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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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20.全員ほぼ他人(2)

 どこから攻めたものか考えていると、ハントベアーが腹から出たような咆哮を上げ、唐突に突進してきた。

 まずまずの対面である為、このまま首を刎ねてしまおうとジモンは大斧を持ち上げる。

 最早刃物と言って差し支えない右爪を躱し、カウンターで首と胴を切り離す。これが最も安全且つ低コストでの討伐方法だ。後ろに色々と控えているのだからこの大きなクマ如きに掛けている時間はない。


 あまりにも予想した通りにその可動域の狭そうな腕を突き出してくるハントベアーの動きを右前に回避。晒された首筋に斧を振り下ろす――


「ぎゃー!! すんません、ジモンさん! こいつ、火魔法耐性持ちだった!」

「……!?」


 こういう言い方をする仲間がいる場合。

 大抵は何か名指しされた者に危険が迫っているパターンだ。位置関係的に、今は背後に大蜘蛛討伐中のジャスパーがいたはず。

 その記憶に一瞬で辿り着いたジモンは持ち前の反射神経でその場から一足跳びに退場した。案の定、先程まで立っていた場所にべっちょりと粘性のある蜘蛛糸の塊が飛来する。


「火耐性――吐き出した糸も高温のようだ。燃えてはいないが、触れれば火傷では済まないかもしれないな」


 鼻孔を刺すような嫌な臭いと、地面から上がる煙。少しの不自然な熱が鼻先を霞めた事によりそう結論付ける。

 であれば、獣人であっても糸が絡んだ瞬間に火傷だ。こういった魔法的、或いは薬物的な物への耐性はヒューマンと同程度である。竜人であるベリルなら耐えるかもしれないが、恐らく彼は試してみようとは言わない。そんなラインの性能。


「ナイス回避ィ! いやあ、ひやひやしました」

「……ハァ……」


 額の汗を拭ったジャスパーが陽気にサムズアップしてくる。

 返事をする気力すら湧かなくて無視しつつ、再度突っ込んで来ようとしているハントベアーに警戒。あの邪魔さえ入らなければ、今頃既に一体仕留めていたというのに。

 絶妙な援護射撃だったが、この魔物達は一応連携を取っているのだろうか。

 あのタイミングで目の前のジャスパーを飛び越えて交戦中のジモンに攻撃を放つあたり、普通の魔物よりも知能が高そうなのは確かだ。

 そして未だ動きを見せない大ムカデに死霊体の存在も気掛かりである。

 こういう時にグロリアかベリルがいれば、相手の思惑を全て破壊して何故か操者から仕留める、なんていうトリッキーな動きをしてくれるのだが生憎と両者不在である。


 ――どちらにせよ、俺に多対一を同時処理する力はない。まずはこのハントベアーを討伐し、それから考える。

 魔法で全てを破壊するには魔力も足りない。この大斧は巨大ではあるが、それでも一振り一殺が基本である。


「俺に狙いを付けているハントベアーを処理する。この場をもたせろ」

「りょ! ああでも、俺に蜘蛛の糸を受ける術はないんで、そっちに攻撃したらお知らせしますね」

「成程……お前は《防壁》で糸を処理できないのか?」

「受けるだけならできますけど、《防壁》に絡みついた糸が消える訳じゃないんで、魔法の効果が終了したらドーム状に巻き付いた糸が垂れ落ちてきますよね?」

「お嬢は焼き払うなり何なりしていたが?」

「火耐性あるって言ったじゃないすか……」

「面倒な」

「いやー、夜中なら自爆特攻もありっちゃありなんですけど! まだ真昼なんだよなあ。それと、そろそろ他2体も様子見終わったっぽいっすわ。エルヴィラちゃん、動員できないんすかね」

「エルヴィラは……いや、厳しいな……」


 突っ込んで来ようとしていたハントベアーが不意にその臨戦態勢を解く。

 代わりにゆらゆらと揺れるように歩みを進める死霊体が参戦してきた。覚束ない足取りでありながらも、不可思議な存在感と威圧感がある。放っておくと碌な事にならなさそうだが、どうしたものか。

 そこでふとある事に気付く。

 こいつが一歩進むごとに酷く嫌な臭い――先程の蜘蛛の糸とも違う、劇薬というか、明らかな人工物の香りだ。


「――ああ、こいつはダメだ」

「え?」


 ジャスパーが困惑したような声を上げたが、無視して死霊体から距離を置く。

 この臭いはよくない。鼻が良いからなのか、または獣人を完封する為にでも作られた臭いなのか。

 忘れていた車酔いがぶり返し気分が悪くなる。しかも滅多にない頭痛までしてくる始末だ。それよりも何よりも問題なのは手足の指先の痺れ。最悪、武器が振るえなくなるだろう。


「俺はそもそも臭いを感じないんですよね。嗅覚はヒューマンと同程度の性能だけど。というか、操者もヒューマンだし本当に獣人にしかその臭いは届いてないのかもしれないっすわ。こいつ、俺が処理しないと駄目か……? 触りたくないけど、魔法で処理できるのかね……」


 一旦、その臭いが漂ってこない位置にまで下がる。そうすると馬車付近で所在なさげに佇んでいたエルヴィラの不安そうな目と目が合った。


「ええ、私も戦おうかな……。こう、何だかジモンの対策でも取ったような魔物達だよね」

「……確かに」


 ――ベリルさんかお嬢を呼び戻すか?

 触ったら即アウトな魔物が多い上、まだ大ムカデが何を仕掛けてくるのかさっぱり分からない。分からないが、このラインナップを見るに大ムカデも触ればこちらも相応のダメージを受けるような特徴を持っていそうだ。


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