表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能家だけど代償にコミュ能力を全て失いました  作者: ねんねこ
10話:見るからに怪しい要人護衛
160/179

13.依頼人が未知の人類すぎる(3)

 ***


 15分後。

 依頼人・アリシアの言った通り、ピッタリの時間にかなり大きめの馬車がやって来た。完全に金持ちが乗るようなそれだからか、道行く人々がギルドの出入り口を見ながらヒソヒソと囁き合っている。


 ――だが、そんな事はどうだっていい。否、いつもならば小心者の自分は気にするのだが、今はそれどころではない。


 グロリアは背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、失礼にならない程度に身動ぎし、流石に6人も人間が乗り込めば狭く感じる車内に視線を巡らせた。

 3対3になる座席、そこまではいい。

 問題はそう――やはりこの依頼人、アリシアである。

 半ば強引にグロリアの隣に座った彼女は馬車が出発した直後から無限に話しかけてくる。お喋りを楽しんでいるのではなく、ひたすらグロリアにのみ声を掛け、他4人など気にもかけていないようだった。


「やっぱり、ギルドで働いていると動きやすい服の方が良いの? もっと可愛い服は要らない? 知っているかもしれないけれど、王都に有名なデザイナーの店が――」


 何も返事をせずとも、アリシアの口は軽やかに回り続けている。

 3人掛けの席のど真ん中にアリシアは陣取っており、隣はグロリア。その反対隣にはジャスパーが座っている状況だ。彼はどうにか会話に入ってこようと四苦八苦しているが、ずっと空回っている。

 心配そうなエルヴィラは斜め前に座っているが、眉根を寄せて会話へ割り込むチャンスを逃してしまったようだ。


 ――何だかジモンの具合が悪そうなのも気になる……。

 出発してすぐ、エルヴィラと場所を入れ替わったジモンは窓際でぐったりと項垂れている様子だ。何かあったのは間違いないが、アリシアが延々と喋り続けているのでそこまで気が回らなかった。

 とはいえ、これは会話の流れを断ち切るチャンスだ。

 グロリアは珍しく勇気を振り絞り、ジモンへと声を掛けた。


「ジモン、さっきから具合が悪そうだけれど。大丈夫?」


 痛ましそうな顔をしたエルヴィラが代わりに応じた。


「車酔いしたみたいね」

「……そうですか」


 ――エルヴィラはジモンの介抱で忙しい。

 ジモンに車酔いするイメージは無かったが、庶民ではなかなか乗れないような大き目の馬車だ。あまり彼には合わなかったのだろう。これまで気付かなかったが。

 流石に護衛の一人がダウンしている事実に思う事があったのか、アリシアが初めて一方的なお喋りを停止した。


「車酔い? とても顔色が悪いね。でも車酔い程度なら魔法で……」


 ベリルが顔をしかめる。


「《治癒》魔法は怪我しか治せねえぞ、車酔いに効果はない」

「――ああ、そうだったね。そうだった、そうだった」


 白い手をジモンへと伸ばしかけていたアリシアが、肩を竦めてその手を引っ込めた。自衛の手段くらいは持っていそうだし、《治癒》の魔法石を持っている事に関しては気にする要素はない。

 ただ――グロリアはチラリと依頼人の装備を上から下まで確認する。

 そう、彼女は――どこにも魔法石を所持していないように見えた。《倉庫》でさえも持っていないのではないだろうか。


 ともあれ、ジモンだ。

 非常に辛そうだし、これで依頼人が危惧している『何か』から襲われようものならば面倒だ。


「隣町って、あとどのくらいで着くの?」

「30分弱かな」

「……そう。どうも」


 誰かが答えてくれたらいいな、くらいのノリで問い掛けたら即座に隣のアリシアから正確な所要時間を告げられてしまった。

 一瞬だけ静かになっていたアリシアだったが、もうジモンの事はどうだっていいのだろう。気を取り直すかの如く、また一方的なマシンガントークが再開されてしまった。


「グロリア、休みの日は何をしているの? お姉さん、気になっちゃうな」

「いや……」

「そうだ好きな色は? 食べ物は何が好き? 逆に嫌いな物は何?」

「……」


 ――恐い恐い恐い! 凄く個人的な事を聞いてくるじゃん!

 見兼ねたのか、ベリルが助け舟を出してくれる。


「よく喋るな、依頼人。お前、隣町に何しに行くつもりだ? まさか、馬車でドライブして終わりってワケじゃねえだろ」


 ベリルの問いに対し、アリシアはあまり良い顔をしなかった。

 あまり聞かれたくない話だったのだろうが、依頼をしている手前なのか一応答えを寄越す。


「忘れ物を回収しに行くだけだよ。他人から見ればガラクタかもしれないけれどね」

「そうかい。まさかデカい荷物じゃないだろうな」

「まさか。この小さな鞄に入る程度の荷物だよ」


 ――えっ、それは大丈夫な荷物なんだよね?

 アリシアの素性があまりにも怪しい。流石に犯罪の片棒は担ぎたくないので、グロリアは久方ぶりに自分から話題を発信した。


「それは……危険物とかではない?」

「大丈夫! お姉さんがグロリアちゃんにそんな危険な荷物の運搬をお願いする訳ないからね」

「それなら問題ないけれど」

「許可が取れたら、グロリアにも見せてあげるね。あー、ノーマンに聞いてからじゃないとダメだけれど」


 確認するのに人事長の許可が必要な荷物とは、危険物ではないのか。

 そう思ったのはベリルも同じだったようで非常に渋い顔をしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