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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~  作者: 青雲あゆむ
第3章 昭和編

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46.対米戦争の予兆

昭和10年(1935年)4月 皇居


「下手をすると、我が国も戦争に巻きこまれるかもしれません」

「なんだと!」


 川島の警告に、若槻さんが大きな声を上げる。

 しかし川島は動じずに、その考えを説明する。


「以前からお話しているように、1939年に欧州大戦が再発する可能性があります。ドイツのポーランド侵攻に端を発する、第2次世界大戦です」

「うむ、それは聞いている。実際にドイツではヒトラーが台頭しているので、その可能性も高そうだな」

「ええ。史実ではドイツの初期の躍進に目がくらんだ日本は、日独伊三国同盟を締結してしまいます。その後、日本は大陸からの撤退と、三国同盟の空文化をアメリカに迫られ、米英蘭との開戦に踏み切るんですね。しかしこの世界では、大陸の利権はだいぶ少ないですし、英蘭との関係も良好です。このまま行けば、欧州大戦とは無縁でいられる可能性もあります」

「うむ、外交関係には配慮しているからな」


 若槻さんが実感のこもった声を上げれば、他の元老もうなずいている。

 実際問題、イギリスやオランダには、けっこう気を遣っているのだ。

 特にイギリスと日本は、貿易関係で衝突する要素をはらんでいた。


 元々、イギリスは産業革命により、綿工業の動力化に成功し、その綿製品は世界を牛耳っていた。

 しかし日本も第1次大戦中、紡績業を中心に急成長する。

 逆にイギリスは大戦で国力を消耗していたうえに、工場や機械は老朽化していた。

 その結果とうとう、世界大恐慌後に日本の綿製品が、イギリスを上回るようになったのだ。


 特にインド市場を奪われたことを問題視したイギリスは、イギリス以外の綿製品に対して関税の引き上げを実施。

 日本製品を締め出そうとした。

 これに日本もインドの綿花ボイコットなどで対抗し、インド経済が大きな打撃を受けている。


 さすがにどちらもいいことはないので、日本はインドと話し合いを持ったが、問題は解決しなかった。

 結局、イギリスの横槍もあって、日本の綿製品はインドから締め出されてしまう。

 その結果、日本がはけ口を求めたのが、満州というわけだ。


 しかしこの世界では、イギリスとは友好条約を結び直し、こまめに意思の疎通を図っている。

 互いの貿易状態を確認しながら、行きすぎた輸出にならないよう、事前に調整するよう心がけているのだ。

 例えば、”インドへの輸出が減ってるから、少しそちらで控えてくれない?” みたいな打診をイギリスがしたとしよう。


 それがイギリスの支配する領域であれば、日本も敬意を払って、多少は輸出を自粛する。

 もちろん完全に統制はできないが、少しでも気を遣ってるってのが、大事なのだ。

 そうなると、日本が譲歩する場合が多くなるが、イギリスもそうそう無茶ばかりは言わない。


 なにしろこの世界で日英は、第1次大戦を共に戦った関係で、好感度は史実よりもはるかに高いのだ。

 そのうえで日本は、史実の倍近く発展しているため、下手に敵に回すよりは、味方にした方がいいとなる。

 結果、ポンド経済圏と円経済圏は、ほどほどに連携しながら、上手くやっていた。


 オランダの方も、日本は蘭印石油のお得意さまだ。

 蘭印の資源開発も共同でやってるので、こちらもそれなりに友好的だと言えるだろう。

 つまりもし欧州大戦が再発しても、日本は英蘭と敵対することはなく、むしろ協力する可能性が高いのだ。


 すると今度は、松方さんが口を開く。


「これだけ外交に配慮して、情勢は安定しているのだ。さすがにアメリカも、敵対しにくいのではないかね?」

「う~ん、そうならいいんですが、今回の動きは、将来の敵対を示唆してるように思えます。それにあの国は、難癖をつけて戦争に巻きこむのが、大好きですからね」

「そうなのかね?」

