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未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~  作者: 青雲あゆむ
第1章 明治編

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12.陸軍も軍縮だ

明治39年(1906年)1月中旬 皇居


「それで陸軍の建て直しとは、具体的にどんなことかのう?」


 陸軍の重鎮と話をしていたら、大山さんに訊ねられた。


「まずは軍縮です。最低でも戦前の13個師団に戻して、さらなる縮小も検討します。その代わりに銃砲の増備と、機械化を進めます」

「ふ~む……それはなかなか、難しそうだのう」

「そうですな」


 俺の提案に、大山さんと乃木さんが難しい顔をする。

 しかし児玉さんだけは違った。


「いや、それぐらいは必要なのではありませんか。それに彼はただ減らすのではなく、装備による強化を図ると言っているのです。合理的だと思いますがね」

「児玉どん、そうは言っても、せっかく師団長になれたようなもんが、反対するじゃろう」

「そうですぞ。苦労して勝ったのにそれでは、将兵も報われんでしょう」

「だからなんだというんです? 我らは地位を保つために、軍人をしているんじゃありません。お国を守るために、軍人をやっとるんです。そんなことが分からん奴らには、とっとと退役してもらいましょう」

「児玉どん~……」


 児玉さんの鋭い舌鋒に、大山さんも口をつぐむ。

 しかし大山さんや乃木さんの心配も、仕方ない部分がある。

 なにしろこの日露戦争では、平時の13個師団から、4個師団が増強されているのだ。


 当然、ポストもそれに応じて増えたわけで、それに未練がある連中も多い。

 ましてや勝ち戦だったにもかかわらず、一方的に軍縮されては、文句が出るのも当然であろう。

 しかし現実問題、戦争はすでに終結し、ロシアの脅威も遠のいたのだから、軍縮は必須である。


 そうでなければ、ただでさえ借金を抱えた日本の財政を、再建できはしない。

 にもかかわらず、史実では臨時の4個師団を常時戦備として認め、さらに2年後には2個増やしてしまうのだ。

 おまけに海軍も8・8艦隊計画などという、狂ったような艦隊増備を打ち出したため、費用はさらにかさむ。


 幸いにも第1次世界大戦の戦争特需で、日本は債務国から債権国へ成り上がることができた。

 しかしその間の軍拡費用を、国力の増強に使っていれば、どれほどの恩恵があっただろうか。

 別に軍拡が不要だというわけではない。


 しかし国力や環境をまったくかえりみない軍拡など、健全にはほど遠い行為である。

 そのような軍拡を望む者のほとんどは、ただ組織を拡大して、その権益の旨味にあずかろうとする、利己主義者でしかない。

 そんな自分のことしか考えないような奴らは、早々に排除する必要があるのだ。


「当然ながら、海軍にも軍縮を進めてもらいます。具体的にいうと、現在起工中の艦も含めて、8隻の戦艦の建造を取りやめます」

「なんと、8隻もの戦艦をか?」

「海軍がそれを飲んだというのかい?」

「はい、まずは東郷大将と秋山中佐にお話して、ご理解いただきました。今は海軍内で、説得に動いてもらってます」

「ほう……」


 感心する大山さんの横で、児玉さんがニヤリと笑う。


「フフフ、当然、何か見返りを提示したんだろう?」

「ええ、そうでもしないと、説得は無理でしょうからね。具体的には、10年以内に14インチ砲搭載の高速戦艦を4隻、さらに数年以内に16インチ砲搭載艦を4隻造ると、約束しています。どれも就航時点では、世界最強の戦艦ですね」

「14インチ砲だけでなく、16インチ砲搭載艦もかね。それは海軍にとって、甘すぎるのではないかな?」

「いいえ、史実ではこの8隻の他に、さらに14インチ艦を4隻、16インチ艦を4隻も造ろうとするんですよ。英米との軍縮条約のおかげで、頓挫しますけど。それに比べたら、どれだけの費用が浮くか、お分かりですよね」


 一説には長門型が1隻だけで、4千万円以上とも言われている。

 それが8隻つぶせるなら、単純計算でも3億2千万円は浮く。

 まあ、天城型の3,4番艦は起工してすぐに中止されたから、もっと少ないとは思うけど。


 そんな話をしてやると、児玉さんたちが呆れた顔をする。


「なんとまあ、そんなにたくさん、造るつもりだったとは。とんでもないのう」

「まったく権兵衛と来たら、そういう経済感覚はさっぱりじゃからな」

「呆れた話です」


 この際限ない史実の建艦計画は、山本権兵衛大将らを中心に、組み立てられていった。

 もちろん権兵衛さんだけのせいではないのだが、彼が統帥権の分裂と、この大軍拡という愚行を主導したのは間違いない話だ。

 そんな彼を見せしめ的に排除できたのは、不幸中の幸いだったと俺は思っている。


「ええ、身のほどをわきまえない、とんでもない愚行ですよ。でも戦艦ってのは、海軍戦力の象徴でもありますからね。ある程度は必要なんです。だからそれをエサに、説得をしてもらってるところです」

