【元パーティーSide】悪化していくクリスの状況
「……というわけでお願いいたします。」
「おう。……お前ら!出発するぞ!」
威勢よくメンバーたちを率い、あるクエストへと旅立つ男の名はクリス。
Aランクパーティー・『パワーオブザワールド』のリーダーとギルド・『ザ・マウンテン』の幹部を務める男。
そして……我らが主人公であるジンを追放したその人でもある。
「今回はなんのクエストだ?」
「聞いて驚け……メイルウルフだぞ!しかも、クエスト依頼者は国王陛下だ!」
メイルウルフ。
素早い動きから繰り出す鋭い攻撃を武器とし、体を生半可な剣など通さない堅い体毛で覆った危険度Sに分類される魔物だ。
通常、町に近づくことは少なく、特定のダンジョンなどでしか見られない強力な魔物であるはずなのだが……最近になってやたらと王都付近で姿を現すようになった。
被害も日を追うごとに拡大してきており、見かねた王が直接、討伐依頼をギルドにしたというわけだ。
「ギルマスからもこのクエストの成功は俺たちのギルドの昇格に関わると言われている……気合い入れていくぞ!」
「おう!」
パーティーメンバーの一人がのかけ声へそう答える。
その時、
「おーい。『パワーオブザワールド』っていうパーティーは此処であってるか?」
声をかける大男。
2メートルにも達する高身長で、背中にはさびがところどころに目立つ大剣を携えている。
「俺はポール。助っ人として呼ばれたんだが……」
「ああ!よく来てくれた!ありがとな!」
彼は以前、ギルマスからジンの代わりに手配すると言われていた元Sランクパーティーの助っ人だった。
如何にも歴戦の強者といった風貌であるし、普段の、パーティーメンバーに対して上から目線のクリスはみる影もない。
クリスが物を深く考えられない阿呆であっても、その程度の配慮くらいならする。
「……ところで」
「なんだ!?何か気になることでもあるのか!?」
「……ジン、などというアーチャーは何処にいるんだ?」
「……はい?」
何故、こんなところであんな役立たずの話を持ち出すのだ。
わけがわからないぞ。
……とクリスは心中でそんなことを呟く。
「あ、あいつは此処のパーティーにはいないぞ?それがどうかしたか?」
「いないというのは……何か理由があって此処を去らざるを得なくなったのか?彼ほどの逸材が理由もなくパーティーから姿を消すとなるとそれ相応の理由が必要だと思うが……?」
「……は?」
クリスの口からすっとんきょんな声が漏れる。
彼にとって『ジンが有能』だなどというのは戯言にすぎず、元Sランク冒険者であるポールの目に止まるとは思えないのだ。
「ど、どうして急に彼のことなんかを?」
「なんかだと……?」
ポールの目元が険しくなる。
「……念のため聞いておくが、彼をまさか"追放した"なんてことはないだろうか?俺は彼がいるからこそ、わざわざ遠くからこのパーティーに来たんだぞ?」
「そ、それは……」
あからさまにクリスが目をそらす。
それを見たポールは色々と察し、「もういい」とクリスを制する。
「……来たところ悪いな。俺はこのパーティーに入るつもりはない。じゃあな。」
「……は?ちょ、ちょっと待てって!」
突然、「もう帰る」と言い出したポールに困惑するクリス。
元Sランク冒険者である彼にはどうやっても『パワーオブザワールド』に留まってもらわないといけない。
そう考えたクリスはつい、こんなことを口走ってしまった。
「あいつは……そう!ケガをしちまっててさ!療養中なんだよ!」
完全にでちあっげの理由をポールにパーティーへ加入してもらえるようにするためだけに説明する。
どうにも疑心暗鬼のポールだったが……
「まあ……そういうことならいい。ジンが治って帰ってくるまではひとまず居よう。ただし……」
「ただし……?」
「一週間以内に彼が帰ってこない、または君の今の発言が嘘だったとわかった時点で俺はパーティーを脱退する。」
「……!」
そうして、クリスは自らずんずんと首を絞めていく。
それに本人が気がつくのはもう少し先のことである。
遅れてすいません……。
あと一つご報告が……。
諸事情により、投稿ペースの低下が予想されます。
楽しんでくださっている方はどうかご理解のほどをお願いいたします。
(いつもの一言)
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