登場
「ま、まずいっ……死ぬっ……!」
今日も今日とてピンチに陥っているジンの元パーティーリーダー、クリス。
しかし、今日のピンチは今までとは比較にならない。
「こんな大物と遭遇するなんて……!」
目の前には上位の魔物である竜族の中でも最強と名高い、獄竜・ホロウズドラゴ。
今にもホロウズドラゴを最強たらしめる必殺技、『ヘルインフェルノ』を吐き出さんとしている。
「ああ……悪かったよ、ジン……」
残りHPの彼の脳裏にジンを捨ててからの出来事が蘇る。
ポールに逃げられたあれからも彼はズブズブと終わることのない人生落下の沼へと沈んでいき、今ではパーティーメンバーさえなくし、Cランクのソロ冒険者となっていた。
彼を助ける者も、彼と共に“仲間”として活動する者ももういない。
「お、俺はこんなはずじゃなかった……今ならよくわかるぞ、ジン。お前の存在に俺たちがどれほど救われていたか……」
ジンのいたことで得られた功績。
頑なに「ジンの追放」が彼自身のパーティーレベルの悪化を認めなかったクリスだが、ここにきてようやくそれを理解していた。
「あんなことしなければなぁ」
そんな後悔を胸の内に抱くが、覆水は盆に返らない。
既にジンと関係を修復できる時期はとうの昔に過ぎていた。
『グオアアアアアア!』
大きな咆哮が彼の思いをいっきにかき消す。
そして次の瞬間、彼を死へと送る強力な竜の息が放たれたーー
*
「今日はなんのクエストいくの?」
「どうしようかしらね」
メイルウルフの討伐から1週間後。
俺たちは報酬金目当てに何かちょうどよい依頼がないかとクエストボードを確認していた。
「どれもこれもパットしないよね。この前のメイルウルフくらい手応えがあるやつじゃないと嫌だな」
可愛い顔に似合わず、そんな好戦的なことを言っている。
まあ……確かにその気持ちはわかるけどな。
「でも早いとこ決めねえと日が暮れちまうぜ?アタシみたいなか弱い女の子が日暮れに出歩くのはよくないだろ?」
その口調と態度からして『か弱い』というのは無理がある。
大いに異論を申し立てたい気分だな。
「でも、本当にどうしましょうかね?こうやっているだけじゃ何も決まらないわよ?」
さすがは我らがパーティーリーダー、カタリナ。
ふわふわとした俺たちの雰囲気を変えてくれる良い指摘をしてくれた。
そんな若干、上から目線な感想を抱いていたその時のこと。
「大変です!皆さん、ギルドホールまで集まってください!」
受け付け係さんの大声がギルド中に響き渡る。
普段は静かに案内をしてくれる人だけにわりと衝撃の瞬間だ。
「まだ決めてないけど……仕方ない。いくわよ!」
カタリナのあとに付いていきながら、ギルドホールと呼ばれるギルドのなかでも重大な報告をする際などに使われる施設へと行く。
そこではいつの日かぶりのギルドマスターが設置された壇上に立っている姿があった。
「皆、落ち着いて聞いてくれ」
やたらと神妙な面持ちでこう言う。
「一体なんだろう」と言う空気が俺たち、冒険者のなかに漂う。
「以前、メイルウルフの討伐に行ってもらった場所。何人かの冒険者は行ったことがあるだろう?覚えているか?」
もちろん、覚えている。
大して日も経っていないしな。
「彼処である魔物の出現が確認された。驚かずに聞いてほしい。」
「なんだよー。早く言ってくれよ、ギルマスー。」
勿体ぶるギルドマスターにブーブーと文句が出る。
しかし、そんなざわつきは次のマスターの一言で完全に消えた。
「出現した魔物は“獄竜・ホロウズドラゴ”だ」
〈いつもの一言〉
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