ピースフル・タイム
「ただいまー」
「おかえり。 今日は早かったわね」
「思ったよりもスムーズに討伐クエストが終わってな。身体を休めるために早く帰るように言われたんだよ」
前の『ザ・マウンテン』では予定していたクエストを終えたとしても、早く帰ることなどできず、追加のクエストへと行くように命じられた。
『身体を休めるなんていう無駄な時間があるなら、苦労して自己研鑽に励め』という言い分だったが……ただ単純に理不尽な命令だったな。
「まあ、なにはともあれお疲れさま。夕飯ができるまで時間があるから先にお風呂にでも入ってちゃいなさい」
「へいへい」
「あと洗濯物はそのかごに入れといて。洗っておくから。」
「おう」
イメルダは何から何まで口を出してくる。
「お前は俺の母親か」とツッコミそうになってしまうが、それを言うといつも怒り出すのでなんとか我慢した。
…………。
…………。
……と、そんなこんなで今は夕食中だ。
今日のメニューはイメルダ特製ビーフシチューに、イメルダ作のバゲットだ。
シチューにバゲットを絡ませ、口へと運ぶ。
カリっとしたバゲットの食感ととろけるようなシチューが絶妙にマッチしていて美味しい。
一口一口よく楽しみながら食事を進めていく。
「ところで、今日の討伐依頼ってなんだったの?」
「ん?ああ。まだ言ってなかったな」
俺は家に帰ると必ずイメルダに『今日の出来事』について話すことにしている。
最初はたまにイメルダから聞かれたときに話すくらいだったのだが、イメルダの好奇心を満たしてあげられるし、俺自身も自分の冒険譚に伝えたいしでどちらにもメリットしかないのでいつの間にか日課になっていた。
「今日はメイルウルフの討伐だったな。さすがに味方がSランクパーティーなだけはあって、すぐに仕留められたよ。皆がメイルウルフを足止めしてくれたおかけで俺が独りで必死に狙いを定めなくてもよかったし。」
「前の『パワーオブワールド』の人たちはジンに全部任せっきりだったからね。今はどうしているのかしら。」
俺の持ちうる情報としては『メイルウルフ討伐に失敗した』ということくらいしか知らない。
実際、接点もないし仕方ないことなのだが。
ピンポーン
「なんだ、お客さんか?誰だろ?」
「……さあ?」
イメルダが立ち上がり、玄関の方へと向かう。
その間にこっそりとイメルダのビーフシチューから肉を拝借。
自分の分は食べ終わってしまったから、補給しなきゃいけないのだ。
「え!?ポール!?」
「久しぶり。入っていいか?」
「もちろん、いいわよ!どうぞ!どうぞ!」
玄関から楽しそうなイメルダの声が聞こえてくる。
知り合いだろうか?
「お邪魔します。おっ、君は……」
初対面にも関わらず、俺のことをまじまじと見つめてくる知らない男。
大柄な体で、背中には大剣を背負っている。
いかにも"戦士"といった風貌の男だ。
「ど、どうも……僕はジンです。ここでイメルダと一緒に暮らしてます……」
反射的に縮こまってしまい、イメルダと同居しているというのが妙に悪いことのような気がしてくる。
「やっぱりか!俺はポールって言うんだ!イメルダとは前にSランクパーティー仲間だったことがある!」
「イメルダと一緒だった……てことは『ウイニングロード』にいたってことですか?」
「そうだ」
肯定したポールさんへと俺は握手を迫る。
こんなところで大先輩と遭遇したんだ。礼儀は尽くしておこう。
「そういえば、ジンは『パワーオブ』なんちゃらをやめたそうだな。何があったんだ?」
「っ!?どうしてそれを!?」
「この間、助っ人として呼ばれたんだよ。」
露骨に嫌そうな顔をしながらそう言う。
「どうだった?5段階で評価すると?」
「1にも満たないな」
イメルダの問いかけにポールさんのキツい評価。
前もって打ち合わせていたような『パワーオブワールド』disである。
「あいつら……特にリーダーは自分に酔いきってる。全て自分が手柄をとらなければ納得しないんだよ。あれじゃあ、まともに戦えるわけないな。」
俺が去った後も変わっていないということか。
前からクリスについては『いい加減にしてくれ』と思っていたが……口に出すと殴られるから出さなかったんだよな。
「俺はジンと一緒に活動できると思ったから行ったのに……ジンはもうやめさせられてるみたいだったしな。」
「え!?お、俺と!?」
さっきまでの『僕』は何処へやら。
動揺からいつもの一人称へと戻ってしまう。
「そんなに驚くことないだろう。町では既にジンという名は『ケイロンの生まれ変わり』だなんてあだ名で有名だぞ?」
神話の登場人物のひとり、神の射手・ケイロン。
あらゆるものを一撃で仕留める神の弓矢とその天才的な腕でもって、神界に攻めこんだ悪魔を根こそぎ殺し尽くしたという逸話が残っている。
そんなものの『生まれ変わり』だなんて……俺には荷が重すぎる。
嬉しいけど。
「それな『ジンファンクラブ』なんて者もできているしな。」
「……は?」
「なんでも『ジンの塩顔はすごいタイプ!ヤバイ!付き合いたい!』とかずっと言ってるとかなんとかいう話を聞いたな」
俺の顔に需要があるなんて思ってもみなかった。
ビックリ仰天だ。
……まあ、それよりも本人の意思無視でファンクラブを作るのはどうなんだ?
本人的には恥ずかしくて嫌なんだけど。
「ジンの話ならまだあるぞ」
「まだあるんですか!?もういいですよ!」
「えー。私は聞きたいわ。構わず話してちょうだい?」
「うむ。イメルダとは長い付き合いだしな。構わないぞ」
そんなこんなで俺はファンクラブの最近の活動やら俺の家を特定する動きがはじまっていることなどなんだかんだで為になる情報を提供してくれた。
そして、数時間後、ポールさんは帰っていった。
「普通に良い人だったな……」
「当たり前でしょ?私の大切な友達なんだから。」
嬉しそうな表情でそう言う。
彼はイメルダにとってそれほど大事な存在だということがひしひしと伝わってきた。
「ま、大切な人っていうのはジンも一緒だけどね?」
「……恥ずかしいからやめてくれ」
流れ弾がこっちにも飛んできた。
シチュー用のスープには顔を真っ赤にした俺の顔がうつっている。
「とりあえずさっさと冷める前に食べちゃうわよ。」
「お、おう……」
イメルダに促され、ほうっときぱなしになっていた食事を再開する。
そうして、俺とイメルダの穏やかな時間は過ぎていった。
……ちなみに。
俺がイメルダの皿から肉を盗ったことがバレ、そのお詫びとして高級ケーキを買わなきゃ行けなくなったのだが……それはそれである意味、穏やかな時間であった。
久しぶりのイメルダ登場、久しぶりの投稿。
『久しぶり』ずくしでテンション上がりますね。
(遅い投稿、本当にすいません!)
〈いつもの一言〉
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