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08.サブマスターの期待(2)

 ジャスパーがこんな調子だからか、次なる新しい獲物が現れたからか。リッキーの視線が今度こそグロリアへと向けられる。


「どうだ、グロリア? パーティが二人しかいないんだろ。俺の所と合併するか? 歓迎するぜ、お前は強いし」


 反応に困るので黙っていると、乾いた笑い声を上げたリッキーは「連れないな」、と少し苛立っている様子だ。別に彼が苛々しようとベリルに比べればちっとも恐くないのでどうだって構わないけれど。

 だが誰も彼もが放っておいてはくれない。今度はジャスパーが馴れ馴れしく声をかけてきた。


「初めましてー。俺はジャスパー。一時ギルドにいなかったから、多分俺の事知らないでしょ? まあ、こっちは君の事はよく知っているけれどね。ギルドで有名だし」


 ――すっごくグイグイ来る! 恐い!

 胡散臭いが陽キャの香りが凄い。答えのない世間話は苦手だ。緊張の面持ちでジャスパーなる人物を見返すと、彼は更に勝手に話を続けた。


「パーティの人数、足りてないんだって? 俺なんてどうかなあ。オールラウンダーでどこに置いてもそれなりに役割はこなせるし、Aランカーだし、見ての通りセレクションのリッキーさんからも認められてる優良物件なんだけど」

「お? 俺の勧誘を蹴って、別のパーティにアピールか?」

「いやだって、リッキーさん万年10位じゃないすか。グロリアちゃんは《相談所》からの叩き上げで、しかもゲオルクさんのお気に入りですよ。将来性はピカイチでしょ」

「喧嘩か? 言い値で買うぜ」

「えー、俺に単品で勝てます? メンバーを連れてきた方がいいんじゃない?」


 棘のある言葉が飛び交う中、ジャスパーがパーティに馴染めるかを考えてみる。

 そもそもベリルを苛つかせそうな言動はマイナスだ。このへらへらした感じは、仕事がこなせなければジモンからもクレームを付けられそうなレベルである。何より普通に苦手なタイプの性格。

 考え込んでいると、見透かされたようにジャスパーから補足の自己PRをされる。


「既にいるパーティメンバーの事について悩んでる? 大丈夫。俺、案外誰とでも仲良く出来るから。それに《相談所》の強豪メンバーに放り込まれても、俺吸血鬼だからね。夜間は無敵だし、そうそう遅れは取らないと思うよ」


 ここで相当に苛々しているであろうリッキーが切り口を変えて、グロリアへと言葉を投げ掛けてきた。


「よく考えた方が良いぜ、グロリア。こいつはギルドから2年失踪して、当時のパーティから除名されてんだ。お前の少ないパーティメンバーで、このいついなくなるか分からない人材は抱えられないだろ」

「やだなぁ、リッキーさん。俺にだって事情ってもんがあるんですよ」

「うるさい、黙ってろ」

「ありゃ……」

「俺にいい考えがある。まずはお前のパーティとうちを合併するだろ。そしたら、ジャスパーの言う将来性も満たせるってワケだ。全員俺のパーティになればいい」

「凄いね、アンタ……」


 とうとうへらへらと笑っていたジャスパーまでドン引きの表情を浮かべる。とんでもない理論だが、彼の中では最適解なのだろう。


「おい、いい加減にしろ」


 それまで会話の終了を待ってくれていたサブマスター・ゲオルクがとうとう眉間に皺を寄せ、声を荒げた。


「急ぎのクエストがあるんだ、邪魔をするな。持ち場に戻れ」


 リッキーとジャスパーはそれきり静かになったが、この場から立ち去る気はないようだ。溜息を吐いたゲオルクは、やはり急いでいるのか空いているソファに腰かけ、グロリアへ性急に話を始める。もう彼等の存在は無視するようだ。


「グロリア。すまないが緊急のクエストだ」

「ああもしかして、昨日から騒いでるヤツですか?」


 リッキーが首を突っ込んで来た。もう注意するのも面倒になってきたのか、溜息と共にサブマスターはそれを肯定する。


「そうだ。昨日からずっと手こずっている、盗賊を討伐するというただそれだけのクエストだ」


 途端、リッキーが困惑したように或いは嫉妬しているかのように噛み付いた。


「その失敗続きのクエストを、新規のパーティに任せるんですか? セレクションである、俺のパーティがいるのに?」

「グロリアのパーティに経験を積ませたい。そもそも、お前達にもこなせなさそうだし事態を余計に悪くしそうで頼みたくない」

「何だよそれ……」

「不満のようだが、実質《相談所》のメンバーで固められているグロリアのパーティはその時代のキャリアがある。つまりお前よりも数年長くこういった荒事に身を置いているという訳だ。今回の件は特殊。《相談所》ならばやり切れるはずだ。何度も衝突して、それは身をもって分かっている」


 盛大に舌打ちしたリッキーは、足早にその場から去って行った。情緒が忙しい。

 そうして、ゲオルクの視線が未だに残ったままのジャスパーへと向けられる。


「それで、お前は? まさか本当にグロリアのパーティに加入し、今から緊急クエストに赴くつもりか?」

「いやいやいや。初手が緊急クエストとか、怠すぎますって。うーん、検討しますって事で! それじゃ」


 ひらっと手を振ったジャスパーがそそくさと離席した。

 彼は何の為にギルド員をやっているのだろうか。金を稼ぐ為ではないのか。緊急クエストなど、相当な報酬が出るだろうに。

 そんな吸血鬼のムーブに関しては、ゲオルクでさえも怪訝そうな顔をしている。

 が、やはりそれどころではないらしく首を振った彼が話を軌道修正した。


「クエストを受けてくれるという事でいいか? 無論、報酬は高額だ。今回はクライアントも金を持っている」

「はい」

「では、パーティのメンバーも呼んでくれ。どうせ3人しかいないし、一気に説明した方が早い」

「分かりました」


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