49.艦載機ができたよ
昭和12年(1937年)4月 海軍追浜飛行場
「お~、零戦だ」
「ああ、零戦だな」
「うん、零戦だ」
「この世界では、3年も早く生まれたっちゅうわけやな」
「うん、しかもより高性能にね」
俺たちは海軍の追浜飛行場に来ていた。
それも続々と制式化された、艦上航空機を見るためだ。
今、俺たちの前で、華麗に空を飛んでいるのは、97式艦上戦闘機だった。
【97式 艦上戦闘機】 カッコ内は零戦21型の数値
長さx幅 :9.1x11m
自重 :1856kg
エンジン :三菱 金星 空冷複列星型14気筒
出力 :1130馬力(940馬力)
最大速度 :時速565キロ(533キロ)
航続距離 :増槽つき2200km(3350km)
武装 :12.7ミリ機銃x4
乗員 :1名
その外観は、史実の零戦によく似ている。
ただし航続距離は21型より千キロ以上少ないし、格闘戦能力もそこそこでしかない。
その分、速度や急降下性能に優れていて、生産性にも多大な配慮がなされている。
そして史実の中島製 栄エンジンに代わって、大型の金星エンジンを採用しているため、今後の能力にも発展性があった。
一般に零戦は、世界に誇れる名機だと言われるが、実際にはそれほどでもない。
たしかにあの時代に日本が作った戦闘機としては、出色の出来だったとは思うが、はっきり言って素性が良くない。
なぜなら零戦は、海軍の無知・無理解による無茶ぶりに応えるため、三菱がなんとか仕立て上げた苦心作でしかないからだ。
なにしろ海軍は零戦に対し、過大な速度性能・航続距離・格闘戦能力を、同時に要求した。
ひとつひとつはそれほど困難でなくても、それを3つ同時になど、相当に無茶な話だ。
三菱もあまりに困難なので、優先順位を付けてくれと頼みにいったが、結局うけいれてもらえなかった。
やむを得ず、苦心に苦心を重ねて作り上げた零戦は、たしかにすばらしい機体ではあった。
しかしその一方で、高速ではほとんど操縦桿が動かないとか、急降下制限速度が低いとか、生産性が悪いなどの問題も多く抱えていたのだ。
それがさも名機のように持ち上げられているのは、戦後の海軍関係者の宣伝工作によるものであろう。
そんな話を仲間うちでしていると、三菱の堀越技師が近寄ってきた。
「どうも、大島さん。おかげで97艦戦が無事に制式化できましたよ」
「おめでとうございます、堀越さん。なかなかいい機体に仕上がったみたいですね」
「ええ、海軍さんからもご好評をいただいてます。だけど大島さんの助言がなかったら、ここまでの機体にはならなかったですよ。金星の採用についても、お口添えいただきましたしね」
「ハハハ、あれが役に立ったのなら、私も嬉しいですよ」
実は97艦戦の開発過程で、中島飛行機のエンジンを載せろという、海軍の指示が発生していたのだ。
史実でも三菱のエンジン部門は海軍に嫌われていたせいか、零戦と烈風に中島飛行機のエンジンを載せろと指示されている。
まず零戦は当初、三菱の瑞星エンジンを積んでいたのだが、試作途中で栄エンジンへの変更を強いられた。
瑞星も栄も、排気量は28リッター程度で同等だが、栄の方が軽量で出力も高かった。
それゆえの変更指示であろうが、長期的に見ればどうだろうか?
