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第一節 八話 努力と才能

第一節 八話 努力と才能



この前の地獄図書室から更に1日が経った。


俺の奥義習得の進捗はというと...



疾閃八級奥義、離奏の習得にだいぶ時間が掛かっている次第だ。


離奏は自分の剣を亜音速レベルの速さで移動させ、相手との剣の距離を詰める技だ。使用例としては俺が3日前リアちゃんに使われた時の様に、反応出来ても間に合わない攻撃に追いつく事が可能だ。

これ疾閃流奥義の殆どに言える事らしいが、離奏を完全に発動する為には驚異的な速度が必要。

俺はどうやら疾閃流の適正が低いみたいで、烈紅の時の様にサクッと完成なんて事にはならなかった。昨日、図書室から帰った後もそこそこ練習したのだが、速度が全然足りていないのだろう。不完全な発動こそ可能ではあるのだが、離奏に必要な速度には到底及ばなかった。


そして、俺とは逆にセイラは何故か烈紅流より疾閃流に適正があったらしく、一瞬にして離奏を完成させていた。本日は午前授業だった為、いつもより放課後の時間が多いのはわかるが、それでも速かった。完成までも速いし、離奏の速度も速い。

彼女は今は奥義完成記念で休憩を兼ねて食堂で昼食を食べている。

俺は昼食なんて食ってる暇はない。奥義習得の進捗が鈍いからだ。


「あー!クソ!なんで俺はこんなに鈍いんだぁぁ!」


「イライラしても仕方ないって。ずっと剣振ってればいつかは完成するからさ。まあ試験が明日だからそうも言ってられないんだけど。」


リアちゃんに諭して貰った。リアちゃんは背がかなりちっちゃい為中学生程度に見えてしまう見た目だが、これでも同学年らしい。140あるか?これ。中学生だとしても小さいと思う。

でも小さいから愛嬌がある。俺は前世では剣道しかして無さすぎて青春の一つも感じられなかった童貞なので、こんな風に女子と普通に会話するのが内心ビクビクしてる。いつもはビクビクしてない様に見せてるだけ。だがリアちゃんレベルで小さいと、異性として見るというより年下の後輩的な感じで認識出来るので気兼ねなく話せて楽だ。


「よし、もっかい行くぞ!師匠!」


「よし来た!弟子!」


ノリが良くて助かる。これからは師匠って呼ぼうかな。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「まだ出来てないの?疾閃流八級。私はあっさり終わったのにね〜。今度は私が姉弟子って読んで貰っちゃおうかな〜。」


あれからニ時間後、セイラが帰ってきて今度は師匠が休憩に入った。師匠の方もずっと動き続けて疲れたらしく、自室へ戻って昼寝をするそうだ。


『煽られてるわよ。ほら、何か言い返して。』


実際特に言い返す言葉は無い。てか言い返そうとも思わない。嘘は言ってないし。姉弟子とは呼ばんけどね。


「なあ、なんでお前はこの学園入ったんだ?」


面と向かっては言えないが俺の中の人と同程度の才能しか無いのならば魔法剣士なんてならなくて良いと思う。アルナはなりたい理由があるらしいから目指す分には良いと思うが。


「言ってなかったけ。すごい昔にカッコいい魔法剣士に助けて貰って、それで私もそういう人を助ける立場になりたいな〜って憧れただけよ。」


憧れか。単純な答えだと思う。だが、その勇敢な姿を直接記憶に刻んだ憧れは、単純だからこそ根強く己の矜持に残り続ける物だ。俺も最初は刀剣のマエストロだった親父に憧れて初めたんだっけ。今でもその憧憬が残っているかと言われればそうでも無い気もするが、脳内で昔憧れた、その力強く美しい剣捌きを起こそうと思えばすぐにでも映し出せる。


「でも、その憧れは所詮憧れだったのかなって思ってるんだよね。幾ら憧れる気持ちが強くたってそれに実力は比例しないから、それでも努力はしてるんだけどね...私の夢は、明日で終わっちゃうのかもしれない。」


「なんでそんなに自信が無いんだ?確かに努力は殆ど報われない。だが努力をしなければ報われる権利すら持てない。たった5日しか見てないから何とも言えないが、5日間お前は努力をする事を諦めなかった。だから自信を持った方が良い。最も前向きに生きろ。」


セイラは努力の出来る強い人間だ。自己肯定感の低さがダメなのだろう。


『なんであんたは合って一週間も経ってない人に説教かましてんのよ...』


思ったことは大抵忌憚なく言うのが俺の主義だ。なんか文句つけるならまずお前は自分の才能と向き合ってからの方が良い。



「・・・その為にも・・・まず越刃のやり方教えて?」


「じゃあそっちも離奏のやり方教えて?」


留年危機者同士の同盟が確立した。

やり方とか人に教えられるレベルじゃ無いけど今は師匠が休憩中だから俺らで練習しよう。


「説明なんて洒落臭いから見せる。越刃はこう!」


よくわかんないから越刃を見せた。


「そんなんじゃわからないわよ!言葉起こしてくれない?」


言葉に、か。

感覚でやってる物を言葉に変換するのは難しいだろ。一生懸命やっても多分擬音だらけの聞くに耐えない説明になってしまう。よって無理。


「じゃあそっちが言葉で離奏のやり方説明してみ?無理だから。」


「うーん、言葉にしろと言われるとたしかに難しいわね...なんかこう、スバっと、速い感じで剣振ると出来る...とかかな?」


ダメだコイツも感覚派だ。擬音は説明にならん。


「言葉にするのは無理そうだな。じゃあ一回見せて?離奏。」


見せて貰った所で進展があるかどうかはわからないが、いつも見ている師匠の動きは速すぎて、言っちゃ悪いがあまり参考にならない。セイラの速度ならまだ残像がちょっと見える程度で見えるので何かがわかる、かもしれない。


「よーし、そうと決まれば行くよ!疾閃八級奥義、離奏!」


うーむ、速い。だが師匠の離奏よりは見える。それにもう少し見れば何かが掴めそうだ。俺に足りてないスピード以外の何かが掴めそうだ。


「もう一度やってみて?」


「えー、もう一回だけだよ?疾閃八級、離奏!」


剣の軌跡が見える様になってきた。軌跡から逆算して剣の動き、速度もわかりつつある。

この速度でこの軌道があれば離奏は作り出せるのか。これなら間に合うかもしれない。あとはまだ確定仕切っていない剣の軌道をもっと観察したい。


「頼む!アンコール!ラス1!」


「いや...疲れてきたんだけど...じゃあ、本当に最後だからね...離奏!」


今度こそズレのない完全な軌道を捉えた。セイラが疲れて目で追える程度の速度に落ちたのでははない。3回目にして俺の目が高速に対して肥えたのだ。一周回ってゆっくりに見える。かなり集中して凝視したから無意識の内にゾーン入りしたのかもしれない。


速度と軌道をインプットする。そして忘れぬ内にアウトプットしなければ。


立ち上がり、剣を抜き、

「“疾閃八級奥義 離奏“」

一寸のズレのない完全なセイラのコピーを発動させる。


離奏は、完成した。



「えっ、それ、離奏だよね!今見ただけで完成したの?」


「そうっぽいな。」


自分でも信じられない。だが、「見ただけでコピー」をしたのだ。俺に足りなかったのは速度ではなく、軌道だったという事を知れていればもっと速くに完成していただろう。


人間離れした技を見せつけられて、セイラは放心している。セイラも俺の中の人と同じく、対比すればかなりマシではあるが剣術の才能がマイナスな人間。

きっと才能の差に嫉妬しているのだろう。誰でもそうなる。


「すごっ!アルナって剣も天才だったんだね!やっぱりアルナは最強だったんだね!羨ましいな〜。」


逆だった。嫉妬ではなく、羨望。

俺だったらこんなにも顕著な才能の差を見せつけられたら最後、嫉妬に嫉妬を重ね、愚かにも見当違いの憤慨しているだろう。

だが彼女は別だった。純粋だった。


純粋な羨望の目線を向けられ、思う。

こんな純粋な真人間は留年して欲しくない、と。

自分の実力から逃亡してその全てを他人に放任する惨めな女も居るというのに、自分の才能に向き合いそれでも努力を続ける彼女には報われなければならない権利がある。

努力は報われる。そうでなければならないのだ。

一週間(正確には5日だが)を一緒に戦い抜いた仲だ。最後も一緒に試験という試練を乗り越えたい。


「俺だけ奥義が出来てもダメだ。セイラも一緒に出来る様にしないと。」


共に突破したい。もう俺だけの試験ではないだろう。リアちゃんこと師匠も関わっているのだ。二人で笑顔で合格しよう。

その為に、俺も彼女の為に今出来る事を最大限にしてあげなければ。


「ありがとね!アルナ!一緒に合格しようね!」


その通りだ。絶対に合格してやる。




特訓は師匠が休憩から帰ってきた後も続いた。その日、戻ってきた師匠のマスタリングもあり、俺は離奏を完全に物にし、セイラも同じく越刃を完璧に自分に取り込んだ。これで明日の試験も大丈夫だ。


今日は安心して寝れる。試験は明日の18時から行われる。緊張はあまりしていない。俺は緊張しにくい体質ではあるが、それ以前に奥義もぐうの音も出ないほどに完成させた安心感が身を守ってくれた。絶対に大丈夫。

俺もセイラも合格しか、あり得ない。




明日____遂に一週間に渡る留年回避大作戦が終結する。


次話で第一節は完結する予定です!

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