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06.同期との模擬戦(2)

『開始の合図をしましょうか?』


 ――そういえば、みんな壁際にいたらどうやって模擬戦スタートするんだろう。

 そうグロリアが頭を悩ませた僅か数秒後。まさに天からの声である、事務員の言葉が闘技場内に響き渡った。投映魔法に接続し、わざわざ声を掛けてくれたのだろう。サポート能力が本当に高い。これも大手ギルドの良さである。


「お願いしまーす」


 声が大きいロボが片手を挙げて、天へと叫ぶ。すぐさま了承の意を返した事務員が、小さく咳払いし喉の調子を整えた。


『それでは、66期による2対1の変則模擬戦――開始!!』


「ジネット。俺、先行して距離を詰めるわ」

「了解」


 開始早々、相方にそう宣言したロボが倉庫魔法から片手剣を取り出しつつ、信じられない速度で突貫してきた。

 ――ええ!? もう既に、魔弓放棄して普通の武器を握りたい!!

 嘆きつつ、矢を2本作成。投映室を使用しているので、周辺被害は考慮に入れなくて良い。相手に怪我をさせる心配もなく、真の意味で実力が試される場だ。


 1本目を番え、狙いを定める事無く放つ。前回の薬草畑と違って、今回の矢は障害物に当たった時点で爆発を引き起こす、魔弓の矢としてはよく使われる物を生成した。

 風切り音と共に真っ直ぐ突き進んだ矢を、ロボが鮮やかな脚捌きで回避。ある程度の所で着弾するように軌道を選んだので、すぐに矢は地面へと衝突。瞬間には矢が爆発し、凄まじい音を立てて粉塵を巻き上がらせる。


「思ったより爆発力があったな……。おーい、ジネット、無事か!?」


 話は変わるが、ロボ・ガウスは非常に仲間思いな青年だ。ヴォルフ族は基本的に集団行動。こうして場を混乱させればすぐ仲間の点呼を取りたがる癖がある。というか、どんな場面であれ仲間に声を掛けつつ集団で狩りを進める、そんな行動を取りがちだ。

 そして同時にジネットも問いに対して必ず返事をする几帳面さがある。この視界不明瞭な状態で、仲間から安否確認をされた時、スルーするという発想は彼女にない。


「ええ、私は無事――」


 言葉は最後まで聞かなかった。

 声がした瞬間、その方向へ2本目の矢を放つ。ジネットは中距離魔法アタッカーであり、サポーターでもあるので放置したくない。というか、ロボに狙いを絞っても簡単に避けられるので魔弓矢は彼女に使った方が効果的だ。ただ、これは――


「外したかな」


 1本目よりも小規模な爆発。あまりにも視界を悪くすると、グロリア自身も被害を受ける事になるからだ。

 やがて、舞い上がった砂埃が収まり始める。

 晒された現状を見て、心中で頷いた。こちらが2人の連携方法を予想していたように、あちらもグロリアの動きを予想していたのだろう。

 ジネットはしっかりと防壁魔法で自身の身を守っていたし、突貫してくるはずだったロボは彼女のフォローへすぐさま入れる場所に位置取っている。同期達の目まぐるしい成長には目を見張るばかりだ。


 杖を手に持っているジネットが、それをグロリアへと振り翳す。もう長距離ではなく、中距離アタッカーが動きやすい間合いだ。

 案の定、ジネットの武器に装備された大きいサイズの魔法石が輝きを放つ。光撃Ⅳ――要は威力の高い光属性魔法を撃って来るだろう。この位置だとシンプルにサンドバッグになる。


 魔弓はお役御免。倉庫を起動し、仕舞って、代わりに盾を取り出す。とはいっても、ジークが使うような大盾ではない。片手で持てるサイズの通常盾だ。盾と言うより、こちらに装備している魔法石に用がある。

 視界の端で、ロボが突っ込んで来るような動きを見せたが一旦無視。ジネットが使うであろう光撃Ⅳは範囲攻撃に該当するので、それが止んでからしか攻撃して来ないはずだからだ。


 盾の魔法石スロットは内側についている。手の内は明かさない、という意味合いがあるらしいが実際は、魔法石が割と壊れやすいので表に貼れないだけだ。

 1つだけ空いている大スロットには魔法反射の魔法である、ミラーを装備している。それを瞬時に起動、隕石かと思う程の大きな光球を受け止める。受け止めて、反射。光球はジネットの方へと弾き返された。


「ええええ!? ジネットー!!」


 大袈裟に叫びつつも目と鼻の先にまで迫ったロボに恐怖すら覚える。獣人に突進される光景なんて、ホラー以外の何者でもない。

 ――もうこれ、盾は要らない。

 獣人にスイカ割りの如く上から剣を叩き付けられたら、盾は持ち堪えてもグロリアの腕が保たない。多分、骨が折れて関節が逆向きに曲がるくらいに力差がある。即席で張れる防壁魔法も無駄。ガラスのように粉々に割られる事だろう。


 故に、グロリアは持っていた盾をフリスビーよろしくロボへとぶん投げた。回転の掛かったそれを顔面で受け止める気は流石に起きなかったのか、腕を振るって盾を弾き飛ばす同期。

 その間に武器を持ち替える。獣人相手に剣でチャンバラなど自殺行為なので、そもそも間合いに入りたくない。


 常に持ち歩いている風撃Ⅰと水撃Ⅰを起動。小威力の魔法でロボの足を止める。止めて――


「強行突破だ! Ⅰ程度の魔法じゃ俺は止められないぞ!」


 ――マジ? 嘘でしょ、投映だからって無茶苦茶しないでよ。

 所々、魔法式が混ざって氷の刃を撒き散らしているグロリアの魔法。足や腕を負傷しつつもやはりロボの動きは止まらない。通常であれば痛みなりで動きが鈍くなるが、投映は夢を視ているようなもの。そういった感覚は無いので、本当に全然止まる気配がない。


「……!」


 相手が退かないのならば、自分が退くしかない。間合いを取り直すべく、逃げ場を探そうとして信じられないものを発見する。

 先程、光撃Ⅳを反射させて倒したと思っていたジネットが普通に立っていた。かなりボロボロではあるが、致命傷には至っていない。つまりこれから参戦してくるはずだ。


 ――えー、あー、それはマズい! この状況で中衛が復帰したら詰む!

 それはもう脊髄反射とか、そういった域の判断。杖を納め、刀を取り出したグロリアは身を翻して復帰しかけているジネットへと足を向けた。


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