第一節 七話 此処は異世界なのか、そうじゃないのか。
第一節 七話 此処は異世界なのか、そうじゃないのか。
「“烈紅八級奥義 越刃”ッ!」
リアソリスとの模擬戦から2日後、此処は体育館。セイラと共に奥義発動に向けて毎日放課後に特訓してるとこだ。丁度今、俺の烈紅八級奥義が完成した。奥義発動自体は昨日から出来はしたのだが、リアちゃん曰く、「すごみが足りない」らしく、中々認めて貰えていなかった。だが、今出た奥義はかなりすごみがあるだろう。出した時にグワーってなる感じがあった。
「うん、今ので完全じゃない?申し分ないすごみだったよ。」
すごみという概念はよくわからんがこれで完成らしい。しかし、試験では烈紅に加え、疾閃八級奥義も必要とされるらしい。なので一つ目の奥義完成は及第点に過ぎない。とはいえ休憩したい。昨日も一昨日も夜遅くまで剣を振り回してたから腕が痛い。更に言えば2人が帰った後も一人で明け方まで動いてた為、疲労はエグい。余談だが睡眠は取っている。俺が夜練をしている最中に中の人の意思だけ寝て、俺は学校の授業中に寝まくった。片方が寝て、片方が活動するという事をしてみた訳なのだが、結局脳が休まっても身体が全く回復しない為、本質的な睡眠にはなっていないっぽい。だから腕の筋肉痛がヤバいのだ。
「ちょっと速すぎない!?なんで2日で完成させてんのよ!私なんでまだ奥義の欠片も出ないんだけど?」
『ほんとその通りよ。私が16年かけて出来なかった事を2日で終わらせないで欲しい。』
後者は単なる逆恨みなので無視するが、前者は試験大丈夫なのだろうか。試験までは今日含めて残り3日。2日で一つを完成させた俺が言うと嫌味にしかならないのだが、もっと留年に対して危機を持って特訓に励んだ方が良いと思う。じゃないと親に殺されるぞ。
及第点に着き、この調子ならもう一つの奥義も余裕そうだと思い安堵に浸っていると、ふと、とある疑問を思い出した。
“撃剣流”について。
撃剣流。俺がこの身体を動かして最初に勝負を挑んて来た愚か者と、名目上の師匠であるリアちゃんが言っていた言葉だ。俺が今習得しようとしている剣の流派は“烈紅流”及び“疾閃流”。撃剣流などではない。
二人の発言から察するに、撃剣流の構えと俺の構えは酷似しているらしい。俺の構えは前世を引きずった剣道の構えを基調とした形になっているのだが、この構えと似ているならば、「撃剣流は剣道である」という面白い仮説も生まれたりする。だが、5日ほど過ごしてみて改めて感じたのだが、此処は明らかに日本じゃない。ましてや地球かどうかも怪しい。料理は魔法で自動生成だし、エレベーターは電気の代わりに魔力を流して動かすし、真剣を持ち歩いても銃刀法違反にならない。絶対的に日本ではない別の世界。謂わゆる此処は異世界とかなのかもしれないのだ。だから 撃剣流=剣道 という仮説は愚考に過ぎないだろう。しかし、此処が異世界ではない線も捨てきれない。その場合は撃剣流が日本への帰路を示す手掛かりになるかも知れないのだ。帰ってもこの体じゃあ誰だか判って貰えないだろうけど。
「ねえ、リアちゃん、撃剣流って何?」
単刀直入に訊く。一番情報を持ってそうなのはリアちゃんだ。何せ学園最強格の剣士らしいし。
「あー、ごめん、僕は撃剣は全くやってないからさ〜。あんま分かんないや。一応分かる限りで話すと、撃剣は烈紅と疾閃に並んで三大流派って世間一般的に言われてるんだけど、受け重視の立ち回りがパッとしなくて人気が無いから廃れまくってるんだよね。」
受け重視の剣。俺の剣道のスタイルそのままだ。でもなんで不人気なの?別に不人気になる必要はないでしょ。
「撃剣の「受けからの反撃」に対して烈紅は「一撃必殺」で疾閃は「疾風迅雷の連撃」だからだよね。ロマンが足りてないから不人気なのよ。」
セイラが横から口を挟む。
なんで?カウンターカッコいいじゃん!ロマンめっちゃあるじゃん!
