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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~  作者: 青雲あゆむ
第3章 昭和編

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43.戦車を開発しよう

昭和7年(1932年)4月 東京砲兵工廠


 第1次世界大戦で誕生した兵器のひとつに、戦車がある。

 同大戦では塹壕や機関銃陣地、鉄条網に守られた防衛線が発展したため、それを攻める兵士に甚大な被害を強いるようになった。

 その結果、敵の防衛線を乗りこえて味方を送りこむための、装軌式の装甲車両の開発構想が生まれたのだ。


 それはやがて、1916年のソンムの戦いに、イギリスのマークⅠ戦車として現れる。

 その戦果自体はさほど芳しくはなかったものの、これ以降、戦車というものが戦場で運用されていく。

 1918年にはフランスのルノー FT-17が登場し、戦車の基本形がすでにできあがっていたほどだ。


 それを受けて戦後、日本もイギリスやフランスから戦車を輸入し、調査・研究に取り掛かる。

 俺たちもその状況は注視していたが、あまり積極的に介入はしなかった。

 なぜなら戦車を本格的に開発するには、日本の工業力が足りないと思ったからだ。


 史実では、大阪砲兵工廠で試作された戦車の技術が、自動車産業へ波及したという。

 しかしこの世界では、逆に民間の工業力を利用して、立派な戦車を造ってやろうと考えていた。

 (戦車オタの中島は、すぐにもやりたがったのだが)


 そして1932年にもなると、その8年前に打っておいた布石が、ようやく生きてきた。

 そう、国内で建機の試作を募った、あの成果が現れたのだ。


「これが試製3号戦車だ!」

「「「おお~~!」」」


 巨大な鉄の塊が、黒煙と轟音を上げながら、大地を疾走する。

 それは一見すると、史実で43年に実用化された、1式中戦車に似たものだ。

 しかも格段に技術力の高まったこの世界では、その性能はさらに高まっている。


【試製3号戦車】 カッコ内は1式中戦車の史実仕様


車体長・全幅・全高:5.7x2.3x2.4m

重量       :20トン(15.2トン)

最大速度     :44km/h

行動距離     :210km

兵装       :48口径47ミリ砲、7.7ミリ機銃x2

機関       :三菱製 空冷V12ディーゼル

出力       :300馬力(240馬力)

懸架方式     :改クリスティー式サスペンション(シーソー式)

乗員       :5名


 まず重量が5トン近く増えている分、装甲が厚くなっている。

 1式は史実でも溶接方式を取り入れているが、この世界では溶接技術が進んでいるため、早くもそれが実用化されていた。


 そしてそんな巨体を走らせるエンジンや駆動系も、相応に強化されている。

 なにしろ8年前から建機の開発を奨励し、技術力を高めてきたのだ。

 史実では評判の悪かったエンジンや駆動系も、相応に性能と信頼性が高まっていた。


 その機関は史実にならって、空冷ディーゼルエンジンを採用している。

 空冷ディーゼルは燃費が良く、整備性が高いうえに、敵の攻撃で火災が発生しにくいというメリットがある。

 特に極寒のロシア方面が主戦場に想定される日本としては、冷却水の調達や凍結トラブルで悩まなくてすむのは大きい。


 その反面、でかいわりに出力が低くて、黒煙・騒音・振動が大きく、潤滑油の消費が激しいというデメリットもある。

 しかし俺たちの未来知識と、進歩した工業力で底上げされたエンジンは、なかなかの出来栄えだ。

 おかげで試作とはいえ、1式中戦車相当のモノが、10年近くはやく実現できたわけだ。


 さらに懸架装置には、有名なクリスティー式サスペンションを改良したものが、採用されている。

 クリスティー式は不整地でも高速が出しやすく、複雑な地形にも対応できる。

 そして改クリスティー式サスペンションは、イギリスのクロムウェル戦車同様に、スプリングを斜めにした方式である。

 これだと車高が低くできるし、特許も回避しやすいので、中島が採用を後押しした形だ。


 そんな試製戦車を紹介してくれているのは、原乙未生はら とみお少佐である。

 日本の戦車開発者として、有名な御仁だ。


「それにしても、中島さんたちの助言どおりに装甲を厚くしたけど、本当にここまでやる必要があるんですかね?」

「そこは信じてもらうしかないですね。でもちょっと想像してみてください。エンジンや足回りの性能が上がれば、より大きな砲が積めるんです。そしてそれに対抗するには、装甲を厚くしないといけない。ほら、必要でしょ」

「う~ん、しかし欧州の方では、軽戦車を揃える傾向にあるみたいですけど?」

「今まではそうでしたけど、イギリスやソ連では重量型に回帰するみたいですよ」

「え、どこの情報ですか? それ」

「それは秘密です。だけど今後は確実に、重武装・重装甲化が進みます。日本も流れに乗り遅れないよう、少なくとも開発だけはしとかないと」

「う~む、なるほど」


 そんな話を、中島が原さんとしている。

 戦車については中島の知識が頭抜けているので、基本は彼におまかせだ。

 普段はナイーブな彼も、戦車と電気のことになると、ひどく饒舌じょうぜつになる。


 そして中島は史実の知識に従い、今後の戦車の方向性を予測してみせた。

 幸いにも軍や愛国商会から入ってくる情報から、この世界でも流れが変わっていないのは確認できている。

 基本的に1920年代には、”戦車は歩兵の支援に使うもの”だとか、”高速走行が可能な軽戦車なら、装甲が薄くても構わない”、なんて思想が流行はやっていたそうだ。


 後の第2次大戦で繰り広げられる、機甲師団による殴り合いなどというものは、ほとんど考えられていなかったのだ。

 おかげで当時は、軽装甲・軽武装の戦車が、いろいろと作られていた。

 しかしそれも30年代になると変化し、次第に重武装・重装甲の戦車が生まれてくる。


 そろそろイギリスやソ連では中型の戦車が作られつつあるのだが、一般に知られるのはまだ先の話だ。

 原さんもその情報は初耳だったようだが、決して馬鹿にはしていない。


「それであれば、もっと余裕のある設計にしておくべきですかね?」

「そうですね。いざというときに装甲を厚くして、さらに大きな砲を積む余地は、残しておくべきでしょう。そしてさらなる強敵に備えて、40トン級の戦車も、開発するべきです」

「40トンですって? 中島さんはどこの国と戦うつもりですか?」


 中島の提案に、原さんがひどく驚く。

 しかし中島は、平然とそれに答える。


「最大の主敵は、ソ連ですね。そして場合によっては、ドイツと戦うことになるかもしれません」

「ドイツですって? なんでまたあの国と!」

「詳細は話せませんが、火種ができつつあるんですよ」

「そんなことが……」


 事実、この年のドイツでは大統領選挙が行われ、ヒトラーが2位につけるという事態が発生していた。

 ヒトラーは大統領の椅子こそ逃したものの、その勢いを駆って、ナチ党が国会で第1党に成り上がるのだ。

 その先はヒトラーの首相就任であり、独裁政権の誕生である。


 俺たちの影響で多少なりと変わっているこの世界だが、欧州の動きは不気味なほど、史実を踏襲していた。

 それはしょせん日本が欧州との関係が薄いからか、それとも歴史の修正力みたいなものが働いているのか。

 それはよく分からない。


 しかしそれが避けられないことなのであれば、俺たちはそれに備えるしかない。

 いかに日本の国力が高まっていても、まだまだ気は抜けないのだ。

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