「ええ、平気で事件を捏造して、戦争に持ちこむんですよ。まあ、史実の日本でも、やったことですけど」


 アメリカといえば、開戦の口実をひねり出すことにおいては、右に出る者はいない。

 米西戦争のメイン号事件、第1次大戦のルシタニア号事件、ベトナム戦争のトンキン湾事件、そしてイラク戦争の大量破壊兵器保有疑惑など、実例は多数ある。

 特にトンキン湾事件では自作自演の疑いが強く、自国のためにはどんな卑怯な手もいとわない部分があった。

 そんな話をしてやると、元老たちがうめき声を上げる。


「そこまでやるか?」

「そんなことをされては、防ぎようがないではないか」

「おっしゃるとおり、防げない可能性は高いですから、いざという時の備えが必要なのですよ」

「たしかに……それもそうだな」

「しかしアメリカと戦争などして、本当に勝てるのかね?」


 そう問うたのは西園寺さんだ。


「何をもって勝ったというかによりますが、不可能ではないと思いますよ」

「ほう、具体的にはどうするのかね?」

「そうですね……まず敵を引き寄せてから、敵兵を殺しまくります。そのうえで敵の海上輸送路シーレーンを締め上げて、厭戦気分を誘う感じですかね。場合によっては、西海岸への攻撃も実施します。アメリカって国は、州の権限が強いですから、どこかが脱落するぐらいになれば、講和が成立するかもしれません」

「……それは凄い話だ。しかしそんなに上手く、いくものかね?」

「さあ? それはやってみないと分からない部分はありますが、そのためにいろいろと、手を打ってきたんです」


 川島が肩をすくめて言うが、元老たちもそれ以上は追求しない。

 実際に俺たちが、日本を大きく変えてきたことを、よく知っているからだ。

 その後もいろいろと世界情勢について語り合い、今後も状況を注視することとして、その場は散会となった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


昭和10年(1935年)6月1日 東京砲兵工廠


「「「乾杯!」」」


 そして6月の1日になり、俺たちはお祝いをしていた。

 明治にタイムスリップして、満30年の記念日だ。


「もう30年か。長いようで、あっという間だったな」

「ああ、ほんと。40代を2度も経験するとはな」

「そうそう、また太っちゃったよ」

「そんなん、まだマシやで」

「四郎は太りすぎだよね」

「ええねん。人生は楽しんだもん勝ちや。ガハハッ」


 そう言って豪快に笑う佐島は、けっこう太っていた。

 結婚して美味いメシを食っているせいだろうか。

 しかし佐島以外は、それほど太ってはいない。

 もちろん、年相応にぜい肉はついているが、服を着ていれば目立たないレベルだ。


「それにしても、これからどうなるのかな?」

「まあ、アメリカがやる気だってのは、はっきりしてるな」

「だな。大々的な建造プランを公表してるし」


 今年に入ってアメリカは、史実のヴィンソン案以上の大建艦計画を、発表していた。

 それはいまだに尾を引く大恐慌への対策というのもあるが、ただ造るだけで終わるつもりもないだろう。


「そんなもん、こっちもやってやればええねん。日本の国力も、格段に上がってるさかいな」

「まあ、そうだけどな」


 実際、日本の国力は格段に高まっていた。


【1935年の推定国力】 カッコ内は史実の値


実質GDP:3600億ドル(1961億ドル)

人口:   7200万人 (6924万人)

製鉄能力: 800万トン (200万トン)

発電能力: 700万kW (418万kW)

自動車保有:40万台   (12.6万台)

石油生産量:180万kL (40万kL)

石油消費量:300万kL (170万kL)


 すでに実質GDPは、イギリスの3660億ドルに迫る勢いだ。

 もちろんアメリカ(1兆1316億ドル)にはまるで敵わないが、史実の倍に近いのだ。

 そして俺たちが育成してきた、各種産業の力があれば……


 きな臭さを増す世界情勢に気を引き締めつつも、俺たちはつかの間の余暇を楽しんでいた。

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