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17.後任が強そう(3)

 ***


「――了解」


 呑気に木の上に登って魔弓を眺めていたグロリアは、耳に入って来たエルヴィラの《通信》に短い返事をした。

 慌てず騒がず《サーチ》を起動し、オレンジ色の点を探す。

 エルヴィラが狙撃手に《マーキング》し、居場所が分かるようになったらしい。成程確かに、ステージの際に陣取っているであろう目立つオレンジ色の点が伺える。


 エルヴィラの話によると、狙撃手は一人で駆けていったようなので周辺に他の人物もいないだろう。長距離のみを攻撃範囲とするジョブは混戦地帯に身一つで飛び込んではならない。普通に邪魔。

 ――居場所が分かるのはこの狙撃手だけ。ベリル達も戦闘開始したって言ってたし、面倒な横槍を入れられる前に処理してしまおう。


 考えながら、矢を作成する。

 《投影》とは面白いもので、限りなくリアルな夢のようなものだ。現実では絶対にやらないし、やってはならない事だってここでなら誰も咎めない。


 作る矢は2本。

 《矢作成》、《火撃Ⅱ》、《火撃Ⅱ》、《風撃Ⅱ》で1本。ちなみに火魔法と風魔法を混ぜ合わせると爆発する。そういう魔法になる。本当はここに光魔法を足すと素晴らしく爆発威力が上がるし、光るので目潰しも出来る優秀な範囲型雑魚処理魔法に早変わりするのだが、悲しいかな4つまでしか同時に魔法を使用できないので無理だった。

 そしてもう1本。《矢作成》、《闇撃Ⅱ》、《範囲拡大》――これにより、ある程度の範囲内にいる、或いはある物を、矢を撃ち込んだ場所へ少しだけ引き寄せる。

 完全に目算にはなるが、2本目の矢で狙撃手を1本目の矢の範囲内にいれられるはずだ。細かい場所を探すのが面倒くさすぎるので周辺事焼き払う予定。それに、シンプルに木が邪魔でこれだけ離れた場所に陣取られると曲射する事になる。上から降らせる矢という訳だ。そうすると狙いが難しくなるし、威力が落ちる。

 こういう時に動体視力に優れる鳥人は素晴らしいなとつくづくそう思う。狙撃手としては、ヒューマンは鳥人に勝てない。特にこういう入り組んだ場所では。


「……始めないと」


 チャンスは一度きり。

 緊張で震えながらも、薄く深呼吸する。いつだってこういう場面では緊張してしまう。きっと永遠に慣れないだろう。憂鬱な気分になってくる。


 矢先をかなり上向けた。

 大まかに矢が落ちるポイントを定める。幸いな事に相手も狙撃手だからか、その場から全く動かない。流石にこの邪魔過ぎる木々のせいで俊敏に動く獲物を射止めるのは不可能に近いし、できたとして目と鼻の先にいる状況になっているだろうし、拳で戦った方が早いだろう。


 ――失敗したらもう、走って近距離戦に持ち込もう。エルヴィラ先輩にも申し訳なさすぎるし、責任を取って……。

 脳内で逃げ道を用意しつつ、対象を効果範囲内に引き寄せる為の矢を放つ。

 思い描いていたイメージ通と寸分の狂いもなく魔法の矢が射出したのを見て、完璧な角度調整だったと確信する。そしてそう確信した時には失敗しないのだと、これまでの経験上から学習しているのだ。

 その安心により、余計な事を考えていた脳が正常に働き始める。成功を確信したグロリアは流れるように攻撃矢を番え、自信と共にそれを間髪入れず放った。


 数秒遅れて盛大な爆発音が響き渡る。

 狙い自体は完璧だったと自負しているが、どうだろうか。《サーチ》に視線を落とす。

 ――オレンジ色の光が点滅し、消えたのを見て役割を無事に果たしたらしい事を悟った。ほっと安堵の息を漏らす。

 あれだけエルヴィラへ自信満々に「点を付けた奴からやる」などと言っておきながら、外したらとんだお笑い種だ。本当によかった。


 しかし次の瞬間、爆発音と同じくらいの爆音でベリルの《通信》が脳に響いた。


『うるせぇ!! もっと静かに出来ねぇのか!』

「狙撃手を倒した」


 反応に困った為、一先ず近況を報告する。ベリルはかなり余裕そうだが、さっき囲まれていると言っていたのはどうなったのだろうか。

 倒すべき敵が一か所に集まってくれるのは、捜す手間が省けてむしろ良いのかもしれなけれど。


 リッキーパーティの狙撃手は撃破した。ならば次は交戦しているベリル達の手伝いでもしよう。

 ――あれ……そういえば、先輩はどうなったんだろう。連絡が無いけれど。

 こちらから連絡を取ったらマズイだろうか。交戦中でそれどころではないのかもしれない。

 悩まし気な溜息を吐いたグロリアは、狙撃よりもずっと難しい声を掛けるタイミングについて思案し始めた。ベリル? 自分でどうにかするだろうから知らん。


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