分かってんのか?」
空恐ろしい事を宣う鬼人に適当な返答の竜人。見兼ねたのか、ほぼ温度を感じられない声音でヒューマンが横槍を入れた。
「話し合いもいいが――また新手が来たぞ」
「またかよ、しつこいな。グロリア、こっちに寄れよ。やる気のある空木がどうにかするだろ」
ずっと黙って一言も喋らない子供を呼び寄せた竜人が鬼人から距離を取る。関係性がよく分からないが、竜人とこの子供はセット扱いか? 離れてくれないと人質も何もないのだが。
わはははは、と超ご機嫌な鬼人は既に太刀をその手に握り締めている。
それと同時、廊下から10名程度のメンバーが姿を現した。それなりの頭数を揃えているのを見るに、誰かの指示かもしれない。
「よし、儂が出よう! この中に強者がおるといいのだが」
「いる訳ねーだろ。ここに来るまで何見てたんだ、おっさん。こいつ等、ただ数が多いだけの烏合の衆だ」
「だが盗賊団の頭がこの中に混ざっているかもしれん!」
「先頭切って侵入者の討伐にあたるようなヤツは盗賊団の頭なんざやってねえだろ」
なかなかに鋭い指摘をする竜人だったが、それでも鬼人は強者とやらを期待しているようだ。イカレ種族の名は伊達じゃない。
そしてその戦闘能力もかなりイカレていた。
果敢にも突っ込んでいった下っ端の一人を一振りで両断。さながら縦横無尽の動くギロチンのような圧を感じる。
それを見て怯えた3人が即座に背を向けて離脱。強者でないから興味がないのか、鬼人は追撃もしなかった。
瞬きしている間に残りを片付けた鬼人は太刀を大きく振るって血払いし、太刀を収めた。そうして仲間達の方を振り返り、肩を竦める。
「うむ、ベリルの予想通りまるで骨が無かった!」
「な? だから言ったろ」