正しい評価
「ようこそ、いらっしゃいませ。今回はどのようなご用ですか?」
ギルド・『ウイニングロード』に着き、中へと入ると受付の女の人が丁寧な口調でそう問いかけてきた。
「此処の試験を受けたくて……受験可能ですか?」
「ええ。いつでも受け付けているので大丈夫ですよ。当ギルドのステータスチェックを受けたことはありますか?」
「いえ……」
「では私が説明した通りにやってしまいましょう。まず、この窪みに触れてください。」
言われた通りの窪みへと手を置く。
窪みにはツルツルとした水晶が埋め込まれており、見ているだけでも綺麗だ。
しばらくすると、その水晶の部分が眩く光り始めた。
「出ましたね。……えっと」
Name:ジン
HP:17/100(Fランク)
MP:33/100(Eランク)
攻撃力:41/100(Dランク)
防御力:12/100(Fランク)
素早さ:36/100(Eランク)
精密さ:100/100(Sランク)
「精密さの評価点が100点満点中100点!?」
ギルド中に響き渡るような声をあげる受付係さん。
驚いてもらうのは嬉しいが……どうせ、冒険者としての評価には値しないのだろう。
いわく、冒険者はパワーが一番の武器だからだ。
「これ……凄いんですか?」
大した期待もせずにそう聞いてみる。
しかし……その回答は予想外すぎるものだった。
「とんでもない逸材ですよ!Sランクなんて10000人に1人くらいでしか存在しないんですよ!?」
「でも所詮、精密さなんて……」
縫い物やら折り紙にしか使えない、戦闘には不向きのスキルだ。
確率的に『凄い』としても、有用かどうかで言えば……
「"精密さ"なんて……?」
「……へ?」
さっきまでの柔和な表情から一転、受付係さんの目が鋭くなる。
「お、俺……何かおかしいこと言いましたか?」
恐る恐る尋ねてみる。
「……貴方は前に"何処か"のギルドに所属していたりしましたか?」
『何処か』という部分をやたらと強調しながら訊いてくる。
「一応、『ザ・マウンテン』に所属していましたけど……」
「……はぁ」
俺の躊躇いながら口に出した答えを聞くなり、受付係さんは『お客の前など関係ない』と言わんばかりに溜め息をついた。
「……ジンさん?」
「は、はい」
鷹のような視線に思わず、スクと姿勢を正してしまう。
「ジンさんが『ザ・マウンテン』で……特に幹部から学んだことはすべて間違いです。」
「……えっ!?」
「あのギルドでは『パワーだけが正義』と教えています。……ですよね?」
「そ、そうですけど……」
何故、別ギルドの受付係さんが俺の元いたギルドの教育方針を知っているのだろう?
「『パワーだけが正義』というのは全くの間違いです。あのギルドは前々からそのような"偏った"教育をしていることで、他のギルドから問題視されてきました。」
「……ぇ」
「確かに『パワー』というのも一つの力です。高い『パワー』を持っていること自体は何の問題もありません。……しかし、『パワー』以外の様々な能力を認めないのは大問題です。」
「……」
……なにやら、とんでもないことを言われている気がする。
俺の教えられてきたことを全否定だ。
「人はそれぞれ得意なことが異なります。それをいかに上手く生かせる環境を整えるか、これが私たちギルドの役目です。にもかかわらず、『ザ・マウンテン』は『パワー以外は駄目だ』との題目を掲げ、その役目を放棄しているのです。」
「は、はぁ……」
畳み掛けるように語られ、いかにも気圧されたような反応しかできない。
……そんな、俺を見た受付係さんはさらにこう言ってきた。
「これだけは覚えておいてください」
「……何ですか?」
「ジンさんは精密さにとても秀でています。それを誇ることさえすれど、貶すことはするべきではないです。貴方には貴方の得意分野があるのです。」
「つまりこういうことですか?……俺はパワー重視の不当な評価をされなければ、無能じゃないと。」
「はい。……ですよね、ギルマス?」
「ああ。その通りだ。」
突如として現れた第三者に受付係さんが問いかけた。
ーーがたいのよい体に少々強面だが、キリとしており、誠実であると言える顔。
質実剛健を具現化したような男だ。
「俺は此処のギルドマスターを務めているボワードだ。とりあえず、一次試験のステータスチェックは文句なしの合格だな。これから二次試験に移る。期待してその実力、拝見させてもらうぞ?」
「は、はい!全力を尽くします!」
そうして俺は言われるがまま、ボワードさんの後をついていった。
本日の投稿はこれがラスト!4話は明日に投稿する予定です!
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