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第一節 三話 留年回避大作戦(前編)

第一節 三話 留年回避大作戦(前編)


「此処は何処?」


ふかふかなベッドの上で目を覚ますと少しシミの付いた白い天井が見えた。周りはカーテンで囲まれている。此処は恐らく救護室だろう。それにしても何故救護室に運ばれたのか。原因については此処に運ばれる前の記憶に少し心当たりがある。


確か私は剣術の最終試験を受けていた。最終試験に至るまでの第一、第二試験を完璧にしくじり、最終試験で見せ場を作らないと留年がほぼ確定してしまう。そんな窮地で「名誉挽回のチャンスをやる」とか言って担当教員が嫌がらせで疾閃流六級の資格を持ってるレストを対戦相手に選びやがった。最終試験は個別に教科担当教員がその生徒に適正の対戦相手を選んで、その2人の斬り合いを見て合否を判別するという形なのだが、対人なのを良いことに格上を当てるのはインチキだと思う。それじゃあ絶対合格無理じゃん。


此処から先は思い出す必要が無いくらい結論が簡単に予想出来る。レストの野郎に有無を言わさずフルボッコにされて今に至ると言うわけだ。そういう事で今此処にいると言う事実から、もう留年という破滅からは逃げる事が厳しそうだ。


「あ、アルナちゃん起きた?」


カーテンが静かに開き、聞き覚えのある優しい声がする。


「ん...おはよう、サクア。」


朗らかな表情と朗らかな声がトレードマークで、如何にも看護師って感じの白衣を愛用している彼女は矢張り、救護委員会副部長のサクアだ。私は授業を受けたくない時、授業をボイコットしたくなった時はいつも保険室に逃げ込んでいる。2年間ほぼ常に救護室に居座り続け、遂には救護室の番人と呼ばれる様になった彼女とはかなりの頻度で顔を合わせている。今週はこれで5回目だ。彼女は私が救護室に退去してくると、その朗らかな笑顔で優しく全てを浄化してくれるので精神が安定するのだが、彼女のトレードマークとも言える朗らかな笑顔は今は見られない。とても驚いた様な表情で此方を見つめているからだ。


「え゛...私また何かやっちゃいましたか...」


その驚いた表情に私自身も潜在的な不安を抱き、反射的に質問した。勿論、この「何かやっちゃいましたか」は全てマイナスの意味を持つ。プラスの意味は一ミリもない。


「覚えてないの?アルナちゃん、貴女、レスト君の右肩に一発入れたのよ。いやぁ驚いたわ。あの剣術が出来ない事で学院の有名人のアルナちゃんが剣で戦えるとは...それでその一発を入れた直後に泡を吹いて気絶したみたい。」


は?

いや、は?

勿論そんな心当たりはない。


これはブラフね。

大体どうやって疾閃六級の奴の肩に一発叩き込んだと言うのか。私は9級かどうか怪しいレベルだぞ。そもそも剣当らないし。

でもサクアがこんな人を馬鹿にする様な嘘を吐く理由も無いと思う。

けど信じられない。取り敢えず本人に事実確認。


「私は全然記憶に無いんだけど...それってマジ?」


「マジよ。なんならレスト君本人が肩を抱えて救護室に来てる記録もあるけど見る?」


その記録を見せてもらうと本当に最終試験が行われた時間辺りに「2年 レスト 肩痛い」と記述があった。しかしそれでも事実を見せて貰った所で信じられない。

というか泡を吹いて気絶したってなんだそれ。私は蟹か。人間は肺呼吸だから蟹みたいに泡を吹かないと思うのだけれども。


ただ、超前向きにこの不祥事を捉えると、レスト撃破が本当なら格上撃破による名誉挽回で最終試験を通っているかもしれない。留年しないかもしれない!

そうだ、絶対そうだ!私は留年してないのよ!

一気にポジティブになった私だが、


「でも泡吹いて倒れたから結局不合格らしいよ」


という次の瞬間放たれるサクアの狂気の一言で絶望の淵に蹴落とされ、

再び私は泡を吹いて気絶した。


サクアは絶妙にデリカシーが欠けている。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





合計2回も気絶した事により、学園の敷地内の端に位置する女子寮に行き着く頃には夜の闇も濃密になっていた。

そもそも最終試験自体が補習みたいな所があるので放課後だったのだ。そりゃあめっちゃ夜遅い到着になってしまう。


「はぁ...」


最終試験落ちたか...一応、救済追試っていう文字通りの救済制度もあるんだけど、あれは試験に用事があって出席出来ない人が受ける物であって難易度は高めに設定されているからな...

本格的に留年か...もう無理なのかな...


深い夜の闇に負けぬレベルでネガティブ思考も濃くなっている。この暗黒を借りて闇属性魔法でも初めてみよっかな...今なら直ぐにでも一級になっちゃいそう...


そんな一人お通夜みたいな鬱々しい感情を身に纏ったまま寮に着く。


真っ暗な自分の部屋に電気を付けようと思ったが、今日は暗い方が良い。とても明るくなんてなれない。そんな気分じゃなかった。


『暗っ、電気付けろよ〜』


と何処からか場違いで能天気な声が聞こえてくる。

でも、何処からの声なのかはわからない。そして声の主は男。

此処は女子寮なので男がいる筈ない。あり得る説としては移動魔法による不法侵入。この部屋には大した金品は置いていないが、弱った私を狙っての計画的犯行なのかもしれない。ならば警戒しなければ。

剣は人並み以下に出来ないけど魔法は人並み以上の以上には出来るつもりだ。並の人間には負ける事は無いだろう。


『電気付けろって!暗いんだけど!』


と先程の声より大きくなったがまだ場所が断定出来な、って、え!?


腕が照明の方へ引っ張られてる!?

まさか透明化魔法か!?



うっ、くうッ、体が勝手に、いやッ!やめて!


全力で照明から腕を離そうとする。抵抗するとみるみる内に照明から腕が遠ざかった。ひとまず勝てた様だ。

それでも、怖い。

当たり前だろう。自分の部屋で誰かも判らない男の声が聞こえたら誰でも萎縮してしまう。だけど何処にいるかもわからない。


恐る恐る、声を喉から絞り出す。


「どこ!?だれ!?一体なんなの?速く姿を見せなさい!」


『こっちのセリフだよ!お前誰だよ!』


声は何故か部屋の至る所からは聞こえてこない。でも耳には聞こえている。不思議な感覚だった。


「私は魔法に才能があって剣に才能がない普通の王立魔法剣士育成学院の生徒よ!」


『魔法ってなんだよ!全然普通じゃねえだろ!』


「魔法は魔法よ!知らない方がおかしいのよ!あんたは何なの!どっから湧いて来たの!?」


『どっから湧いたも何もこれは俺の体だ!返せ!』


今気付いた。この声は耳を介さず直に脳に入っている。だから全然理解が追いついていないが会話は脳内で行われているという事になる。


「返せって何よ!これは100%私の体よ!そっちが消え失せないさい!」


『知らねえよ!この体は俺の物なの!実際俺の意思で動かして俺の意思で戦ったし!」


自分の意思で動かした?私はこいつに乗っ取られてた期間があったのだろうか。それか今までずっと現れなかったもう一つの人格とか。そうだとしたら速く病院に行きたい。それとも病院ではなく悪魔祓いの方だろうか。この乱暴な言動だと悪霊な気もしなくない。

悪霊に体を乗っ取られるのは嫌だ。まずは封じ込めなけば。


「あんた悪霊でしょ!死んで私の体奪ばおうとしたんでしょ!絶対にやらせないからね!」


いや待て、この悪霊は先刻、「自分の意思で戦った」と言っていた。これを私が気絶していた時間帯に起こった出来事、即ち記憶が無かった時間帯に当てはめれば合点がいく。信じられないが、声が聞こえた時点で取り乱し過ぎて冷静に考察するという事を出来ていなかった。本当に信じられないが、この私に憑いている悪霊は、前世で剣の達人だった、なんて今の私に都合が良すぎる。そんなに都合良く世界は回っていない。それは私が一番知っている事だろう。

でも、まあ、事実確認。


「貴方って剣術の達人?」


『うん。』





沈黙が流れる。





「マジ?」


『マジだけど。』




世界は私に都合の良い様に回っているみたいだった。ありがとう神様。これは利用するしかない。


「ねえ、私の体に憑きたかったら私の留年を阻止してくれない?」


生まれてこの方小説に評価がつけられた事がないので初めての評価を付けてくれる優しいお方はおりませんか...?

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