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25.再会があまりにも早い(1)

 ***


 時は少しばかり遡る。


「お前がまだ生き残ってるとは思わなかったぜ。ええ? 周りの強いメンバーにキャリーされて恥ずかしくないのか?」


 吐き捨てるようにそう言うリッキーに、エルヴィラはぐったりと溜息を吐いた。

 顔を合わせるつもりはなく、《マーキング》で印を付けたらすぐに離脱するつもりだった。

 彼は戦闘に長ける種族や性格ではないが、それでも鍛えてはいる。ついこの間まで受付嬢としてクエストの案内やら何やらをしていた自分とはキャリアの長さが違うのはしっかりと理解できていた。


 結論から述べると、奇襲は失敗。

 見事なノーコンをかまし、こちらに気付いてすらいなかったリッキーに魔法を当てそこねて普通に発見されたのが事の顛末である。


 心底嫌そうな顔のリッキーを見やる。明らかな苛立ちを全身で表しているが、いつもの事なのでまたかとそう思うくらいだろうか。


「で? どうなんだよエルヴィラ。さぞかし良い気分なんだろうな。追い出されたパーティを追い詰めるのは」


 怨嗟にも思える言葉にエルヴィラは首を横に振った。


「いや、そういうつもりはない。それに、良い気分だとかいい気味だとも思わないわ。私はもうグロリアのパーティにいるんだもの。パーティの為に働くだけだわ」

「ハッ! 良い子ちゃんぶって、善人気取りか? 今も俺に魔法を撃って、そして勝手に外したよなあ! その運が悪い体質も、状況の分かって無さそうな頭お花畑っぷりも……謎の憎しみすら覚えるくらいだ」


 薄々感じてはいたけれど、やはりそういった類の感情を彼は自分に抱いているらしかった。何かをした覚えはない。

 確かに足を引っ張ってしまった事もあった。けれどそれは他のメンバーも同じで、実力にあまりにも差がある訳ではなかったと自負している。

 一瞬だけ目を閉じて情報を整理する。やがて、ドロシーの言葉を思い出し、そしてエルヴィラは頭を振った。


「リッキーさん。私達はたぶん、『合わなかった』……。きっとそれだけだと思う。これまでお世話になった事だけは忘れないわ。ありがとう」

「お前って本当に虫唾が奔る奴だよ」


 頭を戦闘モードへと切り替える。

 最悪、《投影》による模擬戦なので死亡したところで問題はない。けれど、ここでどうにか死なずに踏ん張れることをグロリア達に示さねばならないだろう。

 故に立ち回りとしては死なず、しかし役には立ち後続に繋げる――《マーキング》を付け、グロリアに処理をお願いするのが役割なのだから。


 リッキーは既に腰の剣を抜いている。

 細身の片手剣で、実際市販の物より少し軽めに設計してあるらしい。これは前パーティメンバーの噂話でしかないが。

 そんな彼は余裕たっぷりに《サーチ》を確認している。恐らくだが、周囲に他の敵がいないのかを眼前のエルヴィラよりも気にしているらしい。当然ではある。


「――お前本当に頭にお花咲いてんだな。何で一人で俺の前に現れたんだ。馬鹿じゃねぇの?」

「いや、偶然見つけたから……」

「本当に運が悪い奴だよな。まあいいさ、お前なんて白浪に頼るまでもない。俺がささっと片付けといてやるかな!」

「白浪くんの事、大好き過ぎるよね」

「エルヴィラ。お前と違ってやることはやってくれるからな、あいつは」


 小ばかにしたように鼻を鳴らしたリッキーが臨戦態勢に入る。

 彼は特に相手の様子を伺うような行動は取らないので、瞬時に動き出した。


「うわっ!」


 思ったよりも遥かに早い振り抜き。どちらも剣を持つ前衛なので、間合いが被り過ぎているのが厳しい。格上の相手の間合いに入らなければならないという事だからだ。

 ――私では同じ前衛のリッキーに勝てない。だから《マーキング》を付けて、そして生き延びる必要がある。

 今一度方針を決め、《マーキング》を愛用の剣に付与する。少しでも刃が触れればいいが、今の所そういったチャンスを作るのは難しそうだ。


「逃げてばっかじゃ俺は倒せねぇぞ!」


 汎用的な剣の型が、使い慣れてその人物の手癖が見えるような剣筋。恐らくグロリアならば難なく看破し、すぐにリッキーを討ち取るだろう。が、エルヴィラにリッキーの手癖へ対応する程の技術は無い。

 風切り音が耳元で聞こえてゾッとする。実戦なら足が竦んでしまっていただろう。

 勇気を出して剣を振るうも、緊張によるへなちょこ剣技ではリッキーを捕らえられない。


「馬鹿にしてんのか!?」

「本当にそんなつもりは……!!」


 ――駄目だ、印を付けるとか付けないとかいうレベルじゃないくらいリッキーとの実力に開きがある!

 これではただ単騎撃破されただけのおまぬけさんになってしまう。

 幸いにもリッキーの攻撃を躱すだけならばまだ可能だ。反撃できないだけで。


「――あ。待てよ……」


 別にリッキーに印を付ける必要はないのでは。

 今この場には自分自身と彼だけが存在していて、周囲に人影はない。そもそもグロリアの狙撃能力はかなり高いので状況を伝えれば《マーキング》先はリッキーでなくともよいのではないだろうか。

 ここは《投影》内部。最悪、失敗しても死人は出ない。無駄死には訓練にならないのでやめるべきだが、新しい試みはこういった場で行うべきではないだろうか。


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