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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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21.全員ほぼ他人(3)

 それまで動きを止めていた大ムカデがそろそろと動き始める。そのカサカサとした足の動きには生理的嫌悪感を覚える程だ。

 様子をよく観察していたのだろう。エルヴィラが小さな声で入れ知恵してきた。


「さっきから思っていたけれど、あの大ムカデ……外殻の光の反射がちょっと変じゃない? ビロード質、って言ったらいいのかな?」

「細かい毛のようなものが外殻にびっしり生えているようにも見えるな。これも……触ると危険な類のような気がする」


 問題はその細い毛は叩いたら舞い散って人体に内部から影響を与えるタイプなのかどうかだ。吸い込んだら気管支や肺にダメージを受けるのであれば、厄介どころの騒ぎではない。


「エルヴィラ、マスクを持っていないか? 布ではなく紙製の」

「たくさん持ってるから1枚と言わず3枚くらい持って行っていいよ」


エルヴィラが《倉庫》を起動し、欲しいと言ったマスクを大量につかみ取りして渡してきた。


「何故そんなにマスクがあるんだ……」

「弟の看病をする時によく使うもの」

「……すまん、ありがとう」

「どういたしまして!」


 受け取ったマスクを二重にして使用する。やはり病人の看病時に使うものと言うだけあって、少しお高めのしっかりしたヤツのようだった。心なしか、臭いもやや遮断できているような気がする。


 遊んでいる場合ではないので、魔物4体に囲まれて途方に暮れているジャスパーの手助けへ行くとしよう。

 死霊体から離れている魔物は今の所ハントベアーだけだ。この魔物だけが、他3体と違って浮いているので数合わせで連れて来られたのかもしれない。


 誰に襲い掛かるべきか悩んでいる様子のクマへ、今度はこちらから仕掛ける。

 ハントベアーは死霊体から一番離れてはいるが、それでも臭いの範囲内にはいるのだから即座に始末し範囲外へ撤退。これが堅実だろう。


「え? ちょっと、ジモンさんどうする気――」


 大斧の《軽量化》を使用、獣人にはほぼ重さを感じないレベルにまで軽くなった。

 当然その分身軽になったので、地面を力強く蹴ったジモンが弾丸のような速度でハントベアーに迫る。

 斧を持ち上げて、振り下ろす瞬間に魔法の切り替えをし《重量化》させた大斧の刃がギロチンよろしく振り下ろされた。獣型の魔物というだけあって、咄嗟にハントベアーがその装甲を頭上に掲げて防御を試みる。

 ――が、装甲こそ破れなかったが腕の骨が嫌な音と共に砕けた。

 最早斬ると言うより叩き潰すような感触と音と共に胸の辺りにまで真っ二つにされたハントベアーがその場に崩れ落ちた。

 魔法を解除し、斧を力任せに引っ張って回収。臭いがきついので、死霊体から離れた。


 一連の動きを呆然と眺めていたジャスパーが心底引いたように倒れた魔物と返り血でしっとり湿っているジモンを見、首を振った。


「吃驚したわ~。え、なに、今の野蛮フルスイング暗殺は……」

「いいから早く、その死霊体をどうにかしろ。手指の痺れが深刻だ。治まるのに数分かかる」

「ゲッ、マジか! 嫌なタイプの変異種だな、こいつ等。まあでも、賢い俺は考えました。……埋めちゃえばいいんじゃね? 蜘蛛は後回しにしましょ、木の間を飛び移られたんじゃ埋めるなんて無理だし」

「臭いも遮断できて良い案だな。出来るのであれば、だが」


 ふふん、とジモンの発言をご機嫌そうに笑ったジャスパーが《倉庫》から杖を取り出す。しかも2本。

 どちらも大きな魔法石が装備されており、ⅢまたはⅣ規模の魔法が使用できる設計だろう。その杖2本分の魔法を手早く混ぜ合わせる。


 ――《火撃Ⅳ》、《風撃Ⅲ》といったところか。使わんから分からないが。

 そもそも杖2本持ちなど前代未聞である。ちょっと滑稽で笑いを誘うのでやめてもらいたいが、こうなった原因は簡単だ。グロリアは杖の魔法と普段使いを4つ混ぜ合わせて同じ魔法を造る。

 ジャスパーは恐らく2つまでしか魔法を同時使用できないのだと思う。


 器用にも杖を2本まとめ持ちした状態で、発動場所を地面に設定したようだ。魔物達の足元辺りが爆発により吹き飛ぶ。浅めのクレーターが完成した。


「おい。まさか、穴に突き落とすのは手動じゃないだろうな?」


 思わずそう訊ねると、もう一度クレーターに対して同じ魔法を撃ったジャスパーが肩を竦めた。


「まさか! 結局素手で触るのなら、殴り殺した方が早いじゃないすか。大丈夫、もう魔力はかなり使い切っちゃいましたがあと一回は大きなヤツ使えるんで!」

「なんて貧相な魔力量だ……」

「俺の魔力量は吸血鬼の平均より少し上なんで、優秀な方なんだけどな。リーダーの魔力量が可笑しいから感覚変になってるんじゃないですかね……。よし、準備完了」


 クレーターを穴に変えたジャスパーが杖2本を仕舞い、最早魔法石そのものを取り出す。これはサイズ的にⅣ規模で間違いないだろう。棒が付いていないせいで、綺麗に磨かれた魔法石にベタベタと指紋が付着している事だけが気掛かりだ。

 爆発に驚いて――というか、巻き込まれない為に退避していた魔物達が蠢きだす。

 移動速度がてんでバラバラなので虫型達は既に死霊体を追い抜かし、不届きな輩であるジャスパーへの間合いを詰め始めている。


「ふっふっふ、これが《闇撃Ⅳ》の正しい使用方法っすわ」


 魔物達が穴を迂回するその瞬間を見計らって、ジャスパーが言葉通りの魔法を起動した。

 魔法をほとんど使わないジモンには闇系魔法を使うと何が起こるのかいまいち分からない――ベリルもグロリアもあまり使わない為――のだが、昔からの疑問が今ここで解消される。

 穴の中央へ設置された真っ黒な球体が、周辺のあらゆる物を強い力で引き寄せる。魔物も、或いは爆散して周辺に飛び散った土もだ。

 落とし穴の淵を《風撃Ⅱ》で削り取り、土でいい具合に埋め、最終的には《水撃Ⅱ》の2回掛けで土を湿らせる。


「完了! 臭いものには蓋をしておかないとね」


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