56.アメリカ艦隊の来襲
昭和15年(1940年)11月初旬 東京砲兵工廠
「アメリカ艦隊が、マーシャルに来襲したって?」
「ああ、もぬけの殻だったんで、さぞかし拍子抜けしただろうよ。今はエニウェトクに、基地を築いてるようだ」
「ようやくフィリピンの救援に出向いたってことだね?」
「ああ、おおかたマッカーサーにでも、せっつかれたんだろうな」
とうとうアメリカ艦隊が、日本が委任統治するマーシャル諸島に来襲した。
ただし日本はマリアナ、ヤップ、パラオより南の南洋諸島からは、とっくの昔に住民も避難させて、偵察部隊のみを配置している。
そして敵の接近を察知するやいなや、即座に撤収したので、人的な被害は出ていない。
無血でマーシャル諸島を占領したアメリカ軍は、エニウェトクに基地を築き、マリアナをうかがっているそうだ。
「それで敵の規模は?」
「そうだな……史実の太平洋艦隊より、だいたい2割増しってとこかね」
「うわぁ……」
どうやらアメリカは、乾坤一擲の大勝負を挑むつもりらしい。
開戦後2ヶ月も経っているのは、日本が予想以上に手強いと見て、大西洋の状況もにらみながら、艦隊を編成するのに時間が掛かったのであろう。
その編成は、以下のようなものだ。
戦艦:モンタナ、オハイオ、ノースカロライナ、ワシントン、アリゾナ、ネヴァダ、ペンシルベニア、カリフォルニア、テネシー、オクラホマ、ウェストバージニア、メリーランド、コロラド
空母:レキシントン、サラトガ、エンタープライズ、ヨークタウン(航空機 366機)
重巡洋艦8隻、軽巡洋艦8隻、駆逐艦40隻
これは史実の太平洋艦隊に対し、新型戦艦モンタナ、オハイオ、ノースカロライナ、ワシントンと、空母ヨークタウンが追加された形だ。
特にモンタナとオハイオは、6万トンを超える巨艦である。
史実では、計画だけで起工すらされずに消えていった戦艦だが、この世界ではすでに2隻が就役。
さらに3隻が建造途中にあるという。
しかも史実では16インチ砲だったのが、なんと18インチ(45.7センチ)砲を9門搭載するのだ。
これも大和型戦艦で、18インチ砲搭載を臭わせた結果であろう。
ちなみに史実で造られたサウスダコタ級4隻と、アイオワ級6隻も、それぞれ建造中もしくは建造予定という状況だ。
さすがはアメリカ、ぶっとんだ生産能力である。
ただし空母の方はそれほどでもなく、エセックス級はまだ起工すらされていないらしい。
(史実でも1941年4月に起工)
つまり日本は大和型の情報をリークすることで、アメリカに戦艦建造を優先させ、資金と資源を浪費させることに成功したと言える。
これが史実の場合、逆に大和型の建造を秘匿してしまった。
おかげで戦艦の存在意義である示威効果は発揮されず、戦略的な駆け引きにも全く活用できていない。
当時の日本海軍上層部が、いかに政治・戦略を考えていなかったかが、ここにも表れている。
「それでアメリカ艦隊は、態勢を整えたら攻めてくるんだよね」
「ああ、十中八九、グアムの奪還を考えているだろう。そして日本艦隊の殲滅もな」
「だよな~。それで敵の監視体制は、十分なのか?」
「ああ、潜水艦部隊が、ウェークやマーシャル付近に展開してる。彼らには監視に徹するよう指示してあるから、問題なく敵の動向は探れるだろう」
「フフフ、そのうえでマリアナに引きこんで、だな?」
「ああ、アメさんには悪いが、海の藻屑になってもらおうじゃないか」
そんな話をしながら俺たちは、悪い顔で笑い合った。
ちなみに今、マーシャル近海に展開しているのは、第1潜水艦隊だ。
それは20隻以上の新型潜水艦で構成されており、監視任務に就いている。
その性能はこんな感じだ。
【伊100型潜水艦】
全長・全幅:85x7m
基準排水量:水上1780トン、水中2060トン
出力 :水上5千馬力、水中6千馬力
最大速力 :水上15ノット、水中19ノット
機関 :三菱重工製ディーゼル2基、2軸
主要兵装 :53センチ魚雷発射管 艦首4門,魚雷数20本
史実でいう潜高型もしくは、ドイツのXXI型に相当する艦で、潜水性能に優れるタイプである。
外観上の凹凸をなるべく排除し、大量の鉛バッテリーを搭載することで、高速・長時間の潜水が可能となっている。
さらに高性能のレーダーと通信機を装備しているので、偵察能力も高い。
以前は水上偵察機を搭載した、指揮偵察型の潜水艦も検討していたのだが、電子装備の進化により、不要となってしまったほどだ。
ただし複数の航空機を搭載できる潜水空母タイプは、アメリカ西海岸の攻撃を見据えて、開発を継続している。
その活躍については、いずれ紹介できる日も来るだろう。
そして上記のような高性能潜水艦の偵察により、アメリカ艦隊の動向はつかめていた。
敵さんは今、クェゼリン環礁で、艦隊を再編しているらしい。
それが終われば遠からず、グアムに押し寄せてくるだろう。
ただしアメリカの思うようにさせないよう、こちらも十分に準備は整えていた。




