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06.自由の代償(3)

 ***


 ベリルをロビーへと残したグロリアは、慣れた足取りでギルド内部を進み会議室に到着する。

 呼んでいるのがゲオルクなので、あまり緊張感もなくドアをノックした。奴は金の卵を産めるギルド員にのみ優しいという性質を持つのだ。


「入っていいぞ」

「失礼致します。……あ」


 気軽に入室し、その直後には驚いて一瞬だけ動きが止まる。

 サブマスター・ゲオルクは一人ではなかった。室内には先客がいたのだ。彼はグロリアと目が合うと、ソファに腰かけたまま恭しく頭を下げる。


「お嬢。この間の件で来ました」

「ジモン……。本当に移籍する気があったんだ」

「勿論、変な嘘は吐きません」


 噂をすれば何とやら。

 丁度、ベリルもジモンを引き抜いてこいとお冠だったのでこのタイミングでの訪問は大変ありがたい。流石は元盗賊という点のみが欠点の男である。

 一方で《ネルヴァ相談所》の元メンバー移籍が嬉しいのか、ゲオルクは見た事も無いくらいには上機嫌だ。悪いよりは良いだろうから問題ないけれど。


「グロリア。私から事情を説明しよう。適当に座れ」

「はい」


 サブマスターに促されるまま、ジモンの隣に座る。大男の隣に座ると、ソファがえらく狭い気もするがいいだろう。


「どうやら以前に何かしら話をしていたようだが、見ての通り彼は《レヴェリー》に移籍希望との事だ。しかし、移籍に条件がある」

「――何でしょうか?」

「彼は《レヴェリー》に移籍したいのではなく、お前のパーティに移籍を希望している。どうだろうか? 聞くまでも無いとは思うが、構わないだろう?」

「はい」


 ――変な条件出されたらどうしようかと思ってたけど、当然の話でよかった。

 心中でホッと溜息を吐く。そもそも現在2人しかいないのだ。断れる立場でもなければ、断る理由すらまるで無い。

 それにジモンは先にも述べた通り、我々3人の中では最も対人能力が高い。顔は恐いが、受付に当たり散らすような性格でもないし、これで胃痛の種が一つ減る。加えて2年前まではつるんでいたお仲間。ベリルと揉めないのも利点の一つだ。


「またよろしくお願いしますよ。そういや、ベリルさんもいるんでしょう?」


 既にジモンのあらゆる書類を代筆し始めたゲオルクを尻目に、彼がそう訊ねる。グロリアは首を縦に振り肯定の意を示した。


「いつも苛々してるけど」

「はは、人多いですからね。そういえば、ベリルさん以外には誰がいるんで? 挨拶した方が良いでしょうから、後で紹介してください」

「いや、私とベリルだけ」

「え? ……えーっと、《レヴェリー》がどういう仕組みなのか知りませんが流石に今まで2人でやってたのは厳しくないです?」

「5日前くらいにパーティを作ったばかりだから、そういう所にまで到達してない」

「……あ、はい。えーっと、お嬢のそういう何事もフィジカルで捻じ伏せる所、嫌いじゃないですよ」


 ――滅茶苦茶に気を使われている! これ私じゃなかったら「何も考えてないんすね」ってバカにされてるやつ!

 というか、とゲオルクが世間話に参加してくる。ただし、書類に何事かを記入する手は止めないままだ。


「グロリアはAランクになった場合にのみ、自身のパーティを作る予定だったからお前達が試験会場で顔を合わせた段階では自身のパーティすら作る事は確定していなかったぞ」

「ええ……? ああでも、俺を倒して首位通過したので……いや、あのレベルでAランクに上がれないなんて事はなさそうだ……。最初から勝ち上がるつもりで、全て計算の上だった……?」


 迷走し始めるジモンを前に、グロリアは心中で手を合わせて謝罪した。口下手過ぎて、あの場では上手く事情を伝えられなかったのである。

 というか、基本的にコミュ障過ぎて相手が二問出してこようが勝手に一問一答形式にしてしまう。聞かれた事に返事をしたら一答なのでそれ以外のあれこれを伝えられない。すまない、ジモン。

 ここで我に返ったジモンが、散らばった話題を上手く良い感じにまとめてくれる。


「――なんにせよ、また貴方と組めて嬉しいですよ。ベリルさんしか他のメンバーがいないのも、懐かしくていいでしょう。これからよろしくお願いします」


 よし、とゲオルクが半分は書き上がった書類を前に事務的な話を始める。


「あとはこのパーソナルデータを埋めるだけだ。ここと、ここ、そしてここに記入を」

「承知いたしました」


 ペンを受け取り、名前等を記入し始めるジモンを前にロビーに取り残してきたベリルについて思いを馳せる。きちんとお留守番は出来ているだろうか。戻ってすぐ、ギルド員と揉めていたら嫌だな。


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