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GIN  作者: 軽村蒼
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第2話 新井拓人

「ここが"面談室"か」


 悟は警察署内に存在する"面談室"と呼ばれる部屋の前に来ていた。

 面談室とは、捜査に関係するであろう対談を敢えて監視の元で行うための部屋だが、そもそもそういった形で対談を求める者が少ない故に、滅多に使われることはない部屋である。


 他警察官でさえも滅多に使用することない部屋だ。ましてや情報交換の類に全く携わらない悟など、一生縁がないものと思われていた。


「まさか俺がここを使う羽目になるとは」


 初めての面談室を前に少しばかり緊張する悟。

 既に悟との面談を求めているchameleonメンバーは面談室の中である。


 悟は警察署の神能対策部GINに勤務し始めてから一年が経過しているが、神能が強力な部類であるため、部内でも頼られている部分が多く、腕にはそこそこ自信がある方だ。


 しかし、いくら部内では上位の戦闘能力を誇る悟でも、あのchameleonメンバーが相手となれば話は違う。


 面談室は取調室とは異なるため、相手を拘束する手段は存在しない。

 それはつまり、面談室でchameleonが攻撃を仕掛けてきた場合には悟自身がchameleonと戦闘しなければならないという事を意味する。


ー それだけはごめんだ‥


 あれこれ様々な考えを巡らせていると、気づけば5分が経過していた。

 いつまでもドアの前で立ち尽くす悟に、隣部屋で今回監視を担当しているGINリーダーの佐々木潤ササキジュンが流石に痺れを切らし、手で「早く入れ」と合図を送る。

 

 リーダーの合図に、悟は逃げ場なしか‥と諦めて漸くドアノブに手を掛けた。


「さて、鬼が出るか‥蛇が出るか‥」


 そして覚悟を決めた悟は、面談室への扉を開く。


「おぉ、まっていましたよ」


「どうも」


 面談室内は、取調室同様机と二人分の椅子しか見当たらず、壁はブラックミラーのようで、隣部屋から監視できる構造となっていた。

 

 そして奥のお客様用の椅子‥つまりchameleonメンバーと名乗る男が、ごく一般的な笑顔で悟を迎える。


ー こいつがchameleonメンバー‥?


 その男は普通だった。


 比喩的な意味で普通と言っているわけではなく、本当に"普通"なのだ。

 年齢は25歳ほどだろうか。

 日本人で圧倒的多数を占める黒髪で、街中で歩いていたら一度は見かけるようなパッとしない顔立ちをしており、体型も一般的な成人男性程度でしかない。


 確かに武力、魔力の量と体型は比例しないが、その武力と魔力さえもあまり感じられないのである。

 少なくとも数百人規模の人間を殺した大犯罪者チームの一人とは、お世辞にも思えない。

 

「失礼ですが、名前をお聞きしても?」


「あ、これは失敬。私はchameleonの一人、新井拓人アライタクトと申します。本日は悟さん。貴方に話したい事があったため、ここまで来た次第です」


「ん‥」


ー 新井拓人‥


 今朝、巧に見せられた書類情報によると、chameleonメンバーで既に素性が割れている二人の名前は『新井拓人』と『リア』。

 この情報はGINのみの極秘情報であり、世間には勿論のこと、GIN以外の警察署内部でも公開はされていない。

 

 つまり、この男は"新井拓人"がchameleonメンバーであることを本来ならば知り得ないのだ。


 しかし、一つだけ"新井拓人"がchameleonメンバーである事を知っている事が十分にあり得る場合が存在する。


ー こいつは"本物"だ


「新井拓人‥ね。俺は神能対策部GINの西村悟という。早速だが、今回わざわざ警察署にまでやってきた理由はなんだ」


 目の前にいる男がchameleonメンバーである可能性が悟の中で跳ね上がった今、悟に纏わりついていた緊張の縄は完全に解け、その目つきは鋭利で鋭い狩人の目つきに変わっていた。


「今回は貴方に一つ依頼を受けて欲しくてやってまいりました」


「依頼?それはお前達chameleonのお得意分野じゃないのか?」


「えぇ、勿論。しかし今回は我々chameleonから貴方に対する依頼です。」

 

「chameleonから俺に対する依頼‥」


 悟は話の続きを聞くべきか否か悩んだ。

 もし話の続きを聞いてしまえば、そこからはその依頼を受けるか受けないかの二択になってしまう。

 受けない‥が最も楽な選択だが、依頼を一度聞いてしまえば恐らくその選択肢はchameleonが許さない。


 しかし逆にここで話を遮断してしまえば、一時的にこの対談を休戦状態とし、GIN他メンバーとどうするべきか話し合う機会を作る事ができる。


「‥」


「‥取り敢えず内容を聞かせてもらおう。話はそれからだ」


 chameleonとの戦闘はなるべく避けたいところだが、わざわざ警察署にまで出向いての依頼である。

 何かしら重大な話である事を予期した悟は、話を聞く価値はあると考えた。


「では、説明致します。近頃犯罪件数1位を誇る"闇の11番街"で妙な動きが見られます。」


「11番街で、妙な動き?」


 闇の11番街‥この国『聖帝セイテイ』には15の街が存在し、街ごとに約500万という数の人が密集している。

 その中で11を除いた14の街でそれぞれ警察署が建てられており、神能対策部が存在する警察署、つまり今悟達がいる街は13番街にあたる。


 そして警察署が唯一存在しない11番街は、犯罪件数が他街と比べ頭一つ抜けており、大事件が多発する街として全警察団体が常に警戒していなければならない街であり、危険区域として認定されている。


 そこからついた名称が、『闇の11番街』である。


「えぇ、11番街で国に対する反乱軍のようなものが現れているのです」


「反乱軍?なぜそんなものが」


「"神能使用禁止法"、この法律により神能の使用を制限された者達が納得がいかないようで、法律を変えないのならば国を乗っ取ろうと立ち上がったようです」


 神能使用禁止法‥国が認めた者以外が神能を使用する事は違法とし、万が一使用した場合は即刻逮捕され罰が下される法律。

 

 元々神能はおよそ10万人に1人の比率の者しか持たず、神能を持たない者が大多数を占めるこの国において、この"神能使用禁止法"の制定には時間が掛からなかった。

 勿論、神能を持つ者は強く反対していたが、圧倒的少数派である彼等の意見は通らず、今のこの状況に不満を募らせている者は少なからず存在している。


「なるほど‥な。そしてそいつらを俺達に壊滅させてくれ‥と?」


「いえ、そういうわけでは」


「違うのか?」


「この法律に反対している人は決して少なくはありません。それら全てを‥なんてことは例え対策部の皆さんでも簡単ではないでしょう。ただ‥」


 新井は顔を深刻そうにして続けた。


「この反乱軍の一件。どうやら"黒"が関与しているようなんです」


「なんだって?!」


 驚愕の発言に悟は思わず席を立った。

 その額には汗が滲み出ており、身体は微かに震えている。


 目の前の新井は、まるでその反応を待っていたかのように、微動だにしない。


「黒の組織の壊滅。引き受けていただけますよね?」


 新井は悟の真剣な眼差しとは対照に奇妙な笑みを浮かべていた。

 確信があったのだ、悟は必ず引き受ける‥と。

 

 そして新井の考え通り、


「あぁいいだろう、その依頼引き受けた」


 悟はchameleonからの依頼をあっさりと受け入れた。

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