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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鮮血に染められて

作者: れもん

雨の日が続き、なんとなく心が鬱になっていた。洗濯物はたまり、部屋は湿気で鬱陶しい。しかし、幸運にも明日は晴れ予報。だから、前島 和樹は彼女にLINEを送った。

「明日、デートにいこう」

すぐに返信があった。返事は

「OK」


だが、和樹はLINEを送ったことに後悔した。まさか、あんな思いをするなんて・・・



2人のお気に入りのミュージシャンのCDを流し、和樹とその彼女は車でとある山奥の遊園地に向かっていた。彼女の名前は水崎 鈴花。同じ大学に通っていて、お互いに好きなミュージシャンが同じでそれをきっかけに交際することになった。



「ねぇ、遊園地に行ったら、まず何に乗る?」

鈴花が和樹に聞いた。だが、和樹は特にこだわりはないので

「鈴花は何に乗りたいの?」

「えっ、私、ん~何かな~。やっぱりジェットコースターかな。」

「いきなりハード過ぎない?」

「えー、いいじゃん。ジェットコースター楽しいじゃん。」


そんな話をしているうちに目的地の遊園地に着いた。

だが、


『臨時休業』


まさかの臨時休業。せっかくのデートが台無し。

「うわ~、マジかよ。最悪。」

「ねぇ、和樹。遊園地やってないじゃん。」

鈴花が不機嫌そうな顔で痛々しい言葉を言ってきた。

「ちゃんと調べてきてよ。」

「待って。確かこの近くにもう一ヶ所、遊園地があった気がする・・・(そんなのわからないけど)」

鈴花の不機嫌さについ言ってしまった。

「ほんとに」

「たぶん、ある・・・」


それから、車の中での沈黙の時間が始まる。CDの音だけが流れて。だが、それはあまり心地の良いものではない。鈴花はずっと外を向いて話す気などさらさら無い。一方、和樹は鈴花の機嫌を取り戻そうと必死で辺りを探す。

(頼むどうかあってくれ)



しばらくして、CDの音が止まった。それからまたしばらくして、願いが届いたのか漸く遊園地を見つけた。

『彼岸花遊園地』

その名の通り辺りは彼岸花で敷き詰められていた。まるで鮮血で染められたように。不気味さを添えて。

「ほんとうにあった。」

和樹は驚きつつも、心の中で胸を撫で下ろした。

「早く、いこうよ」

鈴花は和樹の手を引いて、子供のようにはしゃいで機嫌を取り戻したようだ。


そこは不思議な遊園地であった。あまり人がいない。いると言えばいるのだか、なぜか、ジェットコースターだけに人が並んでいる。だが、そんなことは気にせず鈴花は

「ラッキー、乗り放題じゃん。」

大はしゃぎ。

「そうだね。じゃ、行こうか。」

和樹は心の中で不思議な違和感を覚えていた。違和感というよりむしろ恐怖を感じている。



メリーゴーランド、観覧車、さまざまなアトラクションに乗り、ひとときの楽しい時間を過ごした。もはや、違和感などは忘れて。



「和樹、ジェットコースター乗ろう。」

鈴花はジェットコースターを指差して言った。そのジェットコースターは思ったより大きかった。遊園地を大きくぐるっと一周し、高低差もすごそうだ。定員は20人ほど。

列には子連れの人もいて、子どもはリュックの赤い鈴を鳴らし、楽しそうにはしゃいでいる。髪を結んでいるので女の子だろうか。和樹たちはその後ろに並んだ。一回待って次の番になるかと思ったが、すぐに乗ることができた。和樹たちは一番後ろの席に座った。