「なるほど。海軍がそれほどの軍縮をやるというなら、我らも誠意を見せねばなりませんな」

「う~ん、児玉どんの言うことは、正しいんじゃろうがのう」


 なおも逡巡を見せる大山さんに、俺からも圧力を掛ける。


「大山閣下。ここで甘い態度を見せると、将来に禍根を残すことになりますよ。今回の勝利は海軍のみならず、陸軍をもおごり高ぶらせているんですから。その先は精神主義に傾倒し、平然と政府の指示を無視する、無法の軍隊の出来上がりです」

「君は何を……」


 そこで俺は、昭和の陸軍が大陸で暴走し、泥沼の日中戦争へ引きずりこむ未来について話した。

 海軍ほどではないものの、昭和の陸軍も相当ひどかったのだ。

 そんな話をしてやると、大山さんの表情も変わってきた。


「なんと、儂らの後継者が、そんなことをしでかすとは」

「元帥、ここは我らも、腹をくくらねばなりませんぞ。断固として軍縮を実行し、組織や戦訓の見直しをしなければ、お国の進む道を誤らせてしまいます」

「小官もそう考えます」


 残りの2人にそう言われ、大山さんもとうとう決心した。


「……そうだのう。我らがやらねば、他にやる者がおらんか。2人とも、手伝ってくれるか?」

「もちろんです」

「喜んで」


 そこに陛下も声を掛ける。


「お前たちには苦労を掛けると思うが、よろしく頼む。ただし源太郎は、体をいたわれよ」

「ワハハッ、これは痛いところを突かれましたな。それでは私は、主に後方から知恵を貸すことにしましょう」

「う~ん、本当は児玉どんに、総参謀長をお願いしようと思っとったんじゃがのう……それでは、乃木にお願いできんか?」


 いきなりの総参謀長への就任打診に、乃木さんが固まる。

 総参謀長とは参謀本部のトップであり、陸軍の作戦計画を指導する重職だ。


「……ハッ、小官が、総参謀長、ですか?」

「うむ、儂は元老として、陛下を支えたいと思っちょる。ところで参謀次長は、誰がいいかのう?」


 大山さんが、今度は児玉さんに問うと、即座に返事があった。


「福島少将がいいでしょう。彼は情報の大切さをよく知っている、優秀な参謀です」

「うむ、それには儂も賛成じゃ。それでお願いできんかのう? 乃木」


 改めて目を向けられ、乃木さんはしばし逡巡する。

 しかしやがて思い切ったように、答えを返した。


「仕方ありませんな。不肖、この乃木、陛下の刃となって、軍の改革に取り組みましょう」

「おお、受けてくれるか。よかよか」

「うむ、頼りにしておるぞ。ところで源太郎はどうする?」


 すると陛下が、児玉さんのことを気にする。


「そうですのう。本来なら教育総監にでもしたいところですが、それはそれで激務ですからのう。陸大の校長といったところでしょうか」

「しかしそれでは、今以上の降格人事であろう。源太郎が侮られるのではないか?」

「はい。ですので異例ではありますが、陛下から勅を発していただき、元老に迎えてはいかがかと」


 そう大山さんが言うと、誰よりも児玉さんが驚いていた。


「なっ、元帥。私ごときがそのような――」

「いや、児玉どん。おんしはそれぐらいのことを、やってみせたんじゃ。陛下、いかがでしょうか?」

「うむ、元老でありつつ、陸大の校長も兼務して、軍教育を変えるのじゃな? よいではないか」

「ご賢察、恐れ入ります」

「陛下……」


 話がまとまると、大山さんが優しい目で児玉さんを諭す。


「陸大の改革も大変かもしれんが、それほどの激務ではなかろう。その辺でどうじゃ?」

「……承知しました。そのお話、ありがたく受けさせてもらいます」

「うむ、頼んだぞ」


 こうして今後の体制も決まると、その後も陸軍の改革について、しばし盛り上がった。

史実では児玉大将が総参謀長に就任し、軍縮を進めようとするんですが、翌年に突然死してしまいます。

この頃の参謀本部は、本当に呪われていたんじゃなかろうか?

そしてタガの外れた陸海軍は、逆に軍拡の道を突っ走ったという、救えない話。(T_T)

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