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万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
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15.依頼人が未知の人類すぎる(5)

 この場から離脱する事ばかりを考えていたが、襲撃者達の様子をチラと伺う。

 あまりにも静かだ。何か要求があるのかと思ったが、特に会話は発生していない。ただこちらを伺い、遠巻きに囲んでいるだけである。

 ――何だろう……小ぎれいな連中って感じ。

 その一言に尽きる。これが馬車の荷を狙って行き当たりばったりに出現した盗賊の類ならもっと盛り上がっているはずだ。

 人の荷物を奪って自身の収益にする連中に品性は無い。この大きな馬車を見つけた時点で猿のように手を叩いて喜び、どのくらい儲けが出るかについて仲間内でバカみたいな大声で話し合っているはず。

 それにそもそも、彼等には魔物を操る技術などないので襲撃者の中に魔物が混じっている時点で非常に異質だ。


 ――などと思っていたら、ハントベアと魔弓の射線を遮るように操者の一人が割り込んできた。さて、何か要求でもあるのだろうか。

 黙って事の成り行きを見守る。

 躍り出たのは30代半ばくらい、妙齢の男性だった。

 どこか疲れた表情にギルドにいるメンバーと似たような戦う為の装備をそれなりに整えている。

 ややあって、男が滔々と口を開いた。知性と品性を最低限は感じさせる。


「ギルド《レヴェリー》とお見受けする」

「……」

「パーティのリーダーは? 出来るのならば話し合いで解決したい」

「それは私」

「え? ……あ、ああ。そう。まあいい」


 ――完全にベリルかジモンをリーダーだと思ってたでしょ!

 失礼なことこの上ないが、この面子で竜人が仕切っていないと考えるのは確かに難しいかもしれない。

 矢を射るな、という意味を込めてか両手を上げたままの男が言葉を続ける。


「いくらでクエストを受けた? その金額の倍を払おう。そっちの女と交換してくれないか」

「倍。相当な金額になるから、あなた達に払えるとは思えない」

「大体いくらでクエストを受注したのかは分かっている。そして、ここにはその倍以上の金はある。疑っているのならば、これでどうだろうか」


 別の男が《倉庫》を起動、成程確かに大袋につまった大量の金貨を3袋出してみせた。であれば依頼の倍以上の金があるのは確かだろう。

 ――ということは、この人たちはアリシアが何者なのかを知っている?

 クエストを放棄する気は微塵も無いが、一連の流れからアリシアが何者なのかは少しばかり気掛かりだ。だが同時にそれを知ってしまえば、国内に蔓延る闇に手を触れる事になりそうでもある。


「リーダー殿、どうだろうか? これで交換しては貰えないか?」


 依頼人の様子を横目で伺ってみる。彼女の反応はどうだろうか。

 が、それはグロリアの予想とはまるで異なる反応だった。


「君達、面白い提案をしてくるね! グロリアちゃんは優しいから、そんな事しないさ」


 ――この人は私の何を知っているんだろう……。

 ずっと旧知の友だとか、身内のような対応をされて困惑が勝る。そんなに信頼関係が築ける程長く一緒にはいなかっただろ、とツッコミたい。


「――どうして、彼女が欲しいの?」


 知っていたらいいな、くらいの問いではあったがこちらは予想通り。男は首を横に振り、小さく溜息を吐いた。


「さあ。こちらも依頼をこなしているだけでね。この金も依頼人からの預かり物だ。正直、キナ臭いからこれを持ってトンズラしたいが……そういう訳にもいかんのでね」


 視線は後ろのクマを指しているようだ。成程、この魔物達も依頼人からの預かり物という訳で彼等の言う事を全て聞いている訳でもなさそうである。

 どこのギルドだか分からないが、相手は闇ギルドの可能性が高い。

 射線に割り込んでくるあたり、即射殺されない事も理解している。完全に同業者だ。


「それで、どうする? そうだな、あんまり竜人とはやり合いたくないな。怪我じゃ済まなそうだ」

「交換はできない。こちらも依頼だから」

「だよなあ……。仕方ない、腹を括るか」


 話している間に創った矢は3本。これからのプランも同時進行で組み立てたので、背後のベリルに通達する。


「ベリル。私とアリシアさんはこのまま正面に抜ける。後はよろしく」

「おう」


 ハントベアーと魔弓の間にいた件の男が身を屈め、直進してくる。彼等からしてみればアリシアさえ確保すればそれでいいのだ。ベリルだとかジャスパーだとかを相手取る必要性はない。


