表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
166/179

19.全員ほぼ他人(1)

 ***


 車酔いが酷い。ついでに残されたメンバーを見て頭も痛い。

 グロリアが心配で堪らない保護者を見送ったジモンは盛大に溜息を吐いた。まさか、ああいう馬車に乗るのが苦手な質だったとは自分でも思わなかったからだ。


 今一度置かれた状況を脳内で整理する。

 グロリアを追い掛けて行った連中を追い掛けて行ったベリルは離脱。

 残っているのはほぼ戦闘が出来ないと言って過言ではないエルヴィラ、そして本日初参戦で何もかもが不明瞭なジャスパーだ。酷い組み合わせである。


 残っている敵方の戦力も投げやりのように見えるのがせめてもの救いか。

 操者と思われるヒューマン男性が一人。

 いずれも変異種であろう魔物が合計4種である。

 1体は先にグロリアが戦闘しあっさり脳天をぶち抜いて幕引きしたハントベアー。デカいしシンプルに力押しに特化している便利要員として持ってきたに違いない。

 2体目はこんな森には林にいたら割と大事な死霊体。死霊が新鮮な遺体に乗り移って勝手に動かしている魔物。こいつが1体墓地に現れただけで大騒ぎだが、ここは林だ。どこからその死体は調達したのか。ボロキレではあるが白衣らしきものを引っ掛けているようにも見える。

 3体目のエントリーは大蜘蛛。説明不要。吐き出す糸が厄介だが、獣人の腕力で引き千切れるので特に問題なし。どんな変異をしているかは不明。

 4体目、大ムカデ。虫ばっかりだが林の中にいる魔物としては普通で特段言うべき事もない魔物である。顎の力が強いので噛まれたらその部位が無くなると思った方が良い。


「虫ばっかりじゃない! 別に苦手ってワケでもないけれど、こうしてみると気持ち悪いわね」


 エルヴィラがそう言って自身の両腕を摩る。鳥肌が立ったらしい。

 さて、とジャスパーがこちらへ視線を送って来た。


「まずはどうしましょうか。俺等は3人でここを片付けたらいいんでしょ?」

「エルヴィラは戦力にならない。先に指示を出す人間を取り押さえたいところだが、魔物の壁の向こう側だからな。難しそうだ」

「それもそうっすね。じゃあ、ま、一番面倒な大蜘蛛を率先して処理するって事で」

「そうなるだろうな」


 大蜘蛛の糸を自力で引き千切られるのはジモン自身だけだ。他2人が奴の糸に捕まればいちいち助けに行かなければならない。何せ大蜘蛛の糸は強靭だ。ヒューマンの柔い皮膚であれば、絡まった時点で大怪我になる可能性さえある。


「俺、変異種と戦うのってまだ2回目くらいなんですけど、どうです? やっぱり攻略怠い感じでした? ジモンさん」

「さあ。魔法耐性が変わっているだとか、そのくらいの話しか聞かないな。俺は魔法を使わないから何が違うのか分からない」

「そりゃそっか。そのデカい拳で何でも粉砕すれば関係ないですし」


 拳はあまり使わないのだが、訂正するのも面倒だ。

 《倉庫》から大斧を取り出し、構える。

 とにかく大蜘蛛の処理。次点で何をしてくるのかいまいち分からない死霊体の処理といった所か。ハントベアーはエルヴィラに突っ込んで行かれると恐らく処理できないのが恐い。大ムカデも背中の殻が硬いのでやはりエルヴィラに処理できそうにない――


「後ろに一体でも通すと死人が出る可能性があるのか……」


 ちら、とエルヴィラに視線をやる。一応は剣を抜き、やる気だけは伺えるがどうだろうか。不安でしかない。

 しかし事態は進行し始める。

 男の一言により、魔物達が動き出した。


 ヒューマンの子供程のサイズがある大蜘蛛は初動で適当な木に登り始めた。奴等はすぐ高い所に登りたがるが、変異種であろうと関係ないらしい。

 基本は黒い地味な色をした大蜘蛛だが、この変異種は尻の部分が鮮血のように真っ赤だ。何をしてくるか分からないので気を付ける必要がある。


「――あーっと、結構素早いな、蜘蛛。ジモンさん、俺魔法であいつを撃ち落としますんで、他よろしくっす」

「……了解」


 自称・オールラウンダーは事も無げにそう言うと、癖だろうか、装備したバングルの存在を確認するように左手でそれを撫でる。

 選択したのは《風撃Ⅱ》のようで、大蜘蛛が落ち着いた太めの枝を切り落とした。

 狙い通りと言わんばかりにほくそ笑んだジャスパーが、更に落ちて来る大蜘蛛に追撃を仕掛ける。《風撃Ⅱ》と《火撃Ⅰ》を混ぜ合わせ、小規模な爆発。蜘蛛如きの外皮ならば粉々にするだろう。


 ――目を離して問題なさそうだ。

 ジモンは一旦ジャスパーの存在を頭から締め出し、今にも襲い掛かってきそうなハントベアーと向き直る。

 この魔物は腕の骨が進化し、まるで装甲のように腕全体を覆っている魔物だ。この腕をフルスイングで振り回されれば一般ヒューマンの頭蓋など粉々。力もかなりのもので、細身系の獣人では力負けする事もしばしばある。

 尤も、ジモン自身はウヴァル族である上にその中でも恵まれた体格を持つ。普通のハントベアーには力負けはしない。目の前の変異種は分からないけれど。


 まずそもそも、アイデンティティーである骨の装甲が鋼の装甲に早変わりしている。どういう事なのか。体内にある骨も鋼で出来ている、なんて出鱈目さであればグロリアの魔弓を持って来なければ駄目なのではなかろうか。

 考えるのが嫌になって来て、ジモンはこっそり溜息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