中島よりも信頼性の高い三菱製の方が、後の性能向上には伸びしろがあった可能性がある。
そして烈風に至っては、誉エンジンの開発失敗が、完全に足を引っ張り、終戦に間に合わなかったのだ。
三菱にはハ43という、金星の18気筒版もあったのに。
(実際に烈風に搭載されて好成績を挙げたが、実用化前に終戦を迎えた)
そしてこの世界でも三菱のエンジン部門は嫌われているのか、それとも中島さんの売り込みが上手いのか、97艦戦への栄エンジン搭載が、浮上していたのだ。
別にこの時代、他社のエンジンを載せるなど珍しくもないのだが、三菱重工内に有望なエンジンがあるのに、わざわざ外部から買う必要もない。
そこで俺は、信頼性の高さと三菱内の連携効果を訴え、金星エンジンを推したのだ。
すでにエンジンの大家として認められている、俺の発言だ。
それはさほど抵抗を受けることもなく、既定方針として認められた。
おかげで深尾さんたちは、涙ぐむほどに喜んでいたね。
そんなこともあって、高性能な97艦戦が完成したのは、喜ばしい限りである。
やがて艦戦の模擬飛行が終わり、攻撃機と爆撃機のお披露目が始まった。
「こっちは97艦攻と、99艦爆だね」
「だな。だけどやっぱり性能は上がってるんだろ」
「それはもちろん」
97式艦上攻撃機と爆撃機は、それぞれ史実の97艦攻と99艦爆にそっくりだ。
しかし当然ながら、その性能は史実を数年は先行していた。
【97式 艦上攻撃機】 カッコ内は史実の97艦攻
長さx幅 :10.3x15.3m
自重 :2342kg
エンジン :中島 栄 空冷複列星型14気筒
出力 :1150馬力(970馬力)
最大速度 :毎時390キロ(378キロ)
航続距離 :増槽つき1993km
武装 :7.7ミリ旋回機銃
800kg魚雷x1もしくは800kg爆弾
乗員 :3名
【97式 艦上爆撃機】 カッコ内は99艦爆の数値
長さx幅 :10.2x14.4m
自重 :2390kg
エンジン :三菱 金星 空冷複列星型14気筒
出力 :1130馬力(1070馬力)
最大速度 :毎時390キロ(382キロ)
航続距離 :1500km
武装 :7.7ミリ機銃x2、7.7ミリ旋回機銃x1
250kg爆弾x1もしくは60kgx2
乗員 :2名
それぞれ中島飛行機と愛知航空機の設計・製造によるが、艦爆の方は金星エンジンを載せている。
(史実でも、それぞれ栄と金星を採用)
いっそのこと、艦攻も金星にしようという話もあったのだが、中島飛行機から”ぜひ栄を使わせてくれ”と言ってきたので、様子を見た。
ちなみにこの世界の栄エンジンは、俺の助言で金星並みの排気量にアップしている。
おかげで、出力や信頼性にも余裕があり、その分、大きく重くはなっているが、将来性があるので採用と相成ったわけだ。
全て統一した方が、整備や補給の面で有利かとも思ったのだが、競争も必要だと思い直した。
実際に成果を出してきているので、今後も競い合って、さらなる高性能化を果たして欲しい。
そう思っていると、例のあの人が顔を出してきた。
「やあ、大島さん。見てくださいよ、うちの機体を。これも大島さんたちのおかげだからね」
「どうも、中島さん。今日も元気そうですね」
「そんなことないよ。最近は体がいうことを聞かなくてね。年は取りたくないよ。ワハハハハッ」
そう言って豪快に笑うのは中島知久平、中島飛行機の社長である。
すると一緒に来ていた男性も、あいさつをしてくる。
「こんにちは、大島さん」
「どうも、小山さん。97艦攻の開発が成功したようで、なによりです」
「ええ、これも大島さんや後島さんのおかげですよ」
彼は小山悌といって、中島飛行機で技師長を務める男性である。
中島飛行機にはエンジン設計を統括できる人材がいなかったので、彼と相談して設計方針を決めたりしたのだ。
おかげでエンジン設計部門にまとまりが生まれ、信頼性もだいぶ高まっている。
本来なら、そこまで世話を焼く筋合いではないのだが、強引な中島さんに巻きこまれ、いろいろと汗をかいた結果だ。
おかげであの会社に行くと、”先生、先生!”といって追い回されるんだぜ。
俺は中島の社員じゃねえって~の。
まあ、日本のためになっていると思えば、それほど腹も立たないが、ほどほどにしてもらいたいものである。
いずれにしろ、これで空母機動部隊を構成する機体も出揃った。
仮に戦争が起こっても、なんとかなるんじゃないかな。
零戦は海軍の宣伝工作によって、過剰に評価されてますよね。
もちろん悪い機体ではないんですが、一般に言われるほどの名機ではないと思います。
実際に開発者の1人である曾根嘉年さんも、
”零戦は使い物になるものができたという認識だったのに、そんなに(有名になるほど)いいものをつくったのかなぁ?”
と不思議がってたそうです。
それと開発途中で堀越さんが海軍に、”格闘性能・速度・航続距離に優先順位を付けてほしい” と言ったそうです。
すると源田少佐が”格闘性能”、柴田少佐が”速度と航続距離”を主張して譲らなかったため、結局どっちつかずの機体になったんだとか。
この時、源田少佐に先見性があれば、もっといい機体になったのかもしれませんね。
まあ、大局には影響なかったでしょうが。(^_^;)




