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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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23.全員ほぼ他人(5)

 ――駄目そうだ……。

 怪我を治してくれようと、四苦八苦しているエルヴィラを見て、ジモンは心中でそう呟いた。

 一向に傷口が塞がる気配も無い。このままではこの状況でエルヴィラまで魔力を使い切る事になってしまうだろう。


「難しそうっすね。普通に手当てする方向に切り替えましょう。エルヴィラちゃん、お疲れ~」

「役に立てなくてごめんね」

「いや、構わん――」


 と、不意に耳元付近でザザッとノイズのような音が聞こえた。これは《通信》が起動された時の音だ。

 案の定、ベリルの声が直接脳内に届く。


『おうジモン、こっちは片付いたがそっちはどうだ? 問題ないのなら、グロリアを捜しに行くが』

「ベリルさん……」


 ――ベリルさんは《治癒》でこのくらいの傷であれば、止血は出来る。

 ただ彼はグロリアの事が気掛かりで仕方ないようだ。ここに立ち寄ってくれと言えば来てくれるだろうが。


 ジャスパーの若干冷ややかな視線が突き刺さる。


「なんの会話しているのか、こっちには全然聞こえませんけど……。ベリルさんと通話しているのなら呼んだ方がいいっすね。獣人とはいえ、失血は後々しんどいと思いますよ」

「そうよ! でも後でかなり文句言われそうだけれど」


 文句を言われるだけで済めばいいが、本当に恐ろしいのはベリルの口が閉ざされた時である。無言で負担を掛けてくる人間の枠に入れられそうだ。主にエルヴィラが入れられている枠の事である。

 しかしこのまま失血死などお笑い種もいいところである。

 小さく溜息を吐いたジモンは現状を報告するべく口を開いた。


『おい? なんか後ろで打ち合わせでもしてんのか――』

「すんません、こっちも片付いてはいますが負傷しました。《治癒》魔法を使えるヤツがいないので、ここに立ち寄ってもらえませんか」

『――……。了解。馬車の所にいるんだったか?』

「はい」


 《通信》が終了した。謎の一拍分の間が恐ろし過ぎる。

 あの何も聞いて来ない感じを見るに呼ばれた時点で結構な負傷者が出た事を予想していそうだった。


 わざと足音を鳴らして接近を報せているような音で我に返る。

 あんまり離れていなかったのか、或いは話をしながら既にこちらへ向かって来ていたのか。意外にもすぐベリルその人が姿を現した。


 竜人の登場にどことなく場の空気が引き締まる。

 やがて状況を慌てる事無くゆったり見回したベリルが口を開いた。


「思ったより大分酷くやられたな。何をやってたらそんな事になるんだよ。いや、いい。今回はちょっと厳しかったな、色々と」

「ええ? ベリルさん、熱あります?」


 ぎゃんぎゃん言うか、最悪黙り込むかと予想していただけに肩透かしのようなあっさりした発言に目を剥く。


「いや……今日のは『違った』。負傷者くらい出るのは予想していたが、緊急で治療が必要なのがお前だとは思わなかったぜ」

「うっ、すんません」


 会話を交わしながらもテキパキと無駄のない動きで《治癒》魔法を起動するベリル。ただし、当然だが気もそぞろといった面持ちだ。

 通常であれば気にしつつもグロリアをギリギリまで放置できる保護者が、今回はかなり心配を前面に押し出しているのが不穏である。本当は治療なんて放り捨てて捜しに行きたいだろうに足止めしてしまって申し訳ない。


 そんな空気を読んだのか、手持無沙汰だったジャスパーが不意に提案した。


「なーんかヤバそうだし、俺グロリアちゃんを先に捜しに行きましょうか? ここにいても今はやる事もないし」

「お前、魔力切れしたんじゃなかったのか」

「そこでですよ! その身体の外に排出された血液、ちょっと分けてくれません?」


 成程な、と意外にも賛成の意を示したのはベリルだった。


「吸血鬼の食事は即エネルギーに変換される。ジモンの魔力量が少ないであろう血でも、一掬いで魔法数発分にはなるな」

「えぇ? いやまあ、確かにお嬢を一人にするのも心配だし……仕方ないか」

「あざーっす!」


 ――いやでもこいつは……単純に味見がしたいだけなんじゃ……。

 倫理的に触れ辛いから誰も言わないけれど、人間の頭数さえ揃えておけば吸血鬼を無限に運用できるのではないだろうか。

 言ったら必ず問題になるから言わないが、エルヴィラの新しい使い道に持ってこいのような気がする。


 分け与えた他人の血液で食事を終えた吸血鬼は心なしかご機嫌そうだ。


「やっぱり普通の獣人と違うと思うんですよね。こう、芳醇さ? コクがあるっていうか」

「感想は要らん、早くお嬢を捜しに行ってくれ」

「こうなってくると、ベリルさんにグロリアちゃん……《相談所》組も気になってくるなあ。ま、取り合えずリーダーを捜しに行ってきます」


 軽やかな足取りで去って行くジャスパーを、ベリルが困惑した表情で見送る。


「何だアイツ……」

「ベリルさん、後どのくらいで止血終わりそうですかね? お嬢が心配になってきました」

「5分。言っておくが、完全に治療する時間はないから、お前はこの後も留守番だ」

「俺の傷、思っていたより深いですか」

「おう。お前これ、後で病院に行けよ。どんな力で攻撃されたんだか知らんが、腕の骨とか酷い事になってるぞ多分」

「信じられないくらい痛いので、そんな気はしてました」


 ベリルに化け物でも見るような目で見られてしまった。


「痛いどころじゃねぇだろこれ……。さっきからお前等さ……いや、このパーティ、変人しかいねぇのか?」

「あんたもでしょうよ」


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