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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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26.護衛対象(3)

「その弓……いや、いいや。お姉さんはここから《防壁》を張り続けるからね。何枚でも」

「よろしく」


 それは魔力がもつのかとも思ったが、さっさとウルフさえ倒せば何度も張り直す必要はないので割愛。

 残っているのはトカゲ、ユキジカ、ハントベアー手負い、ウルフ1体。

 全然片付いていなくてうんざりである。

 しかもユキジカはまたあの氷柱を見舞うつもりなのか、再びチャージモードに入っている。準備が整えば広域を凍り漬けにし、更に気温が下がるだろう。他の獣達はこの肌寒さをものともしていない。


 不意に毒トカゲが、濡れた犬が水気でも飛ばすような動きを披露した。

 実際、毒液に塗れているので周囲にその液体が散る。


「凍った地面が緩みだした」


 毒液に直接触れていないはずの箇所も、連動するように氷の床がツルツルと溶けて足場を悪くする。完全には解けない、緩んだだけ。

 という事は踏ん張りの効かないヒューマンの足腰では、この床を素早く走る術を失ったわけである。もういっそ、地面を焼いて氷を解かすべきか? 否、そこまでする時間も魔力も勿体ない。

 悪い事は重なるものだ。とどのつまり、このあまり使いたくない魔弓をやはり引かねばならないらしい。


 ハントベアーの咆哮が轟く。

 奴は足にも鋼の装甲を纏っている。この緩んだ氷の床も、強靭な脚とその指先で破壊。爪が食い込んでおり、滑ってあらぬ方向へ消えていくなんておバカな事態には陥ってくれそうにない。

 ウルフは器用な魔物なので、この程度の地形は彼等の疾走に影響を与えない。

 トカゲはその場で震えているだけで役割を果たしているらしい。


 ――集中。

 ウルフもだが、ハントベアーの突進を避けるのが難しくなった。あんなタックル、まともに受ければ全身の骨が粉々に砕け絶命するだろう。《防壁》3枚で完全に防ぎ切るのは難しい。

 であれば最初に仕留めるのみ。矢を作成する。

 《矢作成》はやはり魔弓に付いているのだが、先にも述べた通りこの魔弓には魔法石がセットされていない。表面に彫られた魔法式の何れかが《矢作成》なのだが、生憎と魔法式なぞ読める人間はこの世に存在しないので完全な解読は不可。

 書いた者の手癖があるらしく、どれが《矢作成》なのかもさっぱり分からない。作成者は何者なのだろうか。


 必然、繋がっている全ての魔法式が勝手に起動される事となる。《矢作成》と――正体不明の何か。同じ魔法だと判定されているからか、同時起動にはあたらない。これでただ一つの魔法式なのだ。

 《風撃Ⅰ》を用いたシンプルな矢。だがやはり、威力的には《風撃Ⅱ》で作成されたかのような違和感が付き纏う。威力を下方修正したい場合に邪魔だ、この魔法式。魔力を多く取られている訳でもないのが一層不気味である。


 真っ直ぐに向かって来る大きな的を撃ち抜く為、魔力を流して弓を引く。

 ぞわぞわと背筋に奔る嫌な感触。あまりにも滑らか過ぎて弓を引いている感じが伝わってこないのがむず痒いような。この弓に慣れると、他のいかなる弓も扱えなくなりそうだ。


 狙いも何も目の前なので関係ない。

 矢を放す――スマートな弦の弾ける音と共に風の矢はハントベアーの胴体に巨大な穴を空けた。


「……矢が沈んだかな。頭を狙っていたはずなのに」


 モヤモヤする。要するに、やはり勝手に造った矢が強化されてその重みで矢先がブレたのは分かるのだが、誰もそんな操作は行っていないのだから勝手に補助輪を付けないで貰いたい。

 ともあれ、1体目を難なく討伐。


「あれ」


 そこで気付く。弓に気を取られていて全然気にかけていなかったが、アリシアが案外働いている。

 先程、辛酸をなめさせられたウルフはいつの間にか地面に倒れており、どう見ても息をしていない。ついでに毒トカゲは消滅した。どこへ行った?


「グロリア! 犬とトカゲはやっておいたからね」

「それはありがたいけれど、毒トカゲはどこへ? 踏んだら困る」

「そこ」


 くしゃくしゃに丸めた紙のように丸められたトカゲの姿に目を見張る。分からない、何を使ったら討伐した魔物がそのような状態になるのか。


 ともあれユキジカのチャージが終わってしまう。さっさとトドメを刺そう。

 離れていようが、こちらは長距離運用が基本なので何ら問題はない。弓の扱いに困ってはいるが、これも同じ矢を少し上向きに放てばいいだけの事。既に軌道修正できる。


 もう一度、矢を番えて弓を引く。

 やはり滑らか過ぎてなじみがないのに目を瞑り、今度こそ狙い通り――ユキジカの首を刎ねた。一時は矢先の位置を気にしておかなければならない。


 あとは操者を倒すだけ、そんなタイミングでベリルの声が《通信》から響いた。


『グロリア、そっちは問題ないか? 今、ジャスパーがお前の所へ向かっている。遅れて俺も出発しはしたが……』

「私達は大丈夫。襲撃者と交戦したけれど、あとはもう操者を2人捕まえるだけ」

『操者……。その操者にジモンが負傷させられている。様子がおかしい連中じゃねえだろうな。信じられない怪力だったらしいぞ』

「様子はおかしい。ずっと何かをぶつぶつ言っているし、何だか意識が朦朧としているようにも見えるかも」

『近付くな。危ない』

「……分かった。こっそり撤退するよ。ジャスパーと入れ違いになるのも嫌だから、こっちから連絡しておくね」

『おう』


 アリシアを回収しながら、ジャスパーに《通信》を入れる。

 見えている範囲の襲撃者は一掃したのだから、馬車に乗ってこの場から離れなければならない。集合場所は馬車だ。


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