1.どこだよ、ここ?
俺の名は大島 祐一。
大手の自動車メーカーでエンジニアをやっている、しがないサラリーマンだ。
年はもう42歳にもなるが、まだ結婚してない。
別に生活に不都合はないから、このままでいいんじゃないかと思うんだよね。
そんな俺は大学時代の親友4人と、久しぶりに旅行へいくことになっていた。
「うい~っす、久しぶり」
「おっす、元気~?」
「ほんと、久しぶりだね」
「まあ、なんとかな」
「せやけどお前、また太ったんとちゃう?」
「うっせえ、お前こそ」
「俺はそんなことない」
そんなたわいのないあいさつを交わしつつ、待ち合わせ場所に集まった。
その顔ぶれはこんな感じだ。
大島 裕一:大手自動車メーカー勤務。エンジンの設計者
後島 慎二:製鉄大手に勤務。金属材料のプロ
中島 正三:電機大手に勤務。電子・電気関係のエキスパート
佐島 四郎:大手化学メーカーの研究所勤務。化学材料のプロ
川島 健吾:商社勤務。金融と情報関係のエキスパート
川島も商社とはいえ情報工学出身だから、基本的に技術者の集まりと言っていいだろう。
それでもバラバラの学科で仲が良かったのは、同じ同好会に所属していたからだ。
その名も、”戦史研究会”。
なんか真面目そうな会のようだが、実態はさにあらず。
いわゆるミリオタが、過去の戦史を紐解いて、あ~だこ~だしゃべくってただけ。
しかしそのおかげで長い時間を共に過ごし、いまだに集まる関係でいられるのだ。
誰の名字にも島が付いていて、しかも名前に1~5の数字が入るため、周囲からは”五島列島”と呼ばれていた。
言い得て妙な呼び方ではある。
ちなみに俺以外の奴らも、結婚はしていない。
べ、別にもてないわけじゃないんだからな。(汗)
こうして集まった俺たちは車で、とある温泉宿へとやってきた。
そして適度に観光や入浴を楽しんだ後は、お待ちかねのしゃべくりタイムだ。
「お~っし、始めるか」
「お、やっちゃう? またいろいろとネタは仕込んできたぜ」
「僕も僕も。やっぱり日本は、基礎工業力の底上げが、大きな課題だよね~」
「まったくや。米英独と比べると、悲しいぐらい低いからな~」
「だな。あんなんで戦争始めるなんて、アホとしか言いようがない」
俺たちはちゃぶ台の上に酒とツマミを並べながら、互いのノートパソコンを取り出した。
パソコンの中には、俺たちが調べたデータが満載されている。
そんなデータを示しながら、俺たちは自説を主張しあうのだ。
「いや、工業力の不足もさることながら、精神面もひどかったよな? 艦隊決戦主義にこり固まった海軍なんて、もうどうしようもねえぞ」
「お、出た出た。祐一の海軍批判。まあ、実際に海軍善玉論ってのは、作られた話みたいだけどな」
「ああ、そのとおり。阿川って海軍出身の作家が、美化した話さ」
一般に米内光政、山本五十六、井上成美なんかは、時代の流れを理解していた良識派と言われるが、これは作られたイメージに過ぎない。
海軍出身の阿川某という作家が、彼らを小説の中で美化しただけなのだ。
ここで後島が、疑問をはさんできた。
「でも当時の流れとしては、しょうがなかったんじゃないの~?」
「その流れってやつが問題なのさ。シーレーンの防衛をおろそかにする気風が出来上がったのは、日清戦争と日露戦争の勝利の結果なんだ」
「それじゃあなんか、勝ったのが悪いみたいじゃん?」
「勝ちに浮かれて、基本を忘れ去ったのが問題なのさ」
「あ~、まあ、そういうことはあるかな」
日露戦争の頃までは、海軍もまだ頭を使うことを知っていた。
しかし日本海海戦で圧倒的な勝利を得たことで、彼らは勘違いをしてしまう。
自分たちは神に守られた軍隊であり、気合と根性で何者にも打ち勝てるなどという、神秘主義に傾倒していったのだ。
そんな奴らが科学、合理を尊ぶ米国海軍に、勝てるはずもない。
そんな説を主張すれば、今度は中島がつっこんでくる。
「つまり、もしも大日本帝国を勝利に導くなら、最低でも日露戦争の後から介入しなきゃいけないってことなのかな?」