 まずはこの男を処理し、後ろに棒立ちしている熊を仕留め、そのまま走り抜ける。包囲網の殲滅はベリル達に任せればいい。


「アリシアさん、少しだけ離れて。動き辛い」

「そう? じゃあ、ちょっとだけ離れるね」


 言いながら走り寄る男の足元に足止め用のシンプルな風の矢を放つ。特殊な何かは一切ない。当たっても腰から下だから即死させてしまう心配もなく、外れたとしても時間を一瞬稼げる。ローリスクというやつだ。

 案の定、流石に矢を受けてまで突っ込む気はなかったのか一瞬だけ男が減速した。

 続けざまにバングルから魔法を起動。

 《風撃Ⅱ》2回掛け、《水撃Ⅱ》2回掛けというズボラさでパーテーション程度の氷壁を作成する。当然、人間の力でもそれなりに強く叩けばすぐに割れるし回り込む事も可能ではある。だがそれでいい。


 人間が回り込むのならばクマとの射線上に脆い氷壁しかなくなり、先にハントベアーを仕留める事ができる。

 立ち止まって人間が氷壁を処理するのならばその人間を先に地面へ縫い留めよう。


「ハントベアー! 氷壁の処理」


 男は氷壁を回り込み、クマに一応氷壁を処理させる算段で来たようだ。簡単な命令ならば魔物とはいえ理解できるのは素直に素晴らしい。

 では、先にハントベアーを処理しよう。

 人間には使えない2本目の高い殺傷力を持った矢を熊へ放つ。あんな大きな的、外す方が難しい。

 一点を貫く為だけに特化したその矢は薄い氷壁に丸い穴を空け、崩す事無くハントベアーに到達。頭蓋を貫通し、背後の樹木を2本貫いた所で効果が終了し消滅した。

 とどのつまり、どれだけ強力な装甲を得ようが装甲を持たない部分を攻撃されてしまえばこの程度という訳である。


 あとは差し迫る男をどうにかしなければならない。

 目前に迫るその人物が減速したのを目敏く発見。何を準備する為に速度が落ちたのかは分かる。

 なのでグロリアは特に防御に関する魔法を使用する事無く、《倉庫》から刀を取り出し、そのまま数歩走って男へ斬りかかった。


「――!? 《防壁》に籠らないのか!」


 魔法をメインで使っていると判断されたのだろう。魔法アタッカーであれば次手は基本《防壁》による防御だが、そんなものは時間の無駄だ。

 彼が準備していたのは持っているダガーを強化し《防壁》を破壊する為の《重量化》なのは一目瞭然だった。点による攻撃に弱い《防壁》ではこれらの攻撃を完全に防ぎきる事はできない。

 そして男側の視点から考えても《防壁》をいかに処理するのかが焦点だ。これを処理しないことには中身に辿り着けないのである。


「ああクソ、思ったよりちゃんとパーティーリーダーだった訳か」


 《重量化》した武器を振り回すのはヒューマンには不可能。《防壁》を破壊する直前に魔法を起動し、破壊後に即解除。このリズムを乱した。

 がくん、とダガーを手放すタイミングまで頭が回らなかったのか男の腕が地面に吸い寄せられる。

 こんな絶好のチャンスを逃す手はない。

 そのままグロリアは刀を真横に振り抜いた。肉を引き裂く感触と、吹き出す鮮血。実戦でしか見られないこの光景ももう何度目になるだろうか。


「アリシアさん、こっちへ」


 後ろのベリル達はよろしくやっているだろうか。

 ともあれ、アリシアを連れて戦線を離脱した。


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