第一節 二話 女体化転生(?)
一節 二話 女体化転生(?)
嗚呼...死んだんだ...俺...
「死」という事実を噛み締め、複雑な感情が混濁する。
まさか高2で死ぬなんて思って無かった。やり残したことがまだ無限にある。剣道で世界最強を目指すという馬鹿げた夢にやっと橋を掛けた所で中断されてしまった。やっと、ここまで来たのに...なんで...こんな事で...
それに高校生なのに青春の1つも体験出来なかった。彼女も出来なかったし、勿論童貞を卒業する事もなし得なかった。
はぁ...これからどうすれば良いんだろう。死んだら何して生きていけば良いんだろう。いや死んでいるから生きていく事は出来ないのだろう。改めてそう思うと更に悲しみが込み上げる。瀬藤なんて放っておけば良かったのだ。
心の底から後悔する。
あの時、死ぬと分かっていれば行かなかったのに......
・・・ところで、俺は何故まだこうして思考を動かして後悔する事を出来るのだろう。
死んだら何も考えられないだろ普通。
その時、
スッと、一瞬_______瞼の裏に光が触れる。
勿論トラックに轢かれて瞼なんてグチャグチャになってるから瞼なんてあるわけが無い。
だが、この感覚に嘘偽りは無い。16年間の人生で体験したことのある感覚、閉じた瞼に日光が当たる感覚だ。この感覚がもし幻で無いなら、もしかして俺はまだ死んでいないのかもしれない。
死んでないなら生きているかもしれない。そう思い俺は意識を肉体に取り戻そうと記憶の大海で必死に踠く。記憶の中で足掻き続ければ続けるほど生きているという感覚はどんどん鮮明になって行く。
俺は死んでいない。生きている。
願望は現実的なものへと昇華してゆく。
そして、唐突な謎の男の声と共に、脳天に木刀程度の重さが叩きつけられる感覚を受ける。
その一発が俺を呼び覚ましたのか、
俺の意識は一気に記憶の大海から引き上げられる。
小鳥の囀る声、少年少女の囁く声。木々が靡く音。この場に存在する音も聞こえ始めた。
そして眼中に先の男の声の主であろう目の前の少年が入る。身長は170あるかないか程度。この辺では見たことのない白を基調とした制服を着ていた彼は、この情報からおおよそどっかの高校生だと思われる。多分同い年くらいだろう。
「ハッ、ようやく起きたか、さっさと立って戦え、カス」
起きるが否や、目の前の少年に罵倒された。
罵倒は兎も角、言っていることがツッコミ所満載だ。「さっさと立って戦え」だと?ふざけるのも大概にして欲しい。俺は軽トラに轢かれた大怪我人だぞ。まず立たせるな。寝かせろ。そして戦うってなんだ。何と、どうやって戦えって言うんだ。色々修飾語が抜けているぞ。そして当たり前だが今は竹刀なんて持ってない。交差点に突っ込んだ時にその辺に投げ捨てたからな。よって武器はない。
と、思うと俺の右手に何かが握りしめてある事に気が付く。木剣だ。何故木剣が握りしめてあるのか現状でははわからない。でも戦いに使う武器はこれである事は何となく理解した。
じゃあ何と戦うのか。
それも直ぐに理解した。
件の発言をした少年が手に持つ木剣を大きく振り上げ、次の瞬間に振り下ろして来たから。
要するに戦う相手はこいつだ。体が何処まで動くのかは未知数だが、大怪我人を起こして剣を交えようっていう不届き者は早急に成敗する必要がある。
俺は地に腰を下ろしたまま木剣で不届き少年の振り下ろされた一刀を受け流す。更に受け流した反動のままに立ち上がり、少年の腰元に手痛いだろう反撃を叩き込む。腰への一撃は見事にクリーンヒットした様子で、不届き少年は腰を押さえながら数歩後退る。
不届き少年は見るからにビビってた。何を驚く事があるのだろうか。お前が叩き起こして手合わせしている相手は16にしてオリンピック出場権を獲得した男だぞ。この程度のアマを圧倒するのは至極当然だ。
たった一太刀でもこの2人の差は歴然。しかし彼は立ち向かう姿勢を崩さなかった。なので俺もいつもの様に構える。こうなれば徹底的にしばき倒してやろう。
「撃剣流だと?何故テメェがそんな物を使えるんだよ!」
撃剣流とかいう理解不能単語が出てきたが、それはそうとして狼狽している事は震えた声色から察せる。
目前の少年は、思いの外ある程度は形のある構えを取った後、距離を自分の間合いまで詰めて来た。ステップの速度も意外にも遅くはなかった為に此方の行動も一刹那遅れてしまったが、それでも尚余裕を崩さず連続の木剣を華麗に捌く。
何度捌かれてもいつかは当たる精神で目前の少年は木剣を我武者羅に振るう。
しかしそれは全て例外なく遇らわれる。当然と言えば当然。一発の重み、勢い、速さが全て遥かに此方が上回っている以上、無駄な連撃は体力の無駄遣いに過ぎなかった。
何度も何度も撃ち込んでるのに全て弾かれ遂に痺れを切らしたのか、少年は連続攻撃に歯止めを掛け、力いっぱいに木剣を振り上げて一撃必殺を脳天目掛けて狙ってきた。
だがその攻撃は理想通り。掌の上である。
待ってましたと言わんばかりに見切り、敢えて木剣で受けず半身になり避け、斜めに素早く袈裟斬りを叩き込む。これも相手が反撃を危惧していなかったからかノーガードで綺麗に決まった。
木剣だから斬れはしないが十分に効いたらしく、彼奴は肩を押さえて蹲っている。ザマあない。
戦いに夢中になって気づかなかったが、グチャグチャ死体のはずの俺は全然余裕で動けていた。直面するは理解に苦しむ常軌を逸した超常現象だが、何かしらの奇跡が起こってリザレクションしたのだろう。この件についてはよくわからな過ぎるからもうそう言うことにして今は保留で。
さて、俺は最初から死んではいないわけだったが、果たして此処は何処なのだろう。周りを見渡すと戦っているのは俺らだけでは無いようで、同じような白っぽい制服を身に付けた男女がペアになって同じように木剣で斬り結んでいた。
何故男女ペアなのだろうか。男と女では明確な筋力の差がある。だからこれは主に女子側に不公平だ。
ん?所でなんで周りは男女ペアなのに俺のとこだけ男同士なんだ?目の前で蹲ってる惨めなアホは声や容姿からして男にしか見えない。実は男装とかいう可能性も否定しきれないが、一般常識的に考えて、漫画やラノベでもない限りあり得ないだろう。
そして一つ、どうしても誤魔化しきれない違和感があった。
さっきから動き続けてずっと思ってたのだが、何故か大胸筋の辺りがいつもより重い。重いと言っても鉄球が乗ってるとかのレベルなどとは程遠く、気持ち数100g程度重い。いつも暮らしてる自分と少しでも差分があると無性に変な気持ちに陥ってしまう。
この重さは何なのだろう。
心臓の音が耳に届くくらいまで大きくなっている。
触ろう。大胸筋の違和感を突き止めよう。
深呼吸をした後、一気に自分の大胸筋に掴みかかる。
己の身の内に秘匿されし禁忌の凸凹の触り心地は、俺の人生に新たなるインスピレーションの超新星爆発を与えた。
・・・薄々気付きつつはあったが、結果は正にその通りであった。揉めるほどは無かったけど。
直後に俺は衝撃と興奮と困惑の三重螺旋構造によって泡を吹いて気絶した。