「出た、正三の歴史改変妄想」
「なんだよ、おもしろいじゃない。ああいうの」
「まあ、俺もいろいろと読んだけどな」
世の中には仮想戦記なる読み物があふれていて、現代人が過去にタイムスリップして、歴史を改変するなんて話がある。
古くは”戦国○衛隊”であり、最近では”○パング”なんて漫画が有名か。
もちろんその他にも腐るほどの小説が刊行されていて、トンデモ技術で作られた戦艦が、戦況をひっくりかえすなんて話も、ゴロゴロ転がっている。
ミリオタの俺たちがそれを読まないはずもなく、互いにいろんな妄想を語り合ったものだ。
そしてこの集まりでも、”もしタイムスリップするとしたら、いつどこがいい?”なんて話も出る。
今までも”開戦直後だったら、どうするか?”とか、”第1次大戦前ならどうするか?”なんて話をしてきたものだ。
「話を戻すけど、大日本帝国を負けさせないためには、日露戦争の直後が最適かな。これ以上あとだと、加速度的に面倒くさくなっていくからな」
「仮にタイムスリップしたとして、どうやって変えるかが大問題やけどな」
ここで佐島が入れたチャチャに、俺も冗談で応える。
「はっは~、それを言ったらお終いよ。いつの世も、人の価値観を変えるのは大変だからな」
「だよね~。うちの会社も頭の硬いのが多くて、ほんと困っちゃう」
「あ、それはうちもだな」
「大賛成! あの分からず屋どもには、しばしば殺意がわくわ」
「アハハ、分かる~」
当然のことだが、みんなも人間関係には苦労しているようだ。
いつの世も、どこの組織にも、目先の欲や個人の利益に固執して、全体の利益を考えない小人が絶えることはない。
そんな奴らのために、どれだけの時間や資源が浪費されていることか?
そんな愚痴も交えつつ、俺たちは夜遅くまで語り合った。
しかし夜もふけるにつれて、1人また1人と落ちていく。
「うい~、さすがに俺も眠くなってきたな」
「ああ、俺ももう限界。そろそろ寝ようぜ」
「そうすっか。とりあえず風邪をひかないよう、毛布だけ掛けとこうぜ」
「ほい、了解~」
最後に残った俺と川島とで、すでに寝入った3人に毛布を掛けてやる。
そして明かりを消すと、夢の世界へ旅立った。
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なにやらザワザワと人の騒ぐ声で、意識が急速に覚醒する。
ふわあ……朝っぱらから一体、なんだってんだ。
そう思って目を開けると、10人ほどの男性に囲まれているのに気がついた。
それはどう見ても旅館の従業員ではなく、妙に殺気立った雰囲気も伝わってくる。
「……え~と、あなたたちはどなたですかね?」
「どなただとっ! 神聖なる皇居に侵入しておいて、最初に言うことがそれかっ!」
「ええっ、皇居?」
ひなびた温泉宿で寝たはずなのに、いきなり皇居とか言われて戸惑う。
やがて他の奴らも起きてきて、さらに騒がしくなった。
「おいおい、俺たちの旅館はどこいった?」
「ちょ、なんやこれ? 今どきドッキリかいな?」
「な、なんか怖いんですけど」
「ドヒ~、マジで殺されそう~」
俺たちが混乱していると、そこに落ち着いた声が響いた。
「これ、お前たちもそう騒ぐでない。この者たちは眠った状態で、急に現れたのだぞ。おそらく状況も分かっておらんであろう」
「し、しかし陛下……」
そう言って立ち上がったのは、初老の紳士だった。
皇居で陛下っていうと、天皇陛下?
いよいよ新作の投稿開始です。
近代歴史モノは初めてなので、いろいろ調べるのに時間が掛かりました。(汗)
正直、足りない部分は多いと思いますが、自分なりの小説が書ければいいなと思っております。
応援いただけるようでしたら、よろしくお付き合いのほど、お願いします。
2021/6/6
あいにくと感想欄は閉じさせてもらっております。(事情は活動報告参照)
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