ベルトを締め、ついに動き始めた。だんだんと坂を上がり、体が傾いていく。体が少しこわばり、心臓がドクッドクッと大きく拍動する。

「ねぇ、和樹怖い?顔こわぼっているよ。」

「まっ、まさか。そんなこと・・」

ギュゥゥゥン。いきなりの急降下。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

和樹は目をつぶった。

正直に言うと和樹はジェットコースターが苦手だ。ただの強がりだ。彼女の前でカッコ悪い姿は見せられない。



スタートから半分が通過した。だが、まだ勢いはおさまらない。後半はアップダウン。これが和樹にとってはかなりきつい。そうして、漸くしてからゴールが見えてきたが

「えっ」

通りすぎてしまった。

「ガチャン!!」

何かが外れた音がした。刹那、時が止まった。そして、世界が反転した。





目が覚めた。心臓が大きく早く拍動しているのがわかる。今までにないくらいに。額は冷や汗をかき、手は手汗でびっしょり。何が起きたのかわからない。


「何でベンチに座っているんだ?確かさっき、ジェットコースターに乗って・・・思い出した。」

その時、和樹は背中が凍ったのを感じた。隣には鈴花が眠っている。何かにうなさられているようだった。和樹は急いで鈴花を起こした。

「おい、起きろ!」

はっと鈴花は目を覚ました。和樹は彼女の肩が震えているのを視覚でも確認することができた。

「あれ?ねぇ、私たちさっきまで」

「わかってる。この遊園地は何かがおかしい。」

和樹はすぐにスマホを取り出し検索を始めた。

「確かここの遊園地の名前は、彼岸花遊園地。」

和樹は震える指で一つ一つ文字を打ち始める。するとそこに表示された検索ワードは


『彼岸花遊園地 事故』


そこには次のように書かれていた。

6月某日、彼岸花公園にてジェットコースターが転落。

原因不明。死者 大人15名 子ども3名 計18名。


「嘘だろ・・・待って、死者が18人。確かあのジェットコースターの定員は20人。と言うことは俺達以外の人たちは・・」

こわばる震える指でさらに調べるとある写真が目に止まった。それはにわかには信じられない決定的な証拠。

「和樹、この写真の子、さっき私たちの前にいたよね・・」


その写真の子は和樹の前にいた女の子。間違いはない。その女の子の横に赤い鈴を付けたリュックがある。女の子は頭部から血を流し、包帯で覆ってはいるものの鮮血で染まっていく。和樹の脳内で入り口で見た鮮血の彼岸花が重なる。


「早く、ここから出よう。ここ気味悪いよ。」

「あぁ、わかってる。早く出よう。」


その時、

『チリン』

鈴の音がした。ゆっくり前を見る。『ビクッ』 一瞬、心臓が止まり、体が動かなくなった。信じられない。目の前に、赤い鈴を付けたリュックを背負った女の子が現れた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、あ・そ・ぼ。」

女の子は無垢な笑顔を浮かべて言った。一歩一歩、チリンチリンと鈴を鳴らし近づいてくる。


「早く逃げるぞ。早く!」

「う、うん。」

和樹は震える鈴花の手を引いて、出口へと向かう。だが、鈴花がついてこない。

「何をしている。早く!」

「女の子が袖を掴んで離れないの!」


女の子は小さな手で鈴花の手を握っている。ありえない力で、幼い子供とは思えない力で。鈴花はその手を離そうとするがびくともしない。にも関わらず、女の子は悲しそうに涙を浮かべ見つめてくる。


「お姉ちゃん、遊んでくれないの。」

「そんな顔しないで。離れてよ!」

「鈴花、そのコートを脱いで!」

鈴花は急いでコートを脱いで、和樹と共に出口へ向かう。



「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

無事、出口から抜け出すことが出来た。近くに女の子の姿は見当たらなかった。しかし、後ろを振り向くと、さっきまでとは違う光景があった。そこはさっきまでの遊園地とは違う。不気味という言葉で片付けられ光景ではなかった。遊具の塗装は剥がれ落ち、たくさんのゴミが捨てられ、鮮血の彼岸花などではない、黒緑の雑草に覆われ、腐った錆の臭いが蔓延している。


「和樹、早く車出して。」

「わかってるよ。」

まだ、強く心臓が拍動しているのがわかる。

急いで車を転換し、遊園を遊園地後にしようとしたとき、サイドミラーに頭から鮮血を流した女の子が映った。赤い鈴を付けたリュックを背負って。不気味で無垢な笑みを浮かべこう呟いた。


「また、あ・そ・ぼ」






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