後日談: 今度は軍人でよろしく
昭和42年(1967年) 東京
明治にタイムスリップした俺たち5人は、日本の国力を増強することで、太平洋戦争を勝利に導くことができた。
その後の世界は日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、ソ連の5ヶ国が大きな力を持ち、さらに核兵器を開発したことで、睨み合うような状況が続く。
ただし、日本が積極的にアジアの小国の独立を支援したため、その状況は徐々に変わってもいる。
最もその影響を受けたのが、第2次大戦で最も利を得たドイツであろう。
ドイツは東欧の多くをその支配下に置いていたが、アジアの状況を知った現地勢力が、独立闘争を激化させたのだ。
すでにヒトラーも亡く、強い指導力を発揮できないドイツは、徐々にその支配体制を緩めることで、なだめるしかなかった。
結果、ソ連崩壊後の独立国家共同体のような状態に、近づきつつある。
一方のソ連も、ウクライナの半分をドイツに取られ、極東には正統ロシア大公国を抱えるなど、史実に比べて大きく弱体化していた。
おかげで史実ほど、共産主義の輸出を企む余裕もなく、国内の取りまとめに四苦八苦しているようだ。
いずれ耐えられなくなって、共産主義を放棄すると見られていた。
そして史実で栄華を誇ったアメリカも、それほど上手くいっていない。
日本とイギリスという大国が、相互に友好的な関係を保ちながら、東西に控えているからだ。
おかげでアメリカが海外に影響力を発揮できるのは、せいぜい南米ぐらいのものである。
それに対して日本は、アジアの小国の盟主的な存在となっているし、イギリスも植民地が独立しつつあるものの、その影響力はまだ大きい。
軍事的な負担は軽くないものの、まあ勝ち組と言っていいだろう。
ちなみにお隣の中華民国だが、史実に比べて満州とチベットを欠いた状態で、軍閥や共産党の跳梁に悩まされている。
さらには東トルキスタンや内蒙古などの独立問題も抱えており、しばらくは不安定な状況が続きそうだ。
そんな感じで世界は、大きな戦争が起きることもなく、徐々に発展を続けていた。
そして今年80歳になる俺にも、とうとうお迎えが来たようだ。
「うう、後のことは、頼むぞ」
「はい、あなた。ご苦労さまでした」
「こちらこそ。今まで、世話に、なった……」
「あなた……」
俺は徐々に意識が遠のくのに、身を任せる。
今まで本当に苦労してきたが、明治にタイムスリップさせられた目的は、果たすことができたのだ。
それなりに満足感を抱きながら、逝くことができる。
一緒にタイムスリップした後島、中島、佐島、川島も、今年に入ってバタバタと鬼籍に入っている。
ひょっとしたら、あの世であいつらに会えるんじゃないかと思いながら、俺の意識は闇に落ちた。
しかしその後、俺は真っ白な世界で目を覚ました。
なぜか体は動かないが、意識ははっきりしている。
そんな、予想外の状況に戸惑っていると、やがて話しかける声があった。
「やあ、君が大島くんだね?」
「ッ! だ、誰ですか?」
「私かい? 私はそうだねえ……君を明治に呼んだ者だよ」
「ええっ、ということは、神様ですか?」
まじめにそう問えば、相手が苦笑する雰囲気が伝わってくる。
「いやいや、全知全能の神なんてものじゃないさ。そうだねえ、分かりやすい呼び方をすれば、”高位存在”、になるかな」
「高位、存在?」
「そうそう。人間に比べれば、はるかにいろいろなことができるけど、万能でもないって感じ」
「なるほど……ていうか、俺を明治に呼んだって言いましたよね?」
「ああ、君たち5人を、明治に送ったのは私さ」
「なんでそんなことを?」
そう問うと、相手はあっけらかんと答える。
「う~ん、はっきり言っちゃうと、日本が勝つところを見たかったからだね」
「見たかったって、それだけですか?」
「うん、それだけ。アメリカが世界中を戦争に巻きこんだくせに、偉そうにしているのが気に食わないってのもある。君たちのおかげで、楽しいものが見れたよ」
「楽しいものが見れたよって、ほとんど娯楽気分じゃないですか?」
「うん、そうだよ。私にとっては娯楽みたいなもんさ」
「そこまで開き直るなんて……」
全く悪びれない相手に、逆に毒気を抜かれる。
少し黙っていると、相手がまた口を開いた。
「それでさ、せっかくだから、またやって欲しいんだ」
「ええっ、もう一度、明治に行けって言うんですか? それじゃあ、同じ結果になるだけだと思うけど」
「うん、それじゃあ面白くないから、今度は軍人になってもらう。それも明治に生きる人間に、転生する形だ」
「うえっ、今度は赤ん坊からやれっていうこと?」
「いや、それは辛いだろうから、18歳で記憶を取り戻す形にするよ」
「18歳で取り戻すって、どうやって?」
「行ってみれば分かるよ。それから向こうでは、協力者も準備しておくから。それじゃあ、今度は軍人でよろしく」
「おい、コラ。ちょっと待てやあぁぁぁ~」
しかし抵抗も虚しく、俺の意識はまた闇に落ちたのだ。
ということで、続編もあるので、読んでみてください。
未来から吹いた風2 《軍人転生編》
タイトルの上の”未来から吹いた風シリーズ”から行けます。




