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17.試合にしては血生臭い

 ***


「勝った……!?」


 控室にて《投影》を観ていたジークは思わずそう声を上げた。

 グロリアも大分重症ではあったが、アナウンスによりグロリアの判定勝ちとなった旨が告知される。

 これに関してはグロリアも《ネルヴァ相談所》のメンバーであると知らない周囲がざわつき始めた。


「《相談所》の残党に勝っちゃったわよ!? ねえ、強いんじゃなかったの、ジモン」

「いや強いよ。でもあの《レヴェリー》のグロリアの方が強かった……。痛み分けだけど、《相談所》の闘牛を殺せる戦闘力あるのか……。今年の《レヴェリー》、何かキメてるの?」

「同格相手だと分かっていたから、ジモンが最初に丁寧だったわけね」

「そういえばそうだった。あの体格差で近接読み勝ったのか。真似できねぇわ。ジモンに至っては身体づくりの時点でかなり離されてるしな」


 横で大喜びするエルヴィラによって、ジークの意識が引き戻される。

 彼女は物事をあまり深く考えないタイプのようで、後輩の活躍に涙を流しながら歓喜し、まるで保護者のようだ。感情の起伏が激しい。


「ぶっちゃけ、Dランクひよこちゃん時代から信じられない強さだったけれど、子供が独り立ちした気分だわ……!!」

「感情移入が凄いですね、エルヴィラさん。あれを自分の子供だとか言えるの、肝が据わり過ぎてますよ」


 生返事しつつも、言いようのない焦燥感に苛まれる。

 ほとんど同期と言って差し支えないグロリアが、どんどん天上人化していくのを見るのはどうしてだか苦い気分だ。


 ***


 一方で人が帰り始めている闘技場にて、イェルドは隣で咽び泣くクリメントに視線を移した。彼は自他ともに認める《ネルヴァ相談所》のオタクなのだが、最早グロリアとジモンが決勝で顔を合わせた瞬間からずっと泣いている。恐い。

 しかし聞きたい事があるので、諸々の事実は全て無視して質問した。話が進まないからだ。


「ジモンは確か……《相談所》に最後に入ったメンバーだな。在籍したのは3、4年だったはずだ」

「いや~、そうですなあ。そもそもフードの子、ジモン、ベリルの新人3人衆で組んでたんでフードとグロリア氏が同一人物の時点でメンバー揃ったって事か……。うーん、エモエモのエモです!」

「何を言っているのか分からないが。身内同士にしては試合を通り越して殺し合いだったな……。途中で観戦しに来た貴族連中が黙り込み始めた時は変な汗が出た」


 しかし珍しい光景も見られた。

 グロリアが劣勢に立たされているという、思い返せば初めて観る場面だ。技巧派のグロリアと、パワーファイター派のジモンで役割が真逆だったのも苦しい勝負になった原因だろう。

 ただし気掛かりがある。


「――もしかして、戦い方を忘れている?」

「ええ? どっちが?」

「グロリアが。後半、急にスイッチが入ったように見えた。最初からあの調子で細かい立ち回りと、冴えた思考で戦っていればここまで泥沼化しなかったように思えるな」


 新入りだと思って、かなり彼女等の面倒は見た。守られる、或いは保護される事に慣れてしまってむしろ弱体化させてしまったのかもしれない。

 Bランカー相手なら最初の氷魔法トラップだけで終わっていた。グロリアはずっと、一策で相手を詰ませるくらいの戦闘水準を保っており、苦戦の記憶が薄れてしまっていたのではないだろうか。

 危機感の欠如、それが最大の敵であったのかもしれない。本人がその事実に気付いているのかは不明だが。


「――一先ず、グロリアを迎えに行くか。お前はどうする?」

「ヒィッ! 勝利していい気分であろう推しの邪魔をしたくないので、僕は先に帰ります」

「ええ? もう俺のパーティからは離れるし、紹介も出来なくなるぞ」

「心の準備が! と言うか、推しの事はこう……遠くから見守っていたいので」

「そうか」


 ――こいつ……面倒臭いなあ……。

 流石にハッキリそう言うのは悪いと思ったので、イェルドは笑ってその気持ちを誤魔化した。


 ***


 一方で荷物を置いたままだった、通常の控室にただ一人戻って来たグロリアは室内を見回した。

 敗者から別の控室に移動させられるせいで、もうグロリアしかいない。

 仕方がないので荷物をまとめ、部屋の外へ。自由に帰っていいと言われているので一度ギルドへ――


「よっ、グロリア! Aランク昇格おめでとう!」

「ありがとう」


 ドアを開けてすぐ、エルヴィラがそう叫んだ。後ろには苦笑するジークもいる。

 わざわざ祝いに来てくれたらしい。先輩は本当にフレンドリー且つ良い人で見習っていきたい所存だ。

 誰も止めないのでエルヴィラはとめどなく話し続ける。


「決勝戦、感動したわ! 私には逆立ちしても不可能な立ち回り、あの巨漢相手に立ち向かう意気込み、思い出しただけで涙が……」

「ええ?」


 本当に涙を零し始めたエルヴィラに、ジークが目を剥く。

 しかし間を持たせる為か、これまた祝いの言葉を掛けてくれた。


「俺からも、昇格おめでとう。流石に決勝戦は変な汗が出たよ……。《相談所》同士の模擬戦なんて、そうそう見られないだろうから少し得したけれど」

「ありがとう」

「ああそれと、イェルドさんが外で待っているそうだ」

「分かった」


 話しながら外へ出ると、ジークが言った通りイェルドが待ち構えていた。穏やかな笑みを浮かべている。わざわざギルドからここまで来たらしいが、本当にマメなお人だ。

 もう三度目になる昇格おめでとうにぎこちない反応をしていると、今度、パーティメンバーで送別会のような物も行ってくれるらしい。ありがたい話だ。


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