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14.お仲間(2)

 ――これは……仕掛けた魔法に、玉が当たったかな。

 視界が白く染まったのは罠が弾けた事で混ざり合い、そして撒き散らされた氷の魔法が張っていた《防壁》に付着し表面を凍結させたからだ。


 嘆息したグロリアは、不明瞭な視界の外で自由になったジモンがうっすらと見えたので一先ず残っている矢の1本を適当に放った。魔弓は《防壁》の外にあり、特に凍った諸々の影響を受けないからだ。

 その隙に背後の氷を軽く割り、離脱。ダミー程度に氷の膜は残しておいたが、恐らくは何の役にも立たないだろう。獣人は鼻も良いのだ。


 ――と、氷の床をものともせずジモンが突っ込んできた。

 大斧を振り被る恐ろしい風切り音が響く。グロリアが残した氷のオブジェなど片足で踏み砕き、目と鼻の先にまで迫った彼はギロチンよろしく既に斧を頭上に振り上げている。


 ――えええ!? これは死ぬ!!

 心中で大慌てのグロリアは咄嗟に《風撃Ⅰ》をその場で暴発させた。こんなそよ風程度ではジモンは止められないのだが、今までのフィールド整理とちょっとした攻撃、そして悪足掻きが嚙み合って意外な結果を生む。

 トラップの爆発により、地面は凍り付いている。踏ん張りが利き辛い。加えて1本目の矢により左腕を抉ったらしい、大怪我ではないが軽傷でもない傷。そこへグロリアの悪足掻きが加わり、振り下ろされた刃の回避が間に合う。

 当たれば間違いなく即死、一撃必殺のそれはグロリアではなく地面へと吸い込まれて行った。凄まじい音と土埃、闘技場の頑丈な地面に致命的な亀裂が奔った。


 ほんの一瞬、件のジモンと目が合う。黒々とした瞳は無機質で、次の一撃で確実に仕留めるという気概を感じさせるようだ。

 何にせよこの位置関係は大変危険。早急に斧のリーチから離れなければ、次こそ胴体が真っ二つにされてもおかしくはない。


「――……」


 考えた結果、まだ手に持っている最後の矢をこの近距離で番える。最早、ジモンとグロリアの間に魔弓があるだけの間合い。

 けれど背を向けて逃げられる程、彼は甘くはないのだ。ここは向かって行くしかない場面。トラップの運用を失敗した時点でこうなる運命だったのだろう。


 斧を再度振り回そうとしていたジモンが、矢先が自身に向いていると気付いて真横に飛ぶ。筋肉に物を言わせる滅茶苦茶な動きだ。勿論、魔弓の狙いでは近距離の相手を補足し続ける事は出来ない。こんな距離感で使う武器ではないので当然だ。


 後ろ手で《倉庫》から愛刀を取り出す。

 結局、こう障害物のない場所では近接戦に持ち込まれてしまうものだ。ロングレンジに厳しいステージである。


 二度目、ジモンが大斧を振り上げる。

 この大斧を《防壁》で受けた一瞬で回避し、そのまま刀で利き腕を撥ね飛ばす。怯んだところを矢が1本だけセットされている魔弓で詰ませる。

 これが今取れる最善の流れだろう。ジモンの負傷で《防壁》が最早意味を成さないなどという事は無いはずだ。

 ――いや、それでも足りない。

 ついでに《倉庫》から《光撃Ⅲ》を装着したバングルを取り出し、ベルトに引っ掛けておいた。これは緊急離脱用の光魔法だ。光らせて時間を稼ごうという魂胆である。

 鬼人の師匠はグロリアにそう教えた。強者と相対した時は、出来る事は全てこなして臨むべきだと。このくらいでいいかという甘い考えが身を亡ぼすのである。


 数秒でその決定を下した刹那、重々しい音を立ててジモンの大斧が振り下ろされる。

 ――結果として、師の教えを真面目に聞くのは正しい事だと証明された。


 降ってくる斧の刃が瞬間的に加速する。この手法はグロリアもよく使う《重量化》を振り下ろす瞬間に掛けたものだ。

 《防壁》が本来の役割を果たせず、一瞬たりともその攻撃を止められない。回避が間に合わず、右腕の肘から先が斧の餌食となり斬り飛ばされて刀ごとロストした。


 頭の隅で師匠の無邪気な笑い声が反響する。

 成程、彼はふざけた人物ではあったが教えた内容だけはまともだった。久々に若干苦手な師に感謝しつつ、追加装備の《光撃Ⅲ》を起動する。

 光闇の魔法はとても特別な魔法だ。自然界の現象から懸け離れた、独立していて本来なら目にする事も出来ない、そんな現象。


 通常の光は手で触れる事の出来ないものではあるけれど。光魔法はそうではない。

 細かい光の粒がカッターナイフよろしく、範囲内にいる対象を傷付ける。細かい刃が降り注ぐような状況と言えばそれが正しいか。

 これほど近い距離で使ってはいけない魔法なので、ジモンだけでなくグロリアもまたその傷を甘んじて受け入れる事となった。ダメージとしては皮膚の厚いジモンよりも、薄皮しかないヒューマンのグロリアが大きいだろう。


 ジモンが一瞬だけ怯む。

 その隙にずっと温存していた矢を放った。

 殺気が漏れ出ていたのか、それともジモン自身が魔弓をずっと気にしていたのか。その矢はトドメには至らない。

 彼の太い右腕を刺し貫いたのみだった。あまりにも貫通力に優れていたおかげで、腕の切り取りすら成功しない。何という強靭な肉体、惚れ惚れしてしまう。ただ、やはり大斧を支えるだけの力は失ったのか、刃は中程まで地面に埋まっている。


「――珍しく競ってますね。俺も少しは強くなったってワケですか」

「……そうだね」

「貴方がそう言うのであれば、そうなんでしょう」


 間合いが振り出しに戻った。

 模擬戦開始時より、少しだけジモンから距離のある立ち位置だ。


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