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31.共同研究をしよう

いよいよ、昭和編に突入です。

大正13年(1924年)10月 東北帝国大学


「陸軍が資金を提供したいですと?」

「はい、貴研究室で行われている、コイルと電磁波の研究について、注目しているのです」


 今、俺と中島は、仙台の東北帝国大学に来ていた。

 そして八木秀次教授の研究室を訪れ、資金提供と共同研究を申し入れた。

 なぜなら今ここでは、後の八木・宇田アンテナにつながる研究が進んでいるからだ。

 しかし八木教授は、軍の干渉を懸念したのか、慎重に探りを入れてくる。


「ふむ、たしかにそのような研究は進めておるが、どこでそれを知ったのかな?」

「たまたま小耳にはさみまして」

「……」


 中島が適当にごまかそうとすると、八木教授がうさん臭そうな顔をする。


「ゴホンッ……資金提供はありがたいが、あまり干渉されると、大学の自主性が損なわれる。その辺はいかがお考えか?」

「それについてはご心配なく。基本的に我々は、干渉するつもりがありませんから。ただし特許などの権利については、共同で保有させてもらいたいと考えます」

「ふ~む、本当ですかな?」


 相変わらず疑わしげな態度だったが、細かい内容を詰めて、合意に至ることができた。

 研究室は資金が得られ、軍は未来のアンテナの権利が得られて、ウィン・ウィンだ。

 東京への帰路で、中島と話をする。


「さて、これからどうなるかな?」

「うん、資金もできたから、史実よりも順調に研究が進むんじゃないかな」

「そうだといいな。しかし本当に、研究は秘匿しなくてもいいのかな?」

「う~ん、下手に秘匿しても、いずれは誰かが似たようなことを発見すると思うんだよね。そうなると情報がコントロールできないし、教授たちも不満に思うだろうから、いっそオープンにした方がいいと思うんだ」

「まあ、そうかもな。それに俺たちだったら、もっと進んだ技術が使えるか」

「そうそう」


 今回の八木・宇田アンテナの扱いについて、俺たちの間でも意見が分かれた。

 かたや八木研究室をガチガチに囲いこんで、海外への流出を防ぐ案。

 そしてもう一方は、研究発表などはある程度、自由にやらせて、特許などは共同で保有する案だ。


 そこでいろいろ話し合ったのだが、仮に秘匿できたとしても、第2次大戦までにはまだ15年ほどある。

 その間に、どこかの国で同じような発明がされたら、むしろ都合が悪いだろう、という話になった。

 結局、資金提供と共同研究を持ちかけ、情報をコントロールすべく、今回のように動いたのだ。


 ちなみに史実では、1925年にアンテナの原理について論文が発表され、同年末には特許も出されている。

 しかもその翌年にはイギリスのマルコーニ社に、特許が譲渡される。

 そのような状況を、日本有利に変えていければと思っている。


 その後、軍の息が掛かった研究者が、八木研究室に派遣され、一緒に研究を進めるようになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


大正14年(1925年)4月 東北帝国大学


「軍と共同研究ですか?」

「ええ、ぜひお願いできないかと」

「まあ、資金も提供いただけるなら、こちらも助かりますが……しかしあまり干渉されるのは困りますよ」

「基本的に情報さえ流してもらえれば、干渉はしませんよ。あくまでうちが欲しいのは、技術ですから」

「まあ、それなら……」


 俺たちは翌年、また東北帝国大学を訪ねていた。

 しかし今度の相手は、岡部金次郎 助教授だった。

 彼は世界初の、実用的な分割陽極マグネトロンを発明する人物だ。

 ちなみにこの人も八木教授の弟子だったりする。


 彼はこの25年に助教授となり、単陽極マグネトロンで電波の発振現象を発見する。

 その後、試行錯誤により、強力で安定した電波を発振させるマグネトロンを開発するのだ。

 そこでまた中島と一緒に訪問し、共同研究と資金提供の申し出を行った。


 すでに八木研究室で実績があったのもあって、それはわりとあっさり受け入れられた。

 今後、八木・宇田アンテナと一緒に開発を進め、特許や情報もコントロールしていく予定だ。

 史実ではまったく顧みられなかったが、日本にも優秀な研究者がいるものだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


昭和元年(1926年)12月25日 日本


 かねてから体調を崩していた大正天皇が、崩御された。

 それを受けて、皇太子殿下が践祚せんそし、第124代天皇となる。

 幸か不幸か、殿下は摂政となっていたため、政治的な混乱は少なかった。


 そしていよいよ時代は昭和となり、第2次世界大戦にまた一歩近づいた。

 しかしこの世界の日本は、史実とは大きく変わりつつある。


【1926年の国力】カッコ内は史実の値


実質GDP:2300億ドル(1512億ドル)

人口:   6120万人 (6049万人)

製鉄能力: 200万トン (110万トン)

発電能力: 260万kW (200万kW)

自動車保有:6万台    (4万台)

石油生産量:100万kL (30万kL)


 経済は順調に成長し、史実を10年ほど先取りしている。

 その他の指標も、まあ順調と言ってよいだろう。

 しかしまだまだ足りない。


 せめて後10年ほどで、イギリス並みの国力にはしたいものだ。

 そのためにもまだまだ、がんばらなきゃな。

アンテナやマグネトロンの扱いについては、ちょっと迷いました。

最初はガッチリ囲い込みも考えたのですが、それはそれで世界への影響が心配です。

そこで基本的には秘匿せず、情報の流れをコントロールする方針に。

本作では民間の力を底上げするのが、基本方針ですからね。

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