兎も角、この世界は受けより攻めの方が人気あるらしい。解せないがそういう常識なのだから受け入れるしかない。
「撃剣の起源とか、そういうのは僕はこれっぽっちも知らないから調べて来たら?」
「え、なんかWi-Fi飛んでるとこでもあんの?この学園。」
「わいふぁい?では無いけど、図書室とか?」
あー、図書室か。確かにGoogleという電子媒体の王がいない世界では本による情報は重要だ。でも俺って本読むの苦手なんだよな。細かい文字を見ると頭が痛くなる。
「アルナの特訓はひと段落ついたんだし、休憩がてら言って来たら?僕はもう一人の出来の悪い弟子を鍛えなければいけないから離れられないけど、僕がついてく必要はないでしょ。おんなじ学園敷地内なんだし。」
ええ...図書室とか知らないんだけど...学園敷地内が広大だから余裕で迷子になれてしまう。いや待て、道案内が俺の中にいるではないか。
『道案内は私がする。私も調べたい事があるから丁度良いしね。』
「おし、じゃあ図書室行ってくる!セイラは頑張れよ!」
「了解です姉弟子!」
俺は勝手に姉弟子になっていた様だ。特訓を始めたのはそっちのが速いし、それに中身は男なので兄弟子の方が良かった。
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「広っっっっっろ!!」
図書室に着いた第一声がそれだった。道案内の人に散々、「むちゃくちゃデカいから驚く準備をしろ」って言われてたが、これはデカい。デカ過ぎる。何だこれ。東京ドーム一個分の図書室だろ。どっちかと言うとデカ過ぎる図書館。外装はこんなに大きくなかったのにな。これも体育館と同じく空間魔法か何かで内側を増築してるのだろうか。
いやあ、しかし此処までデカかったらお目当ての本を見つけ出すのに一体何時間掛かるんだろうか。
「因みにお前はこの図書室の何処にどの本があるとか知ってるの?」
『知ってる訳ないわよ。図書室に来るの今日で初めてだもの。場所は知ってはいたけど中に入ったことは初めて。』
図書室行かない系女子だったか。じゃあどうしよう。この先も道案内がないと本を見つけるだけで日が暮れちまう。
まずは手当たり次第に動いてみよう。
図書館司書に聞こうかとも思ったが、忙しそうなのでそれは辞める。
まずは右側から。
本の棚が俺の身長を悠々と越す高さの直線を進むと、この図書室の荘厳さを感じると共に、高すぎるが故に照明が届いていないせいで若干の恐怖心も覚える。
この辺は小説コーナーだろうか。聞いた事も見たこともない小説のタイトルが沢山あった。そこで気になったのは英語にタイトルの作品も多いが、それよりも日本語のタイトルが大半を占めていたという事だった。異世界なのに何故日本語が使われているのだろうか。実は異世界じゃないのだろうか。不思議過ぎる。何か日本語が使われている理由があるのだろうか。そういえば普段通りだったから疑問には思わなかったがこの学園の人は例外なく日本語を使っている。公用語なのだろうか。
この世界に触れれば触れる程疑問が生まれていくが、それを解決する力は今は無い。というかその情報を今探しているのだ。
『小説なんて今は読んでる余裕なんてないわ。速く別のとこ探しましょ。』
その通りだ。今は小説コーナーに用事はない。今後暇になったら何か面白そうな話がないかじっくり見てみたい物だが、そんなに悠長にしてもいられない。別のコーナーへと進行方向を変える。
そこで、
「何かお探しでしょうか?」
と本を抱えた小柄な少女が話しかけてきた。
「私は図書委員のテスラと言います!何かお困りでしたら手伝いますよ!」
と言ってくれたが、彼女は沢山の本を抱えている。多分本の整理をしているのだろう。この広大無辺の図書室の整理となれば俺の探し物に付き合わせて良いほど暇はしてないだろう。彼女にはまず自分の仕事を処理する事が先決の筈だ。
「心遣いありがとう。だが自分で探せる程度の探し物だ。じゃあな。」
振り返り、小走りで歩みを進める。
「ちょ、ちょっと、そっちは18禁コーナーですよ!まさか、探し物って...」
『いやなんで学園図書室に18禁コーナーがあるのよ!馬鹿じゃないの?ちょい、ちょい、待て!止まれ!馬鹿トウヤ、嬉々として前進しようとするな!』
「はっ、俺は一体何を...煩悩に飲み込まれる所だった...なんでこんなもん置いてあるんだよ...」
マジで18禁コーナーを学校図書に置くのはダメだろ。男なら誰でもこの18歳未満入るなと書かれた暗幕を超え、進んでしまう。幾ら俺が肉欲耐性が高いといえど、この誘惑は危険過ぎる。危うく負けかけた。
「性的欲求を魔力に変える魔法師も居るって委員長が言って無理矢理置いたので...ごめんなさい!」
性的欲求を魔力に変えるって、なにそれすごい。原理を聞きたい。
『エロ本を読むと強くなる人もいるって...キモ過ぎる...』
アルナが引いてる。そりゃ引くわ。キモいもん。でもちょっぴり憧れる。これが捨てきれない男の信念、いや呪縛なのだろうか。
「じゃあ、今度こそ...!」
「そっちはBL本コーナーです!まさか、探し物って...」
「いやなんでBL本コーナーが学校図書にあるの?流石に不味いって!って、え?ちょっと待て、止まれ!俺の足!」
身体を操作しているのは俺の筈なのに、身体が勝手に動かされる。BL本コーナーに吸い寄せられる様に。コイツ、腐の人間だったか...!
『はっ、私は一体何を...私の中の本能に体が支配されていた様な...』
「ごめんなさい!同じく原理で魔力を蓄える腐女子もいるだろうって委員長が言って無理矢理置いたんです!本当にごめんなさい!」
「委員長ぉぉぉ〜!ふざけんじゃねえ!」
『図書委員長、侮れない存在ね。』
はあ、なんて無駄な時間だったのだろう。てかなんて恐ろしい学園なのだろう。学校に置いてダメな本であると言う事は火を見るよりも明らかだ。こんな感じのやばい本がいっぱいあるからこんなに広いのだろうか。だとしたらドン引きだ。ドン引きの対象は主に図書委員長。
このまま探し続けても埒があかない。もう仕方ないのでこのテスラと言った少女に案内して貰おう。
「ごめん、やっぱり案内して。撃剣流に付いて記された本を探してるんだけど。」
「あっ、エロ本やBL本が目当てでは無かったのですね!少し安心しました。格流派の剣術についてですね。着いて来て下さい。」
テスラはこのラビリンスの様な巨大図書室をまるで地図でも持っているみたいにスイスイ進み、あっという間に剣術関連の本のコーナーへと辿り着いた。
「俺達だけだと100%迷子になってたから助かった。ありがとな!」
会釈をし、山のように高いその剣術関連本を一冊拝借する。
何冊も何冊も読んだが、中々これといったピンポイントで欲しい情報は見つからない。撃剣流の起源についての情報が欲しいのだが、イマイチ釈然としない情報ばかりだ。
だが、撃剣流の起源ではなく、剣術そのものの起源については具体的に記されている書物があった。
その起源と言っても神話的な話であり、適当に要約すれば、世界中を統治していた神が死に、その領土と次の支配権を巡って勃発した世界的戦争で、当時魔法を使えたのは限られた人材のみであり、その魔法に対抗する為に数多の武人達が作り上げた剣を主とした独自の戦闘体系を現代まで語り継がれているのが剣術らしい。話が壮大過ぎて細部までは分からない物の、なんとなくは理解できた。
その後もその一変の情報を漁ったが、これといってめぼしい情報は無かった。
仕方ないが撃剣流の詳細は諦める。
『ねえ、そろそろ良いでしょ?私に変わってくれない?』
ああ、そういえばコイツも調べたい事があるって言ってたっけ。じゃあ変わってやろう。
* * * * * * * * * * * * * * * *
この図書室に入ったのは初めてだけど、何というか形容出来ない恐ろしさがあった。勿論、エロ本やBL本が一番恐ろしいのだけど、それとは別にこの古臭い故の存在感のある雰囲気が物凄かった。
私の探し物は大した物では無い。この前トウヤが出身と言っていた、「東峡」について調べたいだけ。何処から来たのかが断定出来ればそっちに送り返す事が出来るかもしれない。
もう一度仕事中の図書委員、テスラを探し、世界地図的なコーナーに案内してもらう。
さて、東峡、東峡っと。漢字が違うパターンも考えて色々と探してみる。だが見つからない。
世界地図を開き、東の辺りを適当に見てみるが、見つからない。東峡はやはり無いのかな。じゃあやっぱり異世界?それはオカルトチック過ぎる。
『えっ、これって何の地図だ?』
トウヤが疑問を投げかけてきた。現在絶賛過疎ってるこの図書室の一帯ではトウヤと会話をしても見られる危険性は薄いだろう。
「これは世界地図よ。此処が今住んでるとこ。」
と、地図の中心にある大陸に指を刺す。
うちの国の王は自尊心が高い為、一般的な地図を自国中心に書き換えた。なので教えるのがすごく楽で助かる。
「やっぱり世界地図だよな...でもヨーロッパとアフリカは繋がってるし、オーストラリアは心無しか縮小してるし、それに日本列島は何処にも見当たらないし...」
何を言っているのかは分からないけど本当に異世界から来たのなら異世界の話をしているのだろう。理解できなくて当たり前。ならば無視だ。
『この地図は一体なんなんだ...?』
世界地図だけど。それ以上でもそれ以下でも無い。
東峡は無かったという結論が出ただけでオーケーだ。借りる本もないし体育館に戻ろう。セイラの奥義習得にも進捗が出ているかも知れない。
それにトウヤにはもっと頑張って貰わねば。私だけ何もしていないで威張っているのはアレだが実際、現状何をしても無駄なので出来る事があったらバックアップするだけにする。足を引っ張るわけにもいかないし。
「じゃあ行くわよ。」
『ちょっと待って、もう少しこの地図を見させて!』
「後ででも良いでしょ〜。減る物じゃないし。」
こうして私達はあまり成果を出すさずに図書室から出た。
その後は二人の居る体育館へと戻ったが、特に進展もなく解散となった。
セイラはまだ奥義発動が危ぶまれている段階らしい。大丈夫なのだろうか。しかし自分だって全く同じ窮地に立たされているのだ。人の心配より自分の事をしよう。
まあ、当人の私は何も出来ていないんだけど。
異世界に転生した主人公の言語が何故通じるのかがずーっと疑問に思ってたので、この話ではそういうとこ掘り下げてみたいと思ってます。
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