【元パーティーSide】終わらない下り坂
「こ、こんなはずじゃなかったのに……」
夜。
ギルドの片隅には、意気消沈しているクリスの姿があった。
メイルウルフ討伐前の威勢の良さはどこにも見られない。
「お、おい……たまたまうまくいかなかっただけじゃねえか……。次のクエストはなんとかなるって……。」
「次なんてねえんだよ!」
「……!」
ギルド中にクリスの怒号が響き渡る。
先程から慰めの言葉をかけられているが、クリスはこうして怒鳴り返し、人の好意を無下にしてしまっている。
「ああ……くそっ!」
何故、こうなってしまったのか?
時は半日ほど前に遡るーー
*
「メイルウルフを見つけたら俺に言ってくれ!いつも通り、俺の愛剣で叩ききる!」
「俺はどうすればいい?」
「ポールは敵の気を引きながら、体力を削っていってくれ!後は俺に任せてもらえればいい!」
「……わかった」
独りよがりな作戦を恥ずかしげもなく語るクリスにポールは顔をしかめる。
(こいつはガキか?何のためにパーティーを組んでるのかわかってないのか?)
そんなことをポールは思う。
一人で事を片付けるつもりならパーティーなど解散して、ソロでやった方がいい。
付き合わされるこっちが迷惑だ。
そう口に出そうとするも、それは別の声によって遮られる。
「い、いた!メイルウルフだ!」
吠え声のした方を見ると、そこには体長4メートルほどにもなるメイルウルフが威風堂々と仁王立ちしていた。
「よし……いくぞ!オラァッ!」
ーー敵を見つけたら突撃、圧倒的なパワーで粉砕する。
いつもの作戦の通り、クリスは真っ直ぐにメイルウルフへと向かっていく。
しかし……
「くっ!当たらないっ!」
メイルウルフは木を蹴り、土を踏み、縦横無尽に駆け回る。
クリスの愛剣とやらの切っ先はただ宙を描くだけで、一撃たりとも入れることができていない。
「不用意に剣を振り回すな!隙を突かれてやられるぞ!」
ポールの忠告も虚しく、クリスはひたすらに何も考えず、剣を振り続ける。
そしてーー
「ま、まずいっ!」
痺れを切らしたのか、メイルウルフが頑強な要塞の壁すらも引き裂く爪を剣を振りきり、無防備になったクリスへと走らせる。
(やられるっ!)
瞬間、その爪は別の鋭利な武器によって阻まれた。
「ぐっ!」
ポールは自らの大剣を使い、メイルウルフの爪とつばぜり合いをするように硬直する。
ギリギリと両者一歩も引かない状況……だが、それはあっけなくすぐに崩れた。
「がっ!」
「ポール!」
メイルウルフの持つ強大な動物としての筋力がポールの体を吹き飛ばす。
近くの大木へと叩きつけられたポールは口から血を吐きだす。
「大丈夫か!?早く!ヒールをかけろ!」
「バ、バカ!まえみ、ろ……!」
ポールに気をとられたクリスにメイルウルフの見事なストレートがヒット。
剣で咄嗟に防ぐも衝撃を完全に殺すことはできない。
「くそっ!ヒール!まだなのか!?」
「無理だ!この状況じゃ準備もできない!」
僧侶は回復魔法を使う際、完全に外部からの攻撃にたいして無防備になる。
そのため、あらかじめ自らの安全を確保しておかなければならない。
……ということは。
「!攻撃魔法なりなんなり打ち込んで足止めしろ!」
「無茶言わないで!そんなことできるわけないでしょう!?」
魔法使いも同様に自分の身の安全が担保できない場合、迂闊に魔法を使用することはできない。
「ちくしょお!ポールは俺が抱えていく!退却だ!」
クリスの情けない声が森中に響き渡る。
そうして、クリスたちはひたすらにメイルウルフから逃げた。
*
「いってぇ……なんでこんなことに……」
ヒールを掛けられながら、クリスはそんなこと呟きをする。
なんとも情けないないが、それはクリス以外の全員の総意でもあった。
「……ちょっといいか?」
あらかた回復することができたクリスたちにポールはそう言う。
「お前たちは……本当にAランクのパーティーなのか?」
「「「……は?」」」
ーー馬鹿なことを言うんじゃない。当たり前だろ。
そんな意味を持った「は?」が三人の口から漏れる。
「な、何を言い出すんだ?急に?」
苦笑しながらそんな質問をする。
「お前たちのさっきの無策な戦い方……とても上位パーティーの戦い方とは思えない。普通ならメイルウルフのような強敵に対して、ある程度の策を持って対峙するぞ?」
元Sランクパーティー所属であるポールの言葉は重い。
一時期は冒険者たち全員が尊敬するような圧倒的な剣士だったのだから。
しかし……
「そ、そんなわけはない!たまたま運が悪かっただけだ!」
そんな弁解をするクリス。
ポールはそれを見て、いよいよ『こいつらはダメだな』という結論に至る。
(失敗をしたときに省みもせず、『運』のせいにするのは弱者の証拠だ)
彼の気持ちがそんな風に完全に傾きつつあったその時のことだ。
ーーこれでクエストは完了だな。
ーーええ。さすがね。1本も外さない弓の精度!
ーー『五大矢』なんてなくても全然平気だね?
ーーアタシのサポートも完璧だしな。ジンが来てくれてよかったー!
談笑しながら森の出口へと去っていく男女。
そこには『療養中だ』と説明されたジンが怪我など何もしていない状態でトコトコと歩いていた。
「……おい。お前だったか?ジンが『療養中だ』って言ったのは?」
語気を強くしながらポールはクリスへと迫る。
「あ、ああ……。なんだよ……いきなり?」
「あれが療養中のやつの姿なんだな。」
ポールはそうやってジンの方を指差す。
瞬間、クリスはサッーと血の気が引けていくのを感じた。
「お前の言ったことは嘘だった。……というわけで今すぐにこのパーティーを去らしてもらう。短い間だったがあばよ。」
「ちょ!ちょっと待ってくれ!」
クリスはそんな風に嘆く。
しかし、ポールがそれに耳を貸すことはない。
ーーこうして、クリスはクエスト失敗と新規メンバーの即脱退という二つの大きな問題を背負うことになった。
三人称にまだ慣れない……。
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