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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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25.護衛対象(2)

 様子の可笑しい操者二人は向かってくる気配がないので、一旦放置とする。


 野放し状態の魔物はこちらを待ってなどくれない。

 即座にウルフ・変異種が動き始める。機動力だけはここにいる魔物の中で一番高いだろうか。滑るように走り出した2体のウルフは真っ直ぐに――グロリアを越え、アリシアを狙っているようだ。


 彼女は自己申告によると中距離。そこから魔法を撃つと言っていたので、ウルフは後ろに通してはいけない。

 獣にはパーテーション作戦が意外と効くものだ。

 進行方向を遮るように、《水撃Ⅰ》2つと《風撃Ⅰ》で壁を作成する。案の定、突如として現れた壁に混乱したウルフの足が止まる。反射神経のおかげで壁に突っ込んで壊さないあたりも織り込み済みだ。


「1体目」


 横合いから身体を捻じ込み、体勢を立て直す前に持っていた刀で1匹目を斬り捨てる。物理的な防御力は恐らく通常のウルフと大差ない。

 そうこうしている間にもう1体は警戒してグロリアから距離を置いた。

 この金色の体毛は針のように鋭いが、別に生身で触れたからといって皮膚を傷付けるようなものでもない。では何の為にこの毛皮はあるのだろうか。


「グロリア、前、前!」


 見ればハントベアーが肩口から鋭いタックルでもお見舞いするかのように突っ込んでくるのが視界の端に写る。

 それと同時、更に奥の方でユキジカが身震いしているのも把握。氷の魔法らしきものを撃つ合図だ。足を凍らされると身動きが取れず詰む。しかし後ろにアリシアが控えているので躱すだけだと中衛を巻き込むだろう。もっと離れてくれないだろうか。


 手早く《倉庫》から魔弓を取り出す。ハントベアーの装甲は進化し過ぎて、ヒューマンの細腕では破れない。

 また、ユキジカの周囲に氷柱状の氷塊が出現したのを目視。あれを刃物よろしく飛ばしてきて、更に着弾したあらゆる対象を氷漬けにするのがあの魔物の主な動きだ。

 しかしこれは魔法的な攻撃である為、《防壁》程度で防げる。


 《防壁》を展開。これによりユキジカの行動を一度無視。

 突っ込んでくるハントベアーに適当なレシピで作った矢の先を向ける。確実にこの迷惑なクマを討伐し、後はゆっくり残りの魔物を処理すればいい。


 ――と、ハントベアーより体躯の小さな金色のウルフが先に突っ込んで来た。

 この小さな体格で体当たり攻撃を行うのは何なのか。普通のウルフは体当たりではなく、噛み付く等の獣らしい動きばかりしてくるのに。


 その理由はすぐに理解することになる。


「――!?」


 ウルフが《防壁》に到達した刹那。まるでシャボン玉が割れるかのようにあっさり《防壁》に穴が空き、そのままパチンと割れた。

 ほぼ反応が間に合わないタイミングでユキジカが放った氷塊が降り注ぐ。当然、生身で受ければ無事では済まないだろう。しかも目前には、これまたまともにぶつかればただでは済まないハントベアーのタックルが迫ってきている。


 ――腕一本と交換。

 最悪のトレードだが致し方ない。腕一本で身体に当たってしまう氷魔法を受け、それ以外は回避で間に合わせる。ただの犬だと侮った高い勉強代だった。


 動揺して放った矢はハントベアーの左腕を刎ね落としたに過ぎなかった。精進が足りない。しかしタックルの中断には成功した。

 魔弓と左腕を傘代わりに、回避する氷柱と甘んじて受ける氷柱を選定。

 魔弓からはみ出た身体の一部を受けるのだが、ヒューマン女性の細腕では氷柱1本が限界ではないだろうか。しかも、思ったより数が多い。これが変異種の力か。


「わーっ!! グロリア!!」


 心底焦ったようなアリシアの声が耳朶を打つも、答える余裕などない。

 どうにか回避しつつ、やはり避けきれない氷柱の1本が魔弓に当たる。ガチガチに凍ってしまい、解凍しないと再度使用するのは難しいだろう。


 ――限界。これは避けられない。

 覚悟を決め、頭を腕で庇う姿勢を取る――が、結果としてそれはアリシアが張ってくれたであろう《防壁》により防がれた。

 魔法の発動が恐らくグロリアよりも早い。しかもご丁寧に3枚くらい同時に張ってくれている。何とも贅沢な魔力の使い方だ。

 しかも恐らく自分自身にも同様に数枚の《防壁》を張っている。人の事を言えた立場ではないがヒューマンとは思えない魔力量だ。


 氷柱の雨が止む。周囲はすっかり凍土に早変わりしていた。

 出鱈目な出力、純粋に強化された変異種のようだ。普通のユキジカではこうはならない。気温にも干渉しているのだろうか、吐く息が白く凍っている。寒さはいけない、ヒューマンの柔な肉体では動きが悪くなるので。


「アリシアさん、ありがとう」

「無事でよかったよ。弓が……駄目になってしまったようだけれど。でも安心して、お姉さんが付いているからね!」

「予備機があるから大丈夫」


 氷柱の威力が高過ぎたせいか、防御に使った魔弓はど真ん中に修復不可能な穴が空いてしまっている。このまま弓を引けば真っ二つに折れてしまうだろう。買い替えなければならない。

 使い物にならなくなった魔弓を仕舞い、先程述べた予備の魔弓を取り出す。

 だが――正直なところ、この弓はあまり引きたくない。


 豪奢な弓だ。故郷の村では祭事に用いられており、流れで村から持ち出してきた。

 所長にはなるべく人前で使うなと釘を刺されている。


 そんな事より何より、この弓はとても癖が強い。

 素材は魔道鋼。これだけで既に途方もない高級素材だが、この鋼は魔力を流すことでしなやかに形を変える不思議な素材だ。まずこの高級品の滑らかな動きがあまりにも馴染みが無さすぎる。もっとカクカク動くものだろ、魔弓なんて。

 加えて正体不明の魔法式が直接この弓に彫られている。彫られているので外す事が出来ず、そこにあるから使うのだが――魔弓の出力を勝手に増幅させられているようで手元が狂う。力むとあらぬ方向に矢を射出しそう。

 慣れれば恐らくかなり使いやすいだろうが、練習をしている場合でもないので憂鬱だ